シニア人材、Z世代、リモートワーク…2030年に求められるマネジメント力とは?

現代のビジネスパーソンにとってITリテラシーが必須となったように、求められるスキルや知識は時代によって変わっていきます。この先の時代に向け、どのようなことを身につけていくべきなのでしょうか?

ビジネススクール「グロービス」による著書『MBA 2030年の基礎知識100』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集して2030年に求められる組織と人のマネジメントについて解説します。


働くシニア人材が増える──年長者の強みをどう活かすか

少子高齢化の時代において、シニア人材を活用することは、社会の公器である企業にとって責務であると言えるでしょう。

年金制度なども先が見えない中で、シニア側もより長く働きたい(働かざるを得ない)という事情があります。

企業がシニア社員を効果的に起用することは、お互いにとってWin-Winとなるのです。

シニア社員の強みは、やはり経験と人脈です。

環境変化が速い時代ですから、知識そのものの陳腐化は早くなるでしょうが、それでもシニアならではの知恵――例えば仕事の進め方のコツや交渉での落としどころの探り方――などはあるものです。
それは積極的に活用したいものです。

彼らの人脈も魅力的です。彼らはビジネスに長く携わっているので、当然、内外の人脈は豊富でしょう。企業に外部との協業が求められる時代、シニア社員のネットワークは企業にとって大きな財産となります。

一方で、シニア社員の弱点もあります。まず、体力や気力の欠如です。かつてに比べると健康寿命が延びたとはいえ、50代くらいから、やはり体力のみならず気力も衰えるのが一般的です。60代のシニア社員に40代の働き盛りのような仕事をこなしてもらうのは、やはり難しいものです。

それゆえ、どうしても激務ではない仕事をしてもらうことになるのですが、その際にどのような処遇にすべきなのか、どのような仕事をアサインメントするのかは、非常に難しい問題になります。

また、シニア人材はどうしても若手に比べると学習能力や対応能力が低くなります。若手であれば、その時点での力量や志向と多少異なる仕事を与えても対応できることが多いものですが、シニア社員にそれを求めるのは難しいものがあります。「人のために仕事を作る」のは本末転倒ですから、 シニアを活かしつつも生産性の高い組織とすべく、業務プロセスを抜本的に改善する必要性が増す でしょう。その際に、シニアでも扱いやすいITツールやロボティクスを導入することも必要です。

体力に関連して言うと、 病気などによる休みなども、予め念頭に置く必要があります。 それも見込んだうえで、バックアップが利く体制を作ることも必要となるでしょう。健康的に働いてもらうために、最初から週休3日にするなどの雇用の柔軟性も必要でしょう。

部下としてのシニアのマネジメントも難しくなります。

日本は、もともと年功序列の文化が根強く残っています。そうした中で、年下の上司に指示されたり評価されたりすることを快く思わない人は多いでしょう。

組織の中核を担うミドルマネジャーは、年上の部下には、年下の部下以上に丁寧なマネジメントを行うことが必要となります。 礼儀は尽くすものの、言うべきことをしっかりと伝え、事実ベースで仕事をすることが求められます。「役割」としてマネジメントを行うということを今まで以上に意識したいものです。

一番難しいのは、非生産的なシニアの扱いかもしれません。

すべてのシニアが知恵や人脈を持っているわけではありません。20代の駆け出しビジネスパーソンと同じくらいのアウトプットしか出せない人も多いでしょう。

その意味で、 「できるシニア」と「できないシニア」の格差が大きく広がる ことが予想されます。企業としては、その中でも不公平感が生まれない雇用の仕組みや人事制度を構築することが必要となります。

これは難しいことではありますが、活躍するシニアの姿を見ること、あるいは活躍できないシニアの待遇を見ることは、若手の社員にも希望や危機意識を与える ものです。それも意識した懐の深いシニア活用が求められます。

Z世代が企業の主力になる──「共感」のマネジメントが重要に

2030年にはZ世代が30代前後となり、企業の主力となっていきます。

Z世代は、それまでの世代とさまざまな点で価値観が異なると指摘されています。具体的には以下のような点です。

⃝ 物心がついた時にはインターネットのブロードバンド環境があった、真のデジタル・ネイティブ世代
⃝ SNSやスマホを使いこなす
⃝ 個人主義や「自分らしさ」へのこだわりが日本人としては強い
⃝ 社会問題への関心が強い
⃝ 特定の企業に対する帰属意識が弱い
⃝ 能力開発に対する関心が強い
⃝ 日本が元気だった時代を知らない

日本企業はよくも悪くも同質性が高く、特にゼネラリストについてはメンバーシップ型雇用により「会社の色に染める」ということが重視されてきました。

一方で、Z世代は自分らしさを重視しますから、容易には会社の色に染まりません。特に、不合理と彼らが考えることはしたがりません。例えば、意味のないと思われる残業や「雑巾がけ」的な仕事です。こうした仕事を押し付けることは、やる気を削ぐだけではなく、嫌悪感を引き起こすことにつながりかねません。

「18時になったから帰ります」「明日は絶対に趣味の時間に使いたいので休みたいです」と主張する人間も増えることが予想されています。特定の会社に対する帰属意識も弱いですから、「自分らしくいられない」と考えると転職もいとわないことが想定されます。Z世代以前の管理職にとっては、非常にマネジメントが難しい世代と言えます。そうした人材がどんどんマネジャー層へと成長していくのです。

一方で、人間である以上、普遍のものもあります。内発的な動機が湧くものには熱中する、自分の有能さが証明される仕事をしたがる、自己実現欲求や承認欲求、愛と所属の欲求を満たしたい、などです。

上司としては、それまでの世代以上に丁寧にコミュニケーションや観察をし、彼らが何に価値観を抱いているかを理解することが必要になります。 上意下達の一方的な命令方式は通用しにくくなり、丁寧な説明やコーチングなどが今まで以上に重要になってきます。

また、 業務のアサインメントについても、彼らが価値を感じるものを中心に考える必要性が生じるでしょう (もちろん、すべての仕事をそれで満たすことはできないので、バランスが重要です)。プライベートを重視する人も増えますから、それに合わせた仕事の割り振りも求められます。

キーワードは「共感」でしょう。 彼らの考え方や嗜好をリスペクトしたうえで、どうやったら同じ方向に向けて一緒に頑張っていけるかをしっかり考える ことが必要です。

マネジメントの基本は個別対応です。「Z世代」とひとくくりにするのではなく、一人ひとりの個性に応じたマネジメントが必要になります。

Z世代のマネジメントの難しさについて述べましたが、一方で、彼らは 社会的価値やダイバーシティに対しては柔軟 です。また、 ITに対する感度は高い ですから、それは活かしたいところです。

例えば、業務の中に社会貢献的な要素をより盛り込むことで、彼らのモチベーションが上がる可能性があります。あるいは、デジタル関係の事柄については、彼らからの提言をどんどん取り入れることが、会社をよい方向に導くかもしれません。

彼らは、「自分は自分」と言いつつも、その会社に入った理由は必ずあります。特に経営理念やビジョンへの共感は大切です。それを軸に据えながらも、彼ら個々のニーズを充足することが、マネジメントの基本となるでしょう。

リモートワークがさらに普及する──コミュニケーションが課題に

2020年から続いている新型コロナ禍は多くの人々の生活に影響を与えました。その中には、プラスの効用もありました。それは、リモートワークでもある程度は仕事の成果は出せることが分かったということです。Zoomに代表されるオンライン会議ツールの進化も、これを後押ししました。

もちろん、物理的にどうしても人と接さざるを得ない仕事(例:医師の診察)や、リモートではやりにくい仕事(例:新規顧客への営業)などもありますが、ホワイトカラーの仕事の多くの部分は、リモートワークでもある程度こなせることが分かったのです。これは、ICTツールの進化と相まって、2030年にはさらに加速するでしょう。

リモートワークのダイレクトなメリットとしては、通勤時間を減らせること、出張関連の時間や費用を減らせることなどがあります。

通勤時間は、スマホでの情報収集や勉強の時間にも充てることができるとはいえ、1日の時間の中でも最も無駄な時間とも言えるもので、それを削減できることは、個人にとっても企業にとっても大きなメリットです。出張も同様です。

単身赴任や急な転勤といった個人に犠牲を強いる働き方から脱却できることも大きなメリットです。すでに現在でも、ホワイトカラーについては転勤を止める方針を打ち出す企業が増えています。これは働き方改革にもつながりますから、さらに多くの企業で導入されるでしょう。

高齢化が進む中で、介護の効率化を促す可能性もあります。

一方でリモートワークのデメリットもあります。リサーチの結果、コミュニケーションの量や質はチームのパフォーマンスと緩やかな相関があることが知られています。 2022年時点では、コミュニケーションに関しては、リアルの職場に比べると、リモートワークではどうしても質・量とも下がってしまいます。それをどう補うのかが、2030年に向けての大きな課題となる でしょう。通常はミーティングをするほどのことではなくとも、気軽に話を聞いたり相談したりできる雰囲気作りが大切です。

部下の評価なども、一般的には難しくなります。すでにアウトプット管理を導入している企業も増えていますが、その動きをさらに加速させることも必要でしょう。つまり、 プロセスも重要ではあるものの、結果(アウトプット)で人を評価する ということです。特に管理職以上については、それが言えるでしょう。

難しいのは、まだ指導の必要性が高く、また、結果だけではなくプロセスについても評価しなくてはならない若手への対応です。「仕事ぶり」というものはリモートのみでは把握しにくいですし、手取り足取りの指導も困難です。 プロセス型のKPIや途中成果物の確認などの可視化に加え、どのように働いているのかを可視化する仕組みの導入も必要 でしょう。プライバシー保護の問題との兼ね合いにはなりますが、リモートワークの様子を上司が確認できるようなモニタリングシステムも必要となるかもしれません。

仕事術については、阿吽の呼吸で伝えるのではなく、しっかり言語化、文書化し、横展開することの必要性も増すでしょう。 暗黙知をしっかり形式知化する ということです。

リモートワークのもう1つの課題は、組織のサイロ化です。リモートワーク中心だと、どうしても他部署とのコミュニケーションがリアルのオフィスに比べ希薄になってしまうのです。これは、単に業務の非効率化を招くだけではなく、組織に眠る知恵の活用を妨げ、イノベーションなども生まれにくくなります。

最新のICTツールを活用したり、リアルでの接触の場を一定レベル設けたりといった工夫が必要となるでしょう。

社外との協業・コミュニティが増える──人を集めるには、どうするか?

組織の垣根がますます低くなる2030年は、社外の人々と協業したり、自社を軸にしたコミュニティを作ったりして、そこに多くの優秀な人々が(関与の濃淡はあっても)集ってくれることが望ましい時代となるでしょう。その時に必要な要件を、ここでは3つ挙げます。

1つ目は、コミュニティ作りに関連する話ですが、面白い目的を設定することが大切です。目的がまったくなければ人は集まってきませんが、 「利益を出しましょう」という話だけでも魅力は感じてもらえません。 SDGsでも社会問題解決でも人作りでも構いませんが、「面白そう。このコミュニティにいると自分のためにもなるし、Win-Winの関係性が構築できそう」「このコミュニティで頑張っている自分を誇れる」と思ってもらえることが大切です。

2030年頃は、 今以上に「パーパス」や「ビーイング」(何をするかではなく、どうあるべきか)ということに注目が集まる と予想されています。その時に、その組織の根源的な目的がある程度見えやすいと、人が集まってくるのです。

2つ目は、 社外の人々を惹きつける人材のユニークさ です。

人はやはり、一緒にいて面白いと感じられる人、あるいは学びになると感じられる人などと付き合いたいと考えるものです。いい人がいる、尊敬できる人がいる、最先端を行っている人がいる。だから自分もそこに参加したい、というのは人間の本能でしょう。

そうした人々を社内で育成する、あるいは外から集めることができれば、加速度的にコミュニティが大きくなっていきます。

「この人とこの人を足すと、このような面白い場が生まれる」という発想も必要でしょう。

なお、ここでもITツールの活用は必須です。2030年には、現在のSNSなどに加え、さらにネットワーキング、マッチングのためのITサービスが充実していることが予測されます。それを研究して、どんどん取り入れることも求められます。

自社の周りにいい人が集まり、必要に応じて(オンデマンド的に)一緒にプロジェクトを遂行していこうというやり方を推進できる企業は強い でしょう。その際、相手の期待するスピード感から遅れないためにも、 社内の意思決定スピードなどを上げる ことも求められます。

逆に言えば、こうしたことをしっかりやらず、社内に閉じて、限られた人材で、スピード感なくいろいろなことをやろうとするからこそ、日本企業の生産性が低く留まっているとも言えます。

3つ目は、ITシステムの活用です。

日本企業の場合、協業相手ごとに「擦り合わせ的」にスクラッチで業務プロセスを作ることがまだまだ多いです。しかし、これは非効率です。

現在でも先端企業は、例えばリクルーティングをアウトソースする際には、ITのシステムにちゃんと乗ってもらう形で、これを行います。すでに基幹システムがあるのだから、業務のためにシステムの方を変えるというやり方はしないわけです。

分業も、「この部分については我々、この部分についてはそちらでお願いします」という形の分業が効果的です。モジュール単位で協力していくと言ってもいいでしょう。これはコミュニケーションコストを下げることにもつながります。

また、人間が入るとミスをしやすくなりますし、属人性が大きくなると引き継ぎが面倒になるという側面もあります。それゆえ、できるだけ人間に属人的に関与させない形の業務プロセス設計が効果的です。特に対面である必要性の低いバックオフィス的な業務については、その推進が必要です(もちろん、完全にITシステムに乗せることはできませんが、可能な限り、それを行うことが効率的ということです)。

著者:グロービス、執筆・編集:嶋田 毅

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