細菌由来の化合物が細胞膜を透過、新薬期待 福井県立大学チームが研究成果「革新もたらす可能性」

バイオ医薬品の開発につながる研究成果を発表する濱野吉十教授(右)ら研究チーム=11月10日、福井県永平寺町の福井県立大学永平寺キャンパス

 福井県立大学生物資源学部生物資源学科の濱野吉十(はまの・よしみつ)教授らの研究チームは11月10日、細菌由来の化合物が動物の細胞膜を透過することを実験で証明したと発表した。この化合物と、医療に使うタンパク質や抗体を結合させることで細胞内部の疾病に薬効を届けられ、バイオ医薬品開発への応用が期待できるという。

 生物由来のバイオ医薬品は創薬の主流となっているが、抗体などを細胞内部に届ける薬は未開発といい、永平寺町の同大永平寺キャンパスで会見した濱野教授は「県立大の研究が創薬界に革新をもたらす可能性がある」とした。

 研究では、抗生物質の生産に使われる放線菌から親水性を持つ化合物を精製。単体では細胞膜を透過できないタンパク質や抗体と、この化合物を「クリック反応」と呼ばれる化学反応を用いて結合させることで、成分を細胞や核の中まで届けられることを突き止めた。

 さらに、この化合物は生体との適合性が高く、心臓の人工弁や手術パッチなどを覆うコーティング材としても活用できるという。

 細胞を透過する化合物は化学的に合成できるが、1グラム当たり2千万円以上の多大なコストがかかり実用化されていない。一方、細菌由来の化合物は大量に精製できるため1グラム20万円程度で済むという。開発技術は国内特許を取得した。

 特許取得により、製薬企業などからライセンス料を得られる。今後は、福井県立大発のベンチャー企業「マイクローブケム合同会社」が米国や中国でも特許取得を進める。

 今回の成果は、濱野教授らの20年近い研究の集大成となる。透過の証明では、同大大学院博士後期課程3年の武内大和さんによる蛍光タンパク質を使った実験が貢献。モデルとしたがん細胞内にタンパク質が透過する様子を動画で記録した。

 論文は英国の著名な学会誌「コミュニケーションズ バイオロジー」電子版に掲載された。

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