開幕勝者が最終戦でも完璧な締め括り。優勝のジョーイ・ロガーノが2022年王者に/NASCAR第36戦

 ついにタイトル決定のときを迎えた2022年NASCARカップシリーズ第36戦『チャンピオンシップレース』が、11月5~6日アリゾナ州のフェニックス・レースウェイで開催され、予選最速からレース最多187周をリードしたジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が今季4勝目を挙げ、2018年に続き自身2度目のチャンピオンを獲得。今季2月に開催の新規定“Next-Gen”初戦となったエキシビジョン『クラッシュ・アット・ザ・コロシアム・インLA』も制しているロガーノが「夢のようなシーズン」で最高の締め括りを見せた。

 前戦のプレーオフ第3段階“ラウンド・オブ8”最終戦となったマーティンスヴィルでは、ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシング・チーム/シボレー・カマロ)がまさかの“TVゲーム・ムーブ”でファイナルラップのごぼう抜きを演じ世界に衝撃を与えたが、この結果、年間を通じて幾多の“因縁バトル”を繰り広げてきたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)を蹴落とすことに成功した。

 これで週末の“チャンピオンシップ4”はチャスティンとロガーノに加え、プレーオフで2度の大逆転劇を演じた“奇跡の男”クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)と、2020年王者チェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の4名がタイトルに挑む構図となった。

 迎えた土曜プラクティスはそのチャスティンが最速としたが、続く予選ではロガーノが得意のフェニックスで2回目、今季4度目のポールウイナーを奪い、同じく権利を有するライバルに「プレッシャーを与え続ける」と意気込んだ。

「ここに来たときの目標は、タイトル候補3名との競争でプレッシャーを掛け続けることだった。僕らのチームはその重圧の下でも素晴らしい仕事をしており、それがプレーオフとこのチャンピオンシップ4の瞬間に、成功を続けている理由でもあるんだ」

 そう語ったロガーノは、日曜決勝も序盤から隊列を率いる力強いペースを披露し、僚友ライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)を従えステージ1を制する。そのままステージ2も順位を入れ替えてブレイニーとロガーノでワン・ツーを決め、迎えたファイナルステージ。

 205周目のリスタートでターン1をインカットするボトムラインへ仕掛けたエリオットは、背後のチャスティンと交錯してプッシングを受けるかたちになり、内側のセーフバリアにボディ右サイドから激突。ピットでの修復作業でラップダウンを喫し、最終的に2周遅れの28位フィニッシュでタイトルへの挑戦権を失う結果となった。

予選最速のジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)は、ライバルに「プレッシャーを与え続ける」と意気込む
これがトヨタ陣営最後のレースとなったカイル・ブッシュ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)は、ファンの顔写真をコラージュした『M&M’s Thank You Fans! Toyota』で7位
シボレー同士で絡み、失意の最終戦となったチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)

■トヨタのベルは19.8秒のピット作業時間を喫して万事休す

「ああ、明らかにガッカリだ。(背後の動きが)僕らの一日を終え、勝利への機会やチャンピオンシップへのチャンスも終わらせた」と慎重に言葉を選び、直接的にインシデントの責任を追及するのを避けたエリオット。「ただただ、失望している」

 その一方でチャンピオンシップ4候補同士で相手を撃墜する格好となったチャスティンは、その状況を以下のように説明した。

「ウイリアム(・バイロン)に対しては思うように仕掛けられないと判断したのか、彼(エリオット)はそれをカバーすべく不規則な動きを見せたが、すでに僕は彼の左サイドにいたんだ。ああ、それは僕が彼や彼らと競争したい方法ではないよね」

 そしてもうひとりの候補として予選17番手からの巻き返しを期したトヨタのベルは、終盤271周目の同時ピットで19.8秒の作業時間を喫して万事休す。16番手リスタートで10位までの挽回が精一杯となった。

「僕らは懸命に戦い、レースの終わりに……最後のピットストップになると思っていた時点まで、勝利とタイトルのために戦えた。このポジションにいること、ジョー・ギブス・レーシングにいること、そしてこの20号車でレースをすることを誇りに思っている。うまくいけば、また来年もここに戻ってこれるだろう」と、言葉を詰まらせながらも懸命に感謝を述べたベル。

 その感情の背景として、このレース直前にはJGR副会長であり、ジョー・ギブスの息子にしてNASCARエクスフィニティ・シリーズ新王者に輝いたタイ・ギブスの父であるコイ・ギブスが、息子のタイトル獲得を見届けた晩、睡眠中に息を引き取るという悲しいニュースに接していた。

「今朝、突然の報だった。チャンピオンシップを目指してレースをしていて、幸せで高揚していたその瞬間に、突然にして世界が崩れ落ちたんだ」と語ったベル。「このようなニュースを受け取るときはいつでも、これにはレース以上のものがあるという見方ができる。ギブス一家全員が、僕らのすべての祈りのなかにいる。僕は今、つねに彼らファミリーのことを想っている」

 その後、ブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)の車両から火の手が上がるなど、今季幾度か見受けられた“Next-Gen”車両の懸念点が露呈する場面もありつつ、269周目にはここ数戦、脳震盪の治療に専念していたアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が絡んだアクシデントで最後のコーションが発生する。

今季2月に開催の新規定“Next-Gen”初戦となったエキシビジョン『クラッシュ・アット・ザ・コロシアム・インLA』も制しているロガーノが、レース最多187周をリードした
チャスティンやベルらと同時に飛び込んだピット作業でも、ロガーノが大きくポジションを取り戻す
プレーオフで2度の大逆転劇を演じた“奇跡の男”クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)は、勝負直前の訃報に接し、複雑な思いで最終レースを戦った

■チャスティンの追撃も振り切ったロガーノがチャンピオンに輝く

 そこから280周のリスタートで3番手にいたロガーノは、3周後にチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)をパスしてリーダーに返り咲くと、僚友ブレイニーのサポートも得て力走。陽が陰ってからスピードを取り戻したチャスティンの追撃も振り切り、312周のレースを制覇する結果に。今季インディカーでのタイトルを獲得したロジャー・ペンスキー御大にも、実に31年ぶりとなるダブルタイトルを贈るフィナーレとなった。

「ついにやった!! 僕らがふたたびチャンピオンだ、なんてこった! 僕は今、最高に興奮している」と、このレース限りでトヨタから離れる決断を下したカイル・ブッシュ以来、現役ドライバーでふたり目の複数王座を手にしたロガーノ。

「心からこのチームに感謝したい。あなたたちは本当に素晴らしい。良いレースカーを与えてくれたし、最後のピットストップも良かった。おぉ……それは本当に強烈なピット作業だったよ。チャンピオンシップこそがすべてだ。それがすべてであり、僕らはここ数週間、自分たちの立場を確立しようと懸命に取り組んできたんだからね!」

 そして今週も併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズの第33戦『チャンピオンシップレース』は、前述のとおりシーズンを通して争ったノア・グラグソン、ジャスティン・オルゲイアーらJRモータースポーツのシボレー・カマロ軍団を撃破した20歳のタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)が、予選ポールから両ステージ制覇の完全試合で今季7勝目、そして初のシリーズタイトルを手にする結果に。

 同じく最終戦となったNASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ第23戦『ルーカスオイル150』は、残り2周のオーバータイム・シュートアウトでディフェンディングチャンピオンのベン・ローズ(ソースポーツ・レーシング/トヨタ・タンドラTRD-Pro)を撃破した、ゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)が悲願の初タイトルを獲得した。

 一方、今季2022年はトヨタ・タンドラTRD-Proの2台体制を敷いて挑んだ服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライゼスは、16号車タイラー・アンクラムが14位、チェイス・パーディの61号車が19位でシーズンを終えている。

ロガーノの勝利により、今季インディカーでのタイトルを獲得したロジャー・ペンスキー御大にも、実に31年ぶりとなるダブルタイトルを贈るフィナーレとなった
エクスフィニティ初タイトル獲得直後に、父を亡くしたタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)。翌日のカップ戦は急遽ダニエル・ハムリックが代役の代役を務めた
キャンピング・ワールド・トラック・シリーズは、ベン・ローズ(Tソースポーツ・レーシング/トヨタ・タンドラTRD-Pro)を撃破したゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)が悲願の初タイトルを獲得した

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