ワクチン接種後死亡の男性、解熱後に急変 父親「まさか息子が」 使用保留のロット 広島

ワクチン接種後に亡くなった息子の画像が入ったスマートフォンを見ながら胸の内を語る父親(画像の一部を修整しています)

 米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチンに異物が混入していた問題で、広島県南部の会社員男性(30)が、使用を見合わせているロットのワクチン接種後に亡くなっていたことが29日、分かった。厚生労働省が28日に公表した30代男性2人の死亡事例のうちの1人とみられる。会社員男性の父親(63)が中国新聞の取材に応じ、息子を突然亡くした悲しみや接種後のケア体制などについて、胸の内を語った。

 父親によると、男性は県内の職域接種会場で、7月18日に1回目、今月22日に2回目の接種を受けた。23日に40度を超える熱が出て、勤め先を欠勤。市販の解熱剤を服用したところ、24日には平熱に戻り、出勤した。

 その夜は自宅で母親(62)と夕食を取り、午後7時半ごろに自室へ戻った。25日朝、起こしに行った母親が布団の上でぐったりしている男性を発見。死亡が確認された。男性に基礎疾患やアレルギー歴、飲酒・喫煙の習慣はなかったという。

 男性が2回目に打ったワクチンのロット番号は「3004734」。異物の混入が見つかったワクチンと同じ時期に同じ設備で製造されており、国が26日に使用見合わせを求めている。男性の死亡と接種の因果関係などは不明。地元自治体も経緯を把握している。

 「まさか息子が…。寂しくて仕方ない」。父親は涙ぐむ。男性は母親と2人で暮らし、父親は近くの実家に住んでいる。最後に言葉を交わしたのは、接種翌日の23日。男性宅の電話の調子が悪く、家に寄った父親が「直しておいて」と声を掛けた。熱が上がる前だったのか、体調の異変はまだ感じ取れなかったという。「やさしくて、周りの人にかわいがられる子だった。あれっきりになるとは思いもしなかった」

 家族思いの男性は約3カ月前、「コロナが落ち着いたらみんなで旅行がしたい」と、大きめの車に買い替えたばかりだった。男性の死後、母親はその車の鍵を見るたびに胸が締め付けられるという。

 父親は6月ごろ、男性に「機会があれば接種を受けた方がええよ」と勧めていた。地元自治体の当時の接種対象は高齢者だったこともあり、男性は「ほうじゃね」とだけ応じた。「私が言ったから、職域での接種を受けたのだろうか」。後悔の念にさいなまれながら、ワクチンの副反応の説明や、接種後のケア体制の大切さを痛感しているという。

 自身も同じ職域接種会場で、男性が受けた6日前に2回目のワクチンを接種。該当ロットだった。翌日に発熱し、40度を超えたものの、大事には至らなかった。

 「感染対策としてのワクチン接種の有効性は認識している。息子が亡くなった原因は分からない。誰を恨むこともできんし、悪いのはコロナだと思っている。この事実を伝えることで、より安全な接種になればいい」

 厚労省と、国内の販売や流通を担う武田薬品工業は、28日に発表した男性2人の死亡事例について、ワクチン接種との因果関係を調べるとしている。 

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