AIができること、人間にしかできない仕事…テクノべート時代の考え方

現代のビジネスパーソンにとってITリテラシーが必須となったように、求められるスキルや知識は時代によって変わっていきます。この先の時代に向け、どのようなことを身につけていくべきなのでしょうか?

ビジネススクール「グロービス」による著書『MBA 2030年の基礎知識100』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集してテクノべートの時代に変わること・身につけるべきことについて解説します。


問題解決の3つの方法論──AI時代に持っておくべき思考

長年、問題解決にはコンサルティングファーム的な思考方法であるクリティカル・シンキングが用いられてきました。これは、問題を人間の力で分解し、因果関係を論理的に考えて問題解決をしようという発想です。トヨタの問題解決に近い方法論とも言えます。この方法論は、2030年においても相変わらず有効な考え方でしょう。

一方で、デジタル化が進む中で必要になってきたのが、 テクノベート・シンキング です。これは「機械(コンピュータ)が得意な分野は徹底的に機械に任せてしまおう」という発想です。機械の特徴である、「桁違いに計算能力が高く、しかも、どれだけ計算をしても疲れないし、感情によるブレもない」という特徴を生かした問題解決の在り方です。AIがさらに進化を遂げる中で、この思考法に対する理解がさらに必要になるでしょう。自分でプログラムを組む必要はないまでも、「機械があればこの作業を任せることができる」と理解することがポイントとなります。

そして、もう1つ脚光を浴びているのが、 デザイン・シンキング です。

これは機械的な問題解決に対するアンチテーゼとも言えるもので、徹底的に人間の感情に寄り添うことを主眼とします。エスノグラフィーによる観察や、プロトタイプによる「手触り感」を重視します。この10年間くらいで非常に発達しました。2030年には、さらに進化することが期待されます。

おそらく、2030年において問題解決に優れている人間とは、この3つを理解し、適宜組み合わせることができる人間でしょう。

どれか1つの方法論しか知らなければ、有効な問題解決はできません。 論理的な思考、コンピュータや AI に対する理解、そして人間の感情に寄り添う共感力をバランスよく組み合わせることが必要となってくる のです。

【図表】3つの問題解決方法

クリティカル・シンキング──「HOW」を増やすことが重要に

クリティカル・シンキングによる典型的な問題解決の流れは図表2-2のようになります。

これは、人間の脳の限られた情報処理能力をいかに効果的に使って問題解決をするかという前提から発展したものです。それゆえ、フレームワークを使って分析をしたりするという形で、情報や変数を絞り込むことに主眼が置かれています。つまり、 人間の脳の認知能力には限界があるので、変数を絞り込んで抽象化し、モデル化して考える ということです。

例えば、経営における分析のフレームワークに3Cや4P、あるいは7Sといった有名なものがありますが、これらは人間の認知能力を前提にしています。30Cや40Pでは、人間はそのフレームワークを覚えることができません。人間の頭で処理できる数に落とし込んでいるわけです。

クリティカル・シンキングの考え方自体は2030年も相変わらず有効ですが、多少のバージョンアップは必要です。具体的には、問題解決の HOWの方法論の激増、変化 を理解することです。

【図表】クリティカル・シンキングによる問題解決

クリティカル・シンキングでは、これまでは「まずイシュー設定」が重視されてきました。つまり、解決すべき問題や「あるべき姿」を、まずはしっかりイメージするということです。

ただ、そのイシュー設定は往々にして既存の実現可能なHOWを想定したものになってしまい、予定調和的にそこに持ち込むということが少なくありませんでした。これでは「決して悪くはないけれど、エクセレントではない」解決策しか出てきません。

イシューの設定は重要ではあるものの、既存のHOWの世界観に留まるのではなく、どんなHOWがあるのかを正しく知ったうえで、それを行う必要性が増しているのです。

表現を変えると、 イシュー設定とHOWに至るまでのスピードアップを行い、どんどん修正をかけていく力が必要となる のです。

テクノベート・シンキング──AIができることを知っておこう

テクノベート・シンキングは、 徹底的にコンピュータを活用しようという考え方 です。

コンピュータが問題を解決した初期の有名な例に、数学の4色問題があります。これは「地図において隣り合った地域を別の色で塗りつぶす際、4色あれば足りる」という命題でした。長年、数学者はこれが正しいのかを解決できずにいましたが、コンピュータがすべての場合分けにおいて4色で足りることを証明してしまったのです。

今となっては、これはテクノベート・シンキングの先駆けだったとみなすこともできます。つまり、人間の脳ではとても計算できないことも、機械に適切なアルゴリズムとプログラム、そしてデータを与えれば、機械がそれを計算してくれるということです。

そして、その 中心となるのがAI、すなわち人工知能 です。

【図表】テクノベート・シンキングによる問題解決

典型的なテクノベート・シンキングの流れは図表2-3のようになります。この中で 重要なのは、やはり、ありたい姿を描く上流部分 です。そのためには、 「機械は(ある予算の範囲で)何ができるか」という情報を常にアップデートしておくことが必要 です。

下流の実装(プログラミング)も重要ですが、ここは一般には専門家が担当する部分です。一般のビジネスパーソンとしては、自分でプログラミングは組まないまでも、 プログラミングの基礎程度は手を動かして肌感覚で知っておくことが望まれます 。2030年までにはプログラミングの在り方も大きく変わりそうなので(例:コードレスになる)、最低限のキャッチアップをしておけばいいでしょう。この部分が理解できれば、「ありたい姿を描く」の部分もスムーズに行えるようになり、問題解決も効率、効果が上がるからです。

テクノベート・シンキングが威力を発揮するのは、ソリューションの個別化(パーソナライズ化) です。例えば、スマホのSNSやニュースサイトの画面は各人で異なりますが、それはそのようなアルゴリズムを用意しているからです。さらに個人主義が進む2030年にどのような個別化を消費者や社会が求めているのかに敏感になる必要があります。

デザイン・シンキング──人間が価値を発揮しやすい思考

デザイン・シンキングが生まれたのは二十数年前とされますが、特にこの10年程度で社会に浸透してきました。

テクノベート・シンキングとは正反対とまでは言わないまでも、かなりアプローチを異にします。その典型的なアプローチを示したのが図表2-4です。

デザイン・シンキングの重要なキーワードは、「観察」「共感」「潜在的な不満の特定(洞察)」「ストーリー」「プロトタイピング」「手触り感のテスト」「成長」などです。これらはコンピュータが苦手としている領域であり、 人間ならではのバリューが出しやすい分野 と言えます。AIやビッグデータの時代だからこそ、かえってこうした発想の重要度が増すとも言えるのです。「デザイン」そのものが人間的な想像力を必要とするものであり、機械が苦手としているという側面もあります。

デザイン・シンキングはこれまで、劇的なイノベーションよりも、ちょっとした使いやすさの改善に向くとされてきましたが、2030年頃には、デザイン・シンキングからよりイノベーティブなプロダクトが生まれている可能性も高いでしょう。 デザイン・シンキングはもともと、本質的な顧客の潜在ニーズに踏み込んでいくもの だからです。

その際のポイントは、 思い込みを極力排除すること です。「このくらいでいいかな」で留まらず、「もっとこうした方がいい」と発想を飛ばすことが、よりイノベーティブなプロダクトの開発につながります。
2030年にはそのための知見も溜まっていることが予想されるので、一般のビジネスパーソンも、その最新の潮流は押さえておくべきでしょう。

【図表】デザイン・シンキングによる問題解決

人間にしかできない仕事をする──機械に任せられることは任せる

古くより、単純労働は機械に置き換えられてきました。2030年には、ロボットやAIにより、今よりもさらに人間の仕事が代替されることが予想されています。かつては頭脳労働の代表的仕事とみなされていた弁護士などの業務も、そのかなりの部分はAIが取って代わるかもしれません。そうした時代に生き残るには、ビジネスパーソンとして、どのような力が必要なのでしょうか。

『AI時代の勝者と敗者』(日経BP)において、著者のトーマス・ダベンポート氏らは、AIが進化する時代にも機械に奪われずに残る、人間ならではの仕事を5つ紹介しています。

(1) ステップ・アップ:自動システムの上をいく仕事。機械と連携する人間というシステムそのものを構築・監督する仕事
(2) ステップ・アサイド:機械にできない仕事。創造性が必要な仕事、細かい気配りが必要な仕事、人を鼓舞する仕事など
(3) ステップ・イン:ビジネスと技術をつなぐ仕事
(4) ステップ・ナロウリー:自動化されない専門的な仕事。他人にはよくわからなかったり、その仕事に関するデータがあまりなかったりする仕事。例えば、キタキツネの飼育など
(5) ステップ・フォワード:新システムを生み出す仕事。言い換えれば、自ら新しいテクノロジーを追求する仕事

ある程度の数のビジネスパーソンが関わってくるのは(1)と(3)です。これらは、一定レベル以上のテクノロジーの知識を必要としつつ、一方でビジネスのことも理解しておかなくてはならないため、難易度は高いものの、人間が価値を出せる部分と言えます。当然、テクノベート・シンキングの知識なども必須となってきます。

最も多くのビジネスパーソンに関連するのは(2)でしょう。それまでにない新しい問題解決の方法を提示したり、相手の顔色や文脈を読んでコミュニケーションしたり、モチベーションを与えたりという仕事は、当面、機械に置き換えられることはないと予想できます。

先述した問題解決におけるイシュー設定も人間にしかできない仕事と言えます。「こんな課題を解いてみたい」ということを考える力は、やはり人間独自のものと言えるでしょう。

また、問題解決手法としてのデザイン・シンキングも、やはり人間にしかできません。ある程度機械の力を借りることはできますが、基本的には人間の感性や直感に頼る部分が大きいからです。

なお、テクノロジーを軸としたサービスの中にデザイン・シンキング的なものが混ざってくることも予想されるので、その融合にも注意を払っておくことが必要です(例えばグロービスが提供している「ナノ単科」というサービスは、AIを活用しつつも、顧客体験にはかなりデザイン・シンキングの要素を盛り込んでいます)。

このように見てくると、結局は、 自ら課題を設定し、何らかの方法でそれを解決できる人間のバリューが高まる一方で、AI そのものがやれてしまう仕事の価値は激減する ことが分かります。

ロボットの進化などもそれを加速します。人から与えられた仕事をこなすだけではダメです。自ら問いを立て、考え、問題解決をする人間こそが必要とされるのです。

著者:グロービス、執筆・編集:嶋田 毅

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