福井発の溶接テーマパーク、人気の秘密は…長田工業所「アイアンプラネット」体験レポ 全国の鉄工所にも拡大

小林伸太郎会長(左)から指導を受け溶接体験する記者=福井県坂井市春江町西長田の長田工業所

 福井県坂井市春江町西長田の鉄工所「長田工業所(おさだこうぎょうしょ)」の一角に、溶接のテーマパークがあるという。その名も「アイアンプラネット」。2015年6月のオープン以来、千人以上が訪れる人気ぶりで、この“鉄の惑星”はフランチャイズ展開で全国に増え続けている。なぜそんなに注目されているのか、どんな楽しい体験ができるのか―。潜入取材を試みた。

 ■溶かして一体に

⇒大工歴50年の技、福井の人気ユーチューバー「正やん」とは…登録者40万人超

 惑星の入り口で出迎えてくれたのは、長田工業所の小林伸太郎会長(71)。この道50年超の熟練工だ。中に入ると、背後には鉄の知識を紹介するパネルや鉄製遊具が並んでいて、否が応でも気分が盛り上がる。

 記者が白い防炎服を身に着けていると、小林会長が片手で持ち運べるサイズの溶接機を運んできた。溶接機からは黒いコードが伸び、先端には金属ノズルが付いている。持ち手のボタンを押してみると、中からワイヤのようなものがすーっと伸びてきた。これが溶接材料。鉄に触れると放電して光と熱が発生、1500度以上で硬い鉄を溶かすのだそう。

 ■特別講習

 いくつかある体験メニューのうち、難易度が高めで実用性のあるスツール作りに挑戦することにした。まずは薄い鉄板で練習。目を保護するためヘルメット型の面を着けると、視界が一面緑色に。別世界に入ったような錯覚に陥る。

 「つなげたい部分にノズルを正確に当てないと、部材が溶けて一体にならない。まぶしいけれどよく目をこらして」。小林会長のアドバイスを受け、狙いを定めて恐る恐るノズルを握る。バチッ、バチバチッ。音をたてて広がる青白い光と火花。思わずびびって手を離す。想像以上に光が強く接合部分が全く見えない。くっついたように見えた鉄板が少しの衝撃で外れてしまったのは、溶接できていない証拠。小林会長も思わず苦笑い。

 一般体験者の2倍ほどの“特別講習”を受け、ここからが本番。今度はプロ用の溶接機を使わせてもらい、スツールの座面を支える平鉄と丸鋼を溶接した。練習で自信がつき、今度はボタンを強く長く押してみる。プロ用はより強い光を発するが目が慣れ、部材が溶ける様子を確認できるようになってきた。

 「いい感じ、しっかりつなぎ目を見て」。油断すれば溶け込みが足りず、強度が確保できなくなる。集中力と精巧な技術が求められることを実感した。

 「よーし、いいね。後は仕上げ」。小林会長にOKをもらい面を外すと、わずか40分ほどの体験でも汗だく。溶接部分の凹凸を削り座面になる木材を取り付ければ完成だ。「これだけできればいつでもバイトに来ていいから」。小林会長のお世辞がうれしかった。

 ■狙い通り

 アイアンプラネットを発案したのは、会長の息子の小林輝之社長(47)。異業種から業界に飛び込み、10年ほど前に社長を継いだが「若手が入ってくる予感がしなくて危機感があった」。鉄工所を知ってもらう場が必要と空間を整備。学校での講演なども功を奏し、興味を持った高校生が新卒で入社するなど狙い通りの成果があった。

 全国の鉄工所にもノウハウを伝授。“鉄の惑星”はこれまでに栃木、神奈川、富山など6カ所に広がった。来春には青森、新潟にもオープンする予定だ。

 久しぶりに経験したものづくりで得られたのは、なんとも言えない達成感。自分で作れば愛着もひとしおだ。「関心をもって楽しんでもらうのが一番」と小林会長。体験者の手元に広がる光が、鉄工所の未来を照らしている。

 営業時間は平日午後4時~同6時、土曜は同1時~同6時。日曜、祝日定休。小学3年生以上対象(小中高校生は保護者同伴)で、サインプレートやオブジェ(各2750円)、スツール(7700円)作りなどが体験できる。完全予約制で、ホームページのフォームか電話で申し込む。問い合わせ、申し込みは長田工業所=電話0776(72)1164。

© 株式会社福井新聞社