デジタル庁が立ち上げた、新しい組織の形「DAO」って何? 社長のいない株式会社といわれる理由と問題点

日本のデジタル庁は、政府が掲げる「デジタル社会の実現に重点計画」において「ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)の利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備」が盛り込まれたことを踏まえ、今年10月からWeb3.0研究会を週次で開催しています。

今月2日には第5回目となるWeb3.0研究会が開催されました。そのなかで参加者からの提案に基づいて独自のDAO(分散型自律組織)を設立する方針が発表されました。行政の立場として自らDAOに参加することによって、DAOがもつ課題や可能性を認識し、今後の研究会の議論に活かすことが目的とのことです。

このニュースはデジタル庁の先進的な取り組みとしてメディアでも紹介されていますが、内容を読んで「DAOってなに?」と思われた方も少なくないでしょう。DAOはDecentralized Autonomous Organizationの略で、その日本語訳である分散型自律組織と聞いてもまったく仕組みがわかりません。

そこで今回は新しい組織の形として注目されるDAOについて解説します。DAOとはどのように運営される組織なのでしょうか。また、私たちはどのようにDAOと関わる可能性があるのでしょうか。


「DAO」とは?

DAOの仕組みをいくつかの特徴に分けて噛み砕いていきましょう。

まず初めにDAOはインターネット上に存在するオープンな組織であるため、特定の条件さえ満たせば世界中の誰でも自由に参加することができます。また、参加者の全員が組織の運営に関して提案および投票することができます。そして意思決定の結果は第三者でも確認できる形でブロックチェーン上に記録されます。

次にDAOは社長のいない株式会社であるといえます。DAOは「ガバナンストークン」と呼ばれる暗号資産(NFTが該当することもあります)を株式の代わりに発行し、ユーザーはガバナンストークンを保有することでDAOの運営に携わることができます。あるサービスの運営をDAOとしてユーザーに委ねる場合もあれば、あるコンセプトをもとにDAOが形成される場合もあり、立ち上がり方はケースバイケースですが、基本的にはトークン保有者によって民主的に活動方針が決められます。

DAOは個人が働ける場でもあります。多くのDAOでは参加者が貢献度に応じて暗号資産(あるいはNFT)を報酬として受け取ることができます。付与される暗号資産はDAOや関連サービスが発展するほど値上がりするため、参加者は報酬を最大化するためにDAOに貢献するモチベーションが生まれます。DAOごとに縛られた雇用契約は存在しないため、複数のDAOに所属しながら暗号資産を稼ぐことも可能です。

たとえば最近では、ステーブルコインDAIの取引プラットフォームであるメイカー・ダオで、保有資産の一部を暗号資産取引所コインベースが提供するカストディに預けて運用するプランが提案され、ガバナンストークンMaker(MKR)保有者の投票によって可決されました。これまでの投票の結果についてもメイカー・ダオのガバナンスフォーラムサイトで確認することができます。

DAOの課題は山積み

DAOは分散型金融(DeFi)が流行した2020年後半から特に注目されるようになりました。主要レンディングプラットフォームのコンパウンドがガバナンストークンを発行し、他のプロジェクトがこれに追随する動きをみせたためです。暗号資産情報サイトのコインマーケットキャップではDAO関連のトークンが約180以上リストされており、掲載されていないものも含めればその数はさらに多いでしょう。

このようにDAOは暗号資産市場を中心に注目される一方で課題も山積みです。一つはDAOの所在国が不明瞭であるため効果的に規制することが難しいということです。米国ではガバナンストークンを保有するDAOの創業者が米国所在であることを理由に規制違反を訴えた事例はありますが、その判断についても当局者の間では賛否両論となっており、規制の方向性は定まっていません。

次に富の偏在リスクがあるということです。DAOではトークン保有量に応じて投票パワーが決定するため、DAOの立ち上げ当初は運営が実質的な権利を握ることがほとんどです。そこからオーナーシップをユーザーへ移譲していく流れが一般的となっていますが、規模の小さいDAOの場合には大口投資家によって突如として運営が乗っ取られるリスクがあります。

その他にも悪意あるユーザーを排除できないリスクがあります。多くのDAOではメンバー同士のコミュニケーションツールとしてディスコードというSNSを活用していますが、管理者がいないことをいいことに、グループ内でフィッシング詐欺などを仕掛ける事例が起きています。日本でもお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏が立ち上げたDAO内で詐欺被害が発生し、問題となっています。

DAOはみんなで組織を良くしながら、みんなで利益を享受できる理想的な組織かもしれません。企業とは別の働き口となり、私たちの労働のあり方を変化させる可能性もあるでしょう。しかし、社会に普及するためには会社法に類する形でDAOを定義することがまずは必要です。その意味でデジタル庁のWeb3.0研究会がDAOをどのように評価するのか注目したいです。

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