九州で子猫を袋に入れて捨てる被害相次いだニュース…報道の仕方に疑問【杉本彩のEva通信】

メディアから取材を受ける杉本彩さん

メディアによる報道は、私たち国民が真実を知るために重要なものだ。しかし、メディアがどこまで詳細な情報を伝えるかは、各メディアの考えやスタンスによる。個人情報保護の観点から、なんでもすべて報道すればいいというものでもないし、人権と社会的利益のバランスに配慮しなければならないなど、さまざまなルールがあるようだ。また、当然だがメディアは公権力や商業主義に影響を受け、忖度したり真実を歪めてはならない。とにかくメディアが果たす役割と責任はとても大きい。メディアが一つ間違えば、人の人生だって壊しかねない絶大な影響力がある。それゆえに、ときには報道のやり方が非難され、報道被害という言葉を耳にすることもある。以前から報道のあり方が問われているのだという。

当協会Evaは、動物愛護団体の中でも啓発に取り組み活動する団体なので、啓発の助力となるメディアからの取材は可能なかぎり受けている。また、9月の動物愛護週間などには、メディアと連携して啓発を行うこともある。そういう意味でもメディアの力は必要だし、協力を得られるならとてもありがたい。そんなメディアだからこそ、もっと慎重な報道をしてほしいと思うこともある。 

たとえば最近では、九州の山の中の公園に、子猫が袋に入れられて捨てられる被害が相次いでいると、ほとんどのメディアが具体的な地名まで明かし報道した。周辺住民には猫が捨てられる場所として扇情的な別名まで付けられており有名だったようだ。動物の遺棄は1年以下の懲役、または100万円以下の罰金である。れっきとした犯罪なので、メディアも動物の遺棄を問題視し報道したのだろう。

しかし、その場所が特定できる詳細な情報まで報道する必要があったのだろうか。防犯カメラが無いことから、遺棄した人々を特定することは難しいだろう。そんななか猫を捨てやすい場所として知れ渡ることで、さらに多くの猫が遺棄されるのではないかと危惧している。また、それは周辺住民の不利益にもつながる可能性がある。今後、自治体は公園に防犯カメラを設置し、不審な行動が見られた場合は、警察に通報するなど対策をとっていくということだが、遺棄の抑止になることを願うばかりだ。そして、もし問題が生じたならば、迅速な対応をしてほしい。メディアが真実を報道することはもちろん大事だと思うが、動物遺棄が深刻な社会問題であること、遺棄は刑罰が科せられる犯罪であることなどを踏まえ、動物遺棄を軽視している人々の抑止という観点からも、報道のやり方を考えてほしいと思う。また、さらに求めるならば、問題の背景にあるさまざまな要因にも着目し、その課題を正確に伝えてほしいと思う。

それを強く感じたのは2019年の動愛法改正を受けて、省令が改正されたときである。犬猫の販売事業者への数値規制が決まったときだ。数値規制とは、事業者が守るべき犬猫の飼養基準を数値化したものである。頭数制限、年齢や繁殖回数の制限、ケージなどの大きさや構造などが、具体的な数値で示されることになった。超党派の動物愛護議員連盟の議論の場では、当協会がアドバイザリーを務めていたことから、より良い飼養環境を訴える団体として、度々メディアからの取材を受ける機会があった。そのときも報道のあり方に何度も疑問を感じたことがある。

動物福祉の観点から規制を強めたい動物愛護団体と、動物を商品としてより多くの利益を上げたいペット事業者団体とは、どうしたって意見の対立は避けられない。報道は、両者の考えや主張を取り上げなければならないのは当然だが、何をどう編集し、どう放送するかはメディア次第である。それによって印象が変わるため、視聴者を間違った方向に誘導しかねない。

事業者側は、数値規制のせいで規制に沿った環境を整えられない事業者が犬猫を手離すことになり、「13万匹以上のペットが行き場を失う」「犬猫の殺処分が増える」というセンセーショナルな主張を続け、それを多くのメディアが取り上げた。殺処分が増えるから規制を強めるべきではないと事業者は言いたいのだろう。法改正の経緯やこれまでの背景を知っていれば、事業者の主張は身勝手なものだとわかるが、殺処分増加に心を痛めているような話しぶりの事業者が映し出されたら、ペット事業者の実態やペット流通の問題を知らない視聴者はどう思うだろう。法改正イコール殺処分増加、そして犬猫がかわいそうとなり、法改正が悪者になりかねないのだ。実際、このような報道に心揺さぶられ法改正や殺処分を心配する声が上がっていたことは事実だ。事業者側に都合の良い言い分を報道するなら、それらを回避するための緩和措置が設けられることも同時に報道すべきだ。

結局、環境省は事業者に押され、完全施行まで5年間という、3年も先延ばしのあまりに長い緩和措置を設けることになってしまった。3年間、動物の苦痛をいたずらに長引かせてしまったということだ。どれだけ長くても最初に検討されていたとおり2年で十分だったはず。ましてや、数値規制の具体的な数値が検討され始めたのは、法改正の2年半ほど前からである。それを緩和措置の期間と合わせると、少しずつ飼養環境や頭数についてやり方を改めたり準備する期間は、ゆうに5年近くあった。繁殖犬猫に適切な里親を見つける十分な期間もあるということだ。しかし、事業者は自分たちの利益を守りたいがために、法改正を悪者に仕立て上げたい。犬猫の福祉より、自分たちの利益なのである。このような報道が、3年の先延ばしに少なからず影響を与えたことも考えられる。

このように絶大な影響力を持つメディアには、そこまでの背景や問題などもしっかりと理解し、何をどう報道することが社会のためであるかを考えてほしい。また、現状の問題をもっと人々に考えてもらうには、どう伝えるべきか、面白さばかりを追求しがちな報道バラエティー番組においても、これからの時代はそういう視点も持ちながら、メディアは発信すべきではないだろうか。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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