出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・11月6日に開かれた富山マラソンに出場した。
・最後尾を走っていると、笑顔を見せながら伴走者と走っている全盲のバイオリニスト、穴澤雄介さんに会った。
・市民マラソンの良さは、タイムだけではなく、さまざまな人が走っていること。
11月6日に開かれた富山マラソンに出場しましたが、残念な結果になりました。20キロ時点で、断念したのです。フルマラソン6回目で、初の棄権です。それでも、マラソンを通じて、重要なことを学びました。
この日は快晴。1万4000人ほどのランナーが我が故郷、高岡に勢ぞろいしました。改めて人の多さに驚きました。午前9時スタート。私は、走り始めから、痛みを感じて足を引きずっていました。高岡大仏、山町筋などの沿道には、多くの知り合いと会いました。「がんばれー」と言われましたが、痛すぎて、もう駄目だと思いながらも、笑顔で応じました。
今回は、地元のランニングチームに入り、入念に準備しました。走り方などを教えてもらいながら、11月6日のこのマラソン大会に照準を当てたのです。順調な仕上がりだと思っていました。
ところが異変が起きたのは10月22日です。長距離ランとして、20キロほどの練習したのですが、後半で左の膝が突然、痛みに襲われました。その後、階段を上ったり、降りたりするのも手すりにつながって生活していました。
当初、出場自体、やめようとも思いました。「無理するな」と何人もの人に言われました。 それもそうです。議員活動に影響を出すわけにはいきません。
しかし、思いとどまったのは、東京の友人たちが富山マラソンに参加してくれるからです。わざわざ東京から来てくれるのです。
富山の良さを一緒に味わいたい。途中で棄権してもいい。私はそんな思いの参加で、当初からゆっくり走りました。
すると、これまでのマラソンでは見えなかった風景が走行中に見えたのです。
最後尾だからこそ見えるマラソンランナーの姿です。マラソンレースには、制限時間を設けられた関門がありますが、関門ぎりぎりで通過する人々です。
ある人は、私以上に、足を引きずっていました。本当に痛そうです。また、悠々と歩いている人の姿もありました。最初からタイムに拘らず、速足で散歩しているのです。制限時間7時間内に入ればいいという考えのようです。
そして目を引いたのは、障がいのある方が伴走者と一緒に走っている姿です。10キロ以上も走っているのに、時に、笑顔を見せているのです。エネルギーいっぱいです。伴走者の方も優しく声掛けして、2人でランニングを楽しんでいる様子でした。走る喜びが全身から、見えました。僕はその姿を見て、自分の足の痛さを忘れました。挑戦する姿に、心打たれたのです。
マラソン翌日の地元新聞を読んでいて、私が目にしたのは、全盲のバイオリニスト、穴澤雄介さんだと、分かりました。穴澤さんは、生まれつき、目と心臓に障がいがあり、高校生の時に視力を失いました。幼い頃は、50メートルを走るのが精いっぱいだったそうです。穴澤さんはこの日、完走しました。私が断念した後、20キロ以上走り続けたのです。お疲れ様です。
市民マラソンの良さは、タイムだけではありません。やはり、さまざまな人が走っていることです。速い人もいれば、遅い人もいる。途中棄権含めて、それぞれの走り方があります。現実社会を凝縮したのが、マラソンです。途中棄権したからこそ、穴澤さんにお会いできました。
マラソンを終えると、多くのランナーが「完走しました」と、フェイスブックに上げています。羨ましいと思う反面、私は、棄権は棄権でまたよしと、思っています。大事なのは参加することです。来年の富山マラソンに向けてまた、準備します。
トップ写真:富山マラソン会場に集まるランナーたち(富山県、高岡市) 出典:筆者提供