2030年に向けて起こるメガトレンド−−予想される新たな巨大市場とは?

現代のビジネスパーソンにとってITリテラシーが必須となったように、求められるスキルや知識は時代によって変わっていきます。この先の時代に向け、どのようなことを身につけていくべきなのでしょうか?

ビジネススクール「グロービス」による著書『MBA 2030年の基礎知識100』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集して2030年に向けて起こるメガトレンドについて解説します。


カーボンニュートラル──新たな巨大市場が開ける

SDGsの次、あるいは進化形として来るものは、まだ識者の意見も分かれています。ただ、その中でも確実に重視されるのが気候変動への対応です。

【図表】グリーン成長戦略

二酸化炭素(CO2)増による温室効果はさまざまな悪影響をもたらします。猛暑や地球の生態系への影響などは分かりやすい例ですが、予期せぬ異常気象の多発なども人類にとって大きな問題です。

こうした状況を受け、すでに2020年に日本政府は「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」という宣言を打ち出しており、あわせて「グリーン成長戦略」を提唱しています。

「グリーン成長戦略」では14分野の戦略を掲げています。そのうち7つは輸送・製造業に関するものです。ただ、これらの産業以外でも、家庭・オフィスにおける努力なくしては、カーボンニュートラルは実現しません。あらゆる企業や個人がカーボンニュートラルを意識して行動しなくてはならないのです。

カーボンニュートラルと聞くと息苦しいようにも思えますが、裏を返すと、 大きなビジネスチャンス が眠っています。予測の幅は大きいですが、2050年までの関連市場規模は数千兆円という予測もあります。政府も、日本発のイノベーションを世界に展開すべく、税制改革や規制緩和などを行うとしています。大企業のみならず、スタートアップにとっても魅力的な市場が、そこにあるのです。

カーボンニュートラルには、日本の得意なモノ作りが必ず必要となります。どのような形でイノベーションを起こせるか、知恵の絞りどころです。

「未来世代」への配慮も不可欠に──利他主義の時代

『2030年ジャック・アタリの未来予測』(プレジデント社)などの著書でも知られる著名な思想家のジャック・アタリ氏は、これからの時代について、ポジティブな社会と、そのための利他主義の重要性を唱えています。

ポジティブな社会とは、将来世代の利益になるように努めることを常に考えている社会のことです。これはSDGsに通じる部分が大と言えるでしょう。

そしてアタリ氏は、そのためには利他主義が必要だとしています。 利他主義とは、文字通り、他者(仮に遠いつながりであっても)を思いやることです。それを追求することが、結局はビジネス的にも成功につながるというのが彼の主張です。

これは「三方良し」で知られる近江商人の哲学に通じるものでもあり、別の表現をすれば、ステークホルダー第一主義とも言えます。

往々にして忘れられがちな「未来世代」というステークホルダーですが、アタリ氏はこれらにも大きな配慮が必要だとしています。

そして、ポジティブな社会を実現する上で、日本独自の課題として、以下を指摘しています。

・社会の中で女性の占める場を拡大すること
・出生率を上げること
・外国人に対してもっと門戸を開くこと
・インフラにもっと投資すること
・教育にもっともっと投資すること

日本という国の持続可能性に関連して言えば、これらは確かに近年問題視されている領域です。

この課題を打破できる企業やここにビジネスチャンスを見いだせる企業・人材が求められます。

【図表】これからのビジネス

国を超えるプラットフォーム企業──アメリカ企業への依存が続く?

アップルの時価総額が一時期3兆ドルに達したことが話題となりました。これは世界2位を誇る中国の国家予算とほぼ同額です。ストックである時価総額と毎年のフローである国家予算を比較するのはやや乱暴ではありますが、昨今の企業の巨大化を物語っていると言えるでしょう。

世界時価総額ランキングの上位を見ると、サウジアラビアのサウジアラムコを例外とすると、いわゆるアメリカのプラットフォーム企業が並んでいることが分かります。テスラをプラットフォーム企業と呼ぶかというと多少微妙ですが、その他は俗にGAFAMあるいはGAMFAと呼ばれる典型的なプラットフォーム企業です(最近では、フェイスブックのメタへの企業名の変更もあり、G〈グーグル〉もA〈グーグルの親会社アルファベット〉に置き換えて、MAMAAなどとも呼ばれます)。

これらのプラットフォーム企業が活用している事業経済性が、 ネットワークの経済性 です。端的に言えば、「数が利便性をもたらし、その利便性がまた数をもたらすことで一気に拡大し、単位当たりのコストが下がる」という効果です。

また、これらの企業は、 ツーサイド・プラットフォームやマルチサイド・プラットフォーム を形成しています。これは、同じタイプの参加者だけではなく、他のタイプの参加者も呼び込むことで、ますます利便性が増すと同時に、それがさらなるビジネスチャンス(課金のチャンス)を生み出すというものです。

ユーザーが増えればアプリ開発者が増え、アプリ開発者が増えてアプリが増加するとまたユーザーが増え......という好循環です。

プラットフォーム企業には、その他にも重要な共通点があります。これだけの時価総額になっても、まだ売上成長率が高い ことです。

例えばマイクロソフトは、コロナ禍にありながらも、最近2年間(2020年6月期、2021年6月期)、13.6%、17.5%の成長率を実現しました。アマゾンのそれは37.6%、21.7%(2020年12月期、2021年12月期)です。日本を代表する大企業であるソニーグループ(時価総額は彼らの10分の1以下)のそれは、8.9%、10.3%(2021年3月期、2022年3月期)です。ビジネスモデルが異なるとはいえ、やはり差があります。

それ自体が拡大再生産し、またビジネスチャンスを呼び込むことが、この成長を支えています。

2022年現在、我々はこうしたプラットフォーム企業の恩恵なしに生活をすることはできません。そして、国ですら把握していない行動データ、いわゆる ビッグデータを握られています

これは、考えてみれば非常に怖いことと言えます。経営者が企業のブランドを維持するためにデータの悪用を防止しようとしても、世の中には悪意を持った人が一定比率存在するからです。また、悪質な外部ハッカー(組織的なケースも多い)も少なくはありません。

2022年時点では、主だったプラットフォーム企業は5 ~ 6社と言えそうですが、2030年にはもっと増えている可能性もあります。しかも、その多くはアメリカ企業でしょう。

幸い、アメリカは日本にとって友好国ですが、時に摩擦も生じます。 ITがますます進化する時代に、OSやクラウドをはじめ、多くのサービスを海外の巨大企業に依存せざるをえないというのは、日本経済にとっては多少息苦しい状況と言えるかもしれません 。顧客としてはもちろん丁寧に扱ってくれるでしょうが、ビジネス上のパートナーシップとなると話は多少変わりますし、まして競合となると、一揉みでつぶされる可能性もあるからです。

アメリカでもプラットフォーム企業の分割論などが出ていますが、それは不確実です。むざむざ自国企業が競争力のある分野を弱めないだろうという見解もあります。

巨大プラットフォーム企業がさらに力を増すかもしれない2030年代、いかに彼らを活用し、ビジネスチャンスをものにしていくかも、日本企業に課せられた課題と言えるでしょう。

「文系」でもITの素養が不可欠に──テクノベートの時代

テクノベートは、テクノロジーとイノベート(イノベーション)を組み合わせた造語です。

いつの時代もそうですが、人間はテクノロジー(技術)からの恩恵によって発展してきました。火を起こす技術や農耕の技術なども、そうした技術の一つだったのです。

特にこの20~30年間は、IT分野において、飛躍的に技術が進化しました。それを支えたのが半導体の性能向上、インターネットの普及、ブロードバンド化、そしてスマートフォンの登場などです。

これらによってビジネスチャンスが激増し、多くのITスタートアップが登場しています。また、前項で触れたような、多少歴史の長いITジャイアントは、今や数十、数百兆円単位の時価総額を誇るようになりました。

テクノロジーの進化は止まるところを知らず、今後も加速する見込みです。テクノロジーに関わる産業が発展し、その産業に従事する、あるいはテクノロジーの開発に関連する人口が増えるでしょう。

そうした時代にあっては、 俗に「文系」と言われる人間であっても、ある程度のテクノロジーの素養が必須 です。例えばアメリカでは大企業のトップはある程度のITの素養があるのが当たり前であり、日本企業とはかなり趣を異にします。

新聞に出てくるような技術用語はある程度は理解しておかないと、2030年にはなかなかバリューが出しにくくなります。

逆に言えば、 テクノロジーをしっかり理解し、身につけている人は、そうでない人の何百倍以上ものバリューが出せる 可能性を持つのです。

かつては「ビジネス数字が分からないということは経営が分からないということだ」という言い習わしもありました。2030年には、「テクノロジーが分からないということは経営が分からないということだ」と言われるようになっているかもしれません。

【図表】グロービスのテクノベート科目

著者:グロービス、執筆・編集:嶋田 毅

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