半グレ、準暴力団…「やっかいな客」来店したら? リスク最少化“反社”対応マニュアル

東京・池袋「サンシャイン60」58階にあるフランス料理店で100人規模の乱闘――。

にわかに信じがたいニュースが飛び込んできたのは、10月16日の夜。この騒ぎが、いわゆる“半グレ集団”で、準暴力団に指定されている「チャイニーズドラゴン」幹部の出所祝い中に発生したことは、周知の通りだ。

半グレ集団や準暴力団は反社会的勢力ではあるものの、暴力団の活動を規制する「暴力団対策法(暴対法。都道府県公安委員会が指定した指定暴力団にのみ適用)」の対象からは外れる。そのため、彼らが犯罪に至らない段階のグレーゾーンな行為をしたとしても取り締まることができず、警察にとっても“やっかいな存在”となっているという。

では店側は、彼らから身を守るために何ができるのだろうか。

曖昧な概念の中で“のさばる”半グレ集団

チャイニーズドラゴンは中国残留孤児の子どもや孫が中心となり、80年代後半に東京・葛西で創設された。メンバーは傷害、窃盗、強盗といった凶悪な事件をたびたび起こしており、問題となっている。

彼らが「暴力団」ではなく「準暴力団」とされているのは、その組織性の弱さゆえだ。「令和3年 警察白書」によれば、準暴力団は「犯罪ごとにメンバーが離合集散を繰り返すなど、そのつながりが流動的である点で、明確な組織構造を特徴とする暴力団と異なる」という。

暴力団の構成員(準構成員等を含む)は、2005年以降減少を続けている。その背景には、1992年の暴対法施行による暴力団排除活動や犯罪取り締まり強化、そして資金獲得活動の困難化があると考えられている。

一方で、チャイニーズドラゴンのような準暴力団は暴対法の適用対象外。元検事で暴力団事件の捜査経験もある日笠真木哉弁護士は「暴力団ですら、その人が暴力団構成員であることを立証するのが難しい。ましてや半グレ集団や準暴力団となれば、正式なメンバーであるのかすら分からないことが珍しくありません。彼らは非常に曖昧な概念の中で“のさばっている”ような状態と言えるでしょう」と指摘する。

半グレ集団や準暴力団は、特殊詐欺などの違法な資金獲得活動によって資金を蓄え、さらなる違法活動や、風俗営業などの事業資金にあてるなど、活発に資金獲得活動を行っている様子が窺われる。また資金を暴力団に上納したり、暴力団構成員と共謀して犯罪を行っているケースもあるなど、暴力団と関わりを持つ実態も認められるという。

「来店お断り」暴力団のほうが簡単!?

チャイニーズドラゴンのような半グレ集団から、店側が身を守るにはどうすればよいのだろうか。日笠弁護士は「現実的には、騒動が起こった時点で警察を呼ぶくらいしかできません」と言う。

前述のように、指定暴力団であれば暴対法が適用され、さらには各都道府県の条例によって、暴力団関係者が店を利用すること自体が禁じられている。そのため「関係者が店に来た」という理由だけで警察への出動要請が可能だ。

一方、半グレ集団の場合は「不安だから」と、トラブルが起こっていない段階で警察を呼ぶことができない。法的には、店側が「施設管理権」に基づいて客を選ぶ(=拒否する)ことも可能だが、報復の恐れがあることや、逆に店側が差別をした(相手が外国のマフィアだった場合は「外国人差別」など)と捉えられるリスクもあり、現実的な手段とは言えないだろう。

しかし、日笠弁護士は「リスクを最少化する方法はある」と続ける。

「まず1つ目は、マニュアルを作っておくことです。来店後に何かしらのきっかけで『半グレ集団』と分かり、帰ってほしいとお願いしたのにもかかわらず拒否すれば「不退去罪」となり、警察を呼ぶことができます。しかし帰ってほしいとお願いするにも、周りのお客さんに迷惑がかからないよう個室やバックヤードで対応するなど工夫が必要です。責任者が不在のときもあるでしょうし、対応したスタッフが火に油を注ぐようなこともあり得なくはないでしょう。

予算などから二の次になってしまいがちですが、マニュアル作りにあたっては、できれば弁護士による法的な視点も入れて、臨機応変な対応をする場合のルール作りもしておいたほうが、より安心だと思います」(日笠弁護士)

半グレがいなくなっても、別の“反社”が出てくる

ただしマニュアルを作ったとしても、トラブルを完全に防ぐことは難しいだろう。そこで日笠弁護士は、2つ目の対策として「証拠を残すこと」を提案する。

「トラブルが起こった場合、警察を呼べばその場の混乱を収めることはできますが、店内の物が壊される、汚される、報道によってお客さんが来なくなるなど、事後の損害が出る可能性も十分あります。損害賠償請求をする場合は証拠が必要になるので、音声も記録できるような防犯カメラを設置しておいたほうがいいでしょう」(日笠弁護士)

最後に日笠弁護士は「反社会的勢力の排除はイタチごっこ」と指摘する。

「暴力団が弱体化したことで半グレ集団が勢力を伸ばしてきたように、半グレ集団を排除すれば、また別の集団が力を持ってくるでしょう。反社会的勢力に限らず、クレーマーなど“招かざる客”がいることも確かです。

それを前提に、きちんとマニュアルを整理して、弁護士、警察、監督官庁などとも日頃から連絡を取って、何かあったときにすぐ駆けつけてもらえるような体制を整えておくような気配りが、リスクの最少化につながるのではないでしょうか」(日笠弁護士)

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