USJ進化させたマーケター豊島順子さんが語る福井観光の可能性 北陸新幹線延伸、コロナ禍の先に 

「ブランディング力向上で大事なのは、ほかの市町と差別化を図ること」と語る豊島順子さん=大阪市内

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)でマーケティングの世界に飛び込み、ハリウッド映画のテーマパークに、ハローキティやワンピースといった日本のコンテンツを取り入れた。開業5周年のアトラクションも成功し、ブランドの価値が高まった。次々とスポンサー企業が獲得でき、新たなアトラクションを造り、来場者の増加につながる好循環が生まれた。

 現在はNTT西日本で、地域の課題解決に取り組む「地域プロデュースアドバイザー」として働いている。USJでの経験も生かし、まだ注目されていない地域の素材を通して、ブランド力を高めるお手伝いをしている。

 USJ時代に福井県立恐竜博物館(勝山市)のブランディングに携わって以来、福井に注目している。今は2024年春の北陸新幹線県内延伸に向けた大きな転換期。いい素材があっても、ターゲット層を見誤るとその価値が伝わらない。大切なのは「本物志向の海外客」をターゲットにすること。福井の歴史、文化、美しい景観には大きな可能性がある。うまくアピールできれば、福井はより輝くまちになる。

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福井県が狙うべきターゲットとは

 -昨年から越前市の地域ブランディングに携わっている。福井のブランド力向上に大切なことは。

 一つ一つのまちが個性的で、大野、三国、武生、鯖江、あわらなど、それぞれに全く違う魅力がある。特に私は武生の料亭文化が好き。越前打刃物も魅力的。100年以上続いているということは、その間に価値が変わっていないということ。本物の魅力がある。

 ブランディング力向上で大事なのは、ほかの市町との差別化。福井の「歴史」「文化」「美しい景観」という本物の魅力が分かる欧米の富裕層をターゲットにすべきだ。

 世界で年間約16億人が国際旅行をすると言われるが、全員を呼び込む必要はない。ショッピングしたい人は東京や大阪に行けばいい。本物志向の人が求める「人工的でない魅力」が福井には多くある。

 欧米の富裕層は教養があり、本物志向で、「自分だけが知っている」ことにこだわる。SNS(交流サイト)で京都や大阪に行ったと発信しても「いい場所だよね。知っているよ」という反応で終わってしまうだろう。だが、「福井に行った」となると「そこはどこだ」と話は変わってくる。観光客を使って、次の観光客を呼ぶ力も必要。

 -新型コロナウイルス禍を経た観光の変化をどう生かすべきか。

 観光ビジネスは、かつてない大きな変化に直面している。落ち着きがあり、人と安全な距離感を保てる場所に旅行したいと思うようになっている。福井はぴったりだ。

 福井には魅力ある個性的なまちが多くあり、それらを回るのに最低でも数日かかる。「何泊するからここに行こう」ではなく、「ここに行きたいから何泊しよう」という考えを持ってもらうことが大事。

 インバウンド(訪日客)は、数週間旅行することもあり重要だ。だが、日本は彼らを呼び込む力がまだ足りない。福井のアドバンテージは、訪日客のスタイルに合わせて「何泊も必要だが、本物を体感できる旅」を提供できることだ。

 -福井県の課題は。

 福井の観光スポットはどこも「点」で存在している。車移動が中心の生活になっているので、観光客にもそれを求めている。車で来る旅行者は何度も来てくれるが、遠方や海外からはそうはいかない。

 北陸新幹線で福井駅で降りて観光スポットに行こうとしても、タクシーや路線バスを使わないといけないのはやはり不便。もちらんレンタカーという選択肢もあるが、訪日客にそれを強いるのは厳しい。早急な対応策が必要だ。その壁を乗り越えることで、観光地としてさらに魅力的なまちになる。

 豊島順子さん(とよしま・じゅんこ)1960年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。複数の会社の法務部勤務を経て、2000年にUSJに入社し、マーケティング部門に携わった。19年、NTT西日本と契約し「地域プロデュースアドバイザー」に就任。各地の自治体と連携し、インバウンド向けの滞在型観光拠点化などに取り組む。

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