「軍事衝突回避へ中国との対話重要」フランスが目指す「第3の道」とは?仏海軍トップの参謀総長が語る

By Kosuke Takahashi

フランス海軍トップのピエール・ヴァンディエ参謀総長(高橋浩祐撮影)

「軍事的衝突を避けるために、中国と対話していくことが重要だ」。フランス海軍トップのピエール・ヴァンディエ参謀総長(55)は7日、都内のフランス大使公邸で記者会見を開き、こう述べた。海軍大将のヴァンディエ氏は第18回西太平洋海軍シンポジウムに参加するため、5日から8日まで来日した。

フランスのマクロン政権は、インド太平洋地域が米中対立によって2つにブロック化される動きを拒み、緊張緩和を図る独自の「第3の道」を目指している。

マクロン大統領は今年9月、各国に派遣されているフランス大使を集めたエリゼ宮殿(大統領官邸)での会議で、中国が自国の都合の良いように国際ルールを再定義していると懸念を表明。しかし、その一方で「インド太平洋で中国と対立する戦略を持ちたくはない」とも述べた。冒頭のヴァンディエ参謀総長の発言は、こうしたマクロン政権のインド太平洋戦略を表すものだ。

フランスはインド洋のレユニオン、南太平洋のポリネシアやニューカレドニアなどに海外領土を有し、「自国はインド太平洋国家だ」と宣言してきた。インド洋と太平洋の双方に領土と基地を持つ唯一の欧州連合(EU)加盟国だ。

ヴァンディエ参謀総長によると、インド太平洋地域のフランスの海外領土には約160万人のフランス人が住んでいる。また、この地域はフランスのすべての排他的経済水域(EEZ)の91%を占める。そして、12隻の艦艇と6隻の哨戒艇、7000人の軍人と約30の軍用機が配備されている。

ヴァンディエ参謀総長は、ロシアのウクライナ侵略によるインド太平洋地域への影響や台湾有事、フランス海軍の人員確保の課題など様々な質問に答えた。

主な質問と答えは以下の通り。

――ロシアのウクライナ侵攻の前と後で、フランスのインド太平洋地域における軍事的な戦略に何らかの変化が生じたか。ロシアに対するヨーロッパの警戒度は上がっていると思うが、インド太平洋地域に充てられる軍事的資源は従来と変わったか。

確かにロシアによるウクライナ侵攻を受けて、フランスの軍事態勢は変わった。我々は「リアシュアランス(安心の供与)」のオペレーションを実施している。ルーマニアなどの空域でパトロールを行っている。NATO東側には陸軍の部隊500人を派遣している。海軍の作戦については、人員を2.5倍に増やした。

しかし、だからといって、インド太平洋地域への関与は変わることはない。フランスがインド太平洋地域の沿岸国であることは変わらない。排他的経済水域を守らなくてならないという事実も変わらない。そのため、来年演習艦隊「ジャンヌ・ダルク」が世界一周を行う。その際にフィジーやオーストラリアなどの南太平洋の国々に寄港する。そして、ロレーヌという最新型のフリゲートが北太平洋に展開される予定だ。今後数週間後に空母シャルル・ド・ゴールもインド洋に展開される。

――中国の東シナ海や南シナ海への進出が懸念され、台湾有事の可能性も取りざたされている。インド太平洋での中国の位置づけを「脅威」とみなしているのか。

これは非常に政治的な質問だ。大統領は9月に大使の前で行ったスピーチでは、中国は体系的なライバルでもあると述べた。気候変動や生物多様性の問題については中国と協力、対話を行うことが重要だ。軍事的には衝突を避けるために対話をしていくことが重要だ。

――中国は今年に入り、台湾海峡が国際水域ではないと言い始めた。フランス海軍艦艇は台湾海峡をこれまで通り、通航していくのか。

非常にセンシティブな問題だ。フランスは当然、この海域におけるプレゼンスを同盟国、友好国とともに継続的に示していく考えだ。その展開にあたっては毎回、フランス統合参謀総長から詳細なルートの承認が下りるが、これはその都度、政治的な意図に基づき、綿密に構築されるものだ。フランスは(海峡制度に関する条約の)モントルー条約を非常に重視し、とりわけこの条約の中の航行の自由の項目を重視している。その一方で、特定の国に対する挑発行為は行いたくない。その都度、どこのルートを通っていくかは変わっていく。

――アメリカの要人は今後5年以内に、中国の台湾侵攻が行われるのではないかと言及している。フランスは、その可能性がどの程度あると考えるか。また、実際に台湾有事が起こった際にフランス海軍としてどのような措置を取るのか。

少しがっかりさせてしまうかもしれないが、私自身は海軍の人間であり、情報機関の人間ではない。そうした地勢学的な分析はしていない。いつ台湾で有事が起こるかといった予測はできない。また、まだ起こっていない危機に対して、それがどのような形で何がきっかけで起こって、どのような国々が参加するのか、様々な要素がある。そうしたことが分かっていない時点で、どのような対応をするかを答えることはできない。ただ、参謀本部ではこうした有事に備えて様々な検討を行っている。

――日本とフランスは水中無人機(UUV)の共同研究開発を進めている。その進捗状況はどうなっているか。

三菱重工業と仏企業タレスの間で機雷除去のための水中無人機の開発が行われている。タレスは非常に正確で優れたソナーを提供している。現在はデモンストレーション(実証)の段階だ。日仏共同開発の水中無人機については、海上装備の展示会ユーロナヴァル(Euronaval)が先月フランスで行われたが、その後、フランス国防省装備総局(DGA)と日本の防衛装備庁との間で作業部会が行われ、非常にプロジェクトがうまく進行している。

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――海上自衛隊の能力について、どのように評価しているか。

海上自衛隊とは定期的に共同訓練を行っている。私が思うに、自衛隊員は非常にプロ意識が高い。海上自衛隊はイラクに補給艦を何年間も展開し、我々とオペレーションを一緒に行う機会が何度もあったが、非常に規律正しい。装備品については、戦闘装備などはアメリカの基準に則っているので、共同活動をとても行いやすい。酒井海上幕僚長とも今朝、話をしたが、今後戦闘分野に関して、より進化した共同訓練を実施したいと申し上げた。

――少子高齢化社会の影響もあり、海上自衛隊は隊員集めに非常に苦労をしているが、フランス海軍はどうか。

フランス海軍は採用に関しては問題がなく、毎年4000人の若者を採用している。ただ、問題なのが、彼らが年々早く離職してしまっていることだ。給料が充実しているのにもかかわらず、制約の多い任務ということで年々早期退職する人が増えている。海軍参謀総長として、私は入隊する若者たちをできるだけ早く教育することを目標としている。

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