メクル第675号 母と“二人三脚”で頂点に 全国吟詠コンクール幼年の部優勝 岩永克衛さん(9)

克衛さんを指導する田中さん(左)、優岳さん。田中さんは「たくさん遊び学んで、“芸の肥やし”を増やして」と少年吟士の成長を楽しみにしています=長崎新聞社

 9月19日に東京都で開かれた全国吟詠(ぎんえい)コンクール決勝大会(日本吟剣詩舞振興会主催(ぎんけんしぶしんこうかいしゅさい))で、岩永克衛(いわながかつもり)さん(9)=長崎市立坂本小4年=が幼年(ようねん)(12歳未満(さいみまん))の部に初めて出場し、優勝(ゆうしょう)しました。今年で53回目となる国内最大の吟詠コンクール。幼年の部で県内から優勝者が出たのは初めてです。
 コンクールでは、発音やアクセントの正確(せいかく)さなど「歌声の美しさ」はもちろん、姿勢(しせい)やマナーなどの「態度(たいど)」も審査(しんさ)されます。
 克衛さんは幼稚園児(ようちえんじ)の頃(ころ)から、母優岳(ゆうがく)(本名・優(ゆう))さん(45)の吟詠を聞いて育ちましたが、本格的(ほんかくてき)に始めたのは昨年9月。祖母(そぼ)に「全国優勝したらディズニーランドに行こう」と誘(さそ)われたのがきっかけでした。
 主に学童(がくどう)クラブから帰宅(きたく)する車内で優岳さんが指(し)導(どう)。緊張(きんちょう)などで息が上がっても声を出せるよう、その場足踏みや階段(かいだん)の駆(か)け上(あ)がりの後に吟じる「直前10秒ダッシュ」を取り入れるなど、「舞台(ぶたい)での約2分間を最高の状態(じょうたい)にする」ため優岳さんと“二人三脚(ににんさんきゃく)”で特訓を重ねました。
 吟詠は詩の世界観を声や表情(ひょうじょう)で表現(ひょうげん)するため、詩の内容(ないよう)をどれだけ理解(りかい)できているかも重要になります。コンクールで吟じたのは平安時代の政治家(せいじか)、菅原道真(すがわらのみちざね)作「九月十日(くがつとおか)」。無実の罪(つみ)で当時の都である京都(きょうと)から太宰府(だざいふ)(今の福岡(ふくおか)県太宰府市)に追いやられた無念さと、仕えていた醍醐天皇(だいごてんのう)への忠誠心(ちゅうせいしん)を込(こ)めた詩で、小学4年生には難(むずか)しい内容といえます。

堂々とした姿で吟詠を披露する克衛さん=東京都、日本教育会館・一ツ橋ホール(日本吟剣詩舞振興会提供)

 そこで克衛さんは練習の中で、都を「自宅(じたく)」、道真を「自分」、醍醐天皇を「母」に置(お)き換(か)えてみました。「僕は悪くないのに遠くへ連れていかれた。大好きな母に会えずつらい。母の香(かお)りが移(うつ)った服の匂(にお)いをかぎ(母を)思い出す」と想像(そうぞう)することで、道真の気持ちを声や表情にのせることができるようになったそうです。
 コンクールには「絶対(ぜったい)に優勝する」と心に決めて臨(のぞ)み、今年5月の県大会、7月の九州大会はともに1位で通過(つうか)。10人が挑(いど)んだ全国大会で頂点(ちょうてん)に立ちました。「どの大会も緊張(きんちょう)はしなかった。頭の中を真っ白にして、練習したことを出しただけ」と振(ふ)り返(かえ)ります。
 克衛さんは優勝の“ごほうび”ディズニーランド旅行後も、優岳さんや日本詩吟学院岳鐘会(がくしょうかい)(諫早(いさはや)市)会長の田中岳藤(たなかがくとう)さんの指導を受け、吟詠を続けています。田中さんは克衛さんを「持ち声の良さを生かした堂々とした吟ができる」と評価(ひょうか)し、優岳さんは「上には上がいることを忘(わす)れず練習に励(はげ)んで」と話します。吟士の道を歩む克衛さんのこれからが注目されます。

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