相鉄いずみ野線の歴史と可能性を探る――延伸はどこまで?平塚発いずみ野線経由都心行き列車は実現するか【コラム】

相鉄いずみ野線も走る20000系電車。20000系は企業ブランドイメージを向上させる「デザインブランドアッププロジェクト」のコンセプトを反映した初の新型車両として2018年に登場しました(写真:鉄道チャンネル編集部)

「相鉄・東急直通線」の開業予定を2023年3月に控え、多くのニュースが発信される相模鉄道。相鉄は本線(横浜―海老名間24.6キロ)、いずみ野線(二俣川―湘南台間11.3キロ)、相鉄新横浜線(西谷―羽沢横浜国大前間2.1キロ。相鉄・JR直通線の相鉄部分)の3路線ですが、今回は「いずみ野線」に注目しました。

歴史をたどれば、横浜市西部や神奈川県央部と東京都心をつなぐ「神奈川東部方面線」の一部として構想。現在、小田急江ノ島線と接続する湘南台どまりですが、将来は平塚まで路線を伸ばす計画もあり、相鉄は免許を受けています。本コラムは「本来は東海道線のバイバス線だった」「どこに向かうのか延伸線」「映画やCMのロケに引っ張りだこ」の3項目のテーマを設定、いずみ野線の魅力や可能性を解き明かしました。

相鉄本線を建設したのは旧相鉄でなく神中鉄道

相鉄の前身は、神中(じんちゅう)鉄道と旧相模鉄道の2つの鉄道会社です。大正年間の1917年に設立された神中鉄道は1926年までに二俣川―厚木間を開業、昭和になった1933年には横浜駅乗り入れを果たしました。

旧相模鉄道は、神中鉄道より1年遅れの1918年に設立。茅ヶ崎に本社を置き、その後国有化された現在のJR相模線を建設しました。

神中鉄道と旧相模鉄道は戦時中の1943年、相模が神中を吸収する形で合併しましたが、現在の相鉄本線を建設したのは神中鉄道。両社は初期から旅客輸送を手掛けていたものの、主な役目は砂利輸送でした。

1966年の都交審答申で路線計画が登場

いずみ野線の話に移ります。二俣川側から南万騎が原、緑園都市、弥生台、いずみ野、いずみ中央、ゆめが丘、湘南台と駅名を並べれば、路線の性格がうかがえます。語源を平安時代にさかのぼる南万騎が原を除けば、いかにもニュータウンの玄関口らしい駅名の連続です。

駅舎全体をカーブ状の鉄骨でおおい、ホームに柱がないため、近未来的な印象を与えるゆめが丘駅(画像:相鉄ビジネスサービス)

いずみ野線の路線計画は、現在の交通政策審議会の前身・都市交通審議会(都交審)が1966年に答申した「横浜及びその周辺における旅客輸送力の整備増強に関する基本計画について」に登場します。6号線として示されたのが、茅ヶ崎―六会―二俣川―勝田―東京方面の鉄道新線でした(六会と勝田は地名です)。

そうです。いずみ野線や相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線の発想は、実は半世紀以上前からあったのです。2つの直通線は、まさに「構想から半世紀余を経て、ついに実現した鉄道プロジェクト」といえるでしょう。

横浜市西部の丘陵地帯を走る

緑園都市駅は、近隣に閑静な住宅街や女子大が立地する、いずみ野線を代表する駅です。「関東の駅100選」にも選出されています(画像:相鉄ビジネスサービス)

いずみ野線の延伸計画に移る前に、路線のプロフィールをおさらいします。線区の多くは横浜市旭、泉の両区内で、終点の湘南台駅は藤沢市です。沿線は横浜市西部の丘陵地帯。二俣川―いずみ野間はトンネルの連続、トンネルを出たところが駅という印象です。

いずみ野―湘南台間は高架橋を走ります。車窓には丹沢や箱根の山並みが広がります。終点の湘南台は地下駅。小田急江ノ島線湘南台駅の下に、相鉄の駅があります(ほかに横浜市営地下鉄ブルーラインも乗り入れ)。

いずみ野線は、1976年4月に二俣川―いずみ野間が部分開業。1999年3月に湘南台までの全線が開業しています。

いずみ野線が東海道新幹線に接続!?

いずみ野線の延伸計画を考えます。相鉄は平塚までの免許を取得しており、当初は湘南台から茅ヶ崎市北部を経由して平塚に向かう予定でした。路線延伸の塩漬け状態が続く中で浮上したのが、JR相模線倉見(寒川町)を経由して平塚にいたるプランです。

いずみ野線延伸が構想される相模線倉見駅。1926年に旧相模鉄道の手で開業。仮にいずみ野線が延伸されれば、路線が国有化された1944年以来、久々の相鉄復活になります(写真:suko / PIXTA)

倉見という無人駅がクローズアップされたのは、こんな理由です。倉見駅付近には東海道新幹線が走っていて(東海道新幹線と相模線が立体交差します)、神奈川県などはここに新幹線新駅を造って神奈川県西部の交通結節点にするブランを持っています。

もちろん、現在の東海道新幹線に新駅開設の余地はありません。神奈川県鉄道輸送力増強促進会議が2000(平成12)年度に送った新幹線新駅の設置に関する要望に対し、当時のJR東海は「長期的に、中央新幹線の開業など、東海道新幹線の輸送力に余裕が生じた場合などにおいては、検討の対象になる」と回答しています。

慶応SFCの最寄り新駅

もう一つ、湘南台駅の西方に慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)があり、学生の通学手段が課題になっています。

既に10年前ですが、神奈川県、藤沢市、慶応大、相鉄の4者は、湘南台―慶応SFC間約3.3キロの交通システムのあり方を検討し、2012年に発表しました。いずみ野線延伸とLRT(次世代型路面電車)の新線建設を比較検討した結果、速達性や広域アクセスに優れる鉄道、つまりいずみ野線延伸が望ましいという結論を得ています。

延伸ルートのうち湘南台―倉見間は、ほぼ直線状に西進します(資料:神奈川県)

これらを総合すると、都交審答申の6号線は現在、西湘方から平塚または茅ヶ崎―倉見―慶応SFC―相鉄いずみ野線―相鉄・JR直通線または相鉄・東急直通線―東京方面(渋谷、新宿)が一応のルートのようです。もっとも、事業性には課題があり、今のところ実現性が高いのは湘南台~慶応SFC間のみでしょうか。

地図上にルートを引けば、JR東海道線や湘南新宿ラインのバイパス線としての機能が浮かび上がります。実現には相当なハードルがありますが、鉄道ファンなら空想の世界で、平塚発いずみ野線経由新宿行きを走らせるのも一興かもしれません。

エンドロールの「撮影協力・相模鉄道」が勲章

最後は相鉄のロケ隊誘致。本サイトをご覧の皆さんには、いずみ野線に乗ったことはなくても、映画やテレビで駅や電車を見たことのある方がいらっしゃるかもしれません。相鉄グループのロケーションガイドを見れば、撮影作品リストには、映画の「ストロボ・エッジ」やテレビドラマの「義母と娘のブルース」などが並びます。

相鉄のロケツーリズム、モットーは「映画、ドラマ、CMロケなど、さまざまなニーズへの対応」。映画のエンドロールに流れる「撮影協力・相模鉄道」のテロップは、相鉄関係者の勲章です。相鉄は撮影のつど蓄積したノウハウを集約してマニュアル化しました。

撮影規定には注意書きが示されますが、ほとんどは常識的なこと。撮影可能駅は、いずみ野線南万騎が原―湘南台間の7駅。本線に比べ、いずみ野線は混雑も少なく撮影に好適です。

左から撮る、それとも右から……

一般的な撮影スケジュールはこんな様子です。AD(アシスタントディレクター)が、撮影場所を訪れロケハンします。一部の作品はエキストラを乗せた臨時電車を走らせることもありますが、通常は営業列車最後部の一両を貸し切りにして撮影します。

制作側は車両にもこだわります。とはいえ「○○系」で形式を指定してくるマニアックな監督は、さすがにいません。リクエストの典型は「パーテーションの低い見通しの利く車両で」。なるほど、見通しの利く車両だとストーリーが広がる気もします。唯一、細かい注文が入るのは、CSなどの鉄道番組。視聴者が鉄道ファンだと、制作側も細部にこだわらねばなりません。

相鉄いずみ野線の紹介は以上。いずみ野線には、「特別なものがあるわけではないが、快適に利用できるニュータウン鉄道」の印象を持ちました。沿線にはこども自然公園やミニ牧場があるので、秋の一日を沿線めぐりで過ごしてはいかがでしょうか。

記事:上里夏生

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