「Vサイン」の珍ヒトデ展示 串本海中公園

串本海中公園センター水族館で展示されているケムシヒトデ(和歌山県串本町有田で)

 和歌山県串本町有田の串本海中公園センター水族館が、同町沖で捕獲されたケムシヒトデという珍しいヒトデを展示している。ケムシヒトデは今年9月に出版された国際学術誌に掲載された論文で、半世紀前にすさみ町沖で採集された個体の標本を基に、紀伊半島では初記録で国内2例目として報告されたばかり。それに合わせるかのように見つかった展示個体は、「Vサイン」のように見える姿で、来館者の目を引いている。

 水族館の平林勲係長(32)によると、ケムシヒトデ(ケムシヒトデ科)は「盤(ばん)」という中心部分は小さく、5本の細長い腕を持っている。「ケムシ」の名前の通り体表が多数の小さなとげで覆われているのが特徴だが、毒はないという。

 世界的には南シナ海やタスマニア海などで見つかっているが、国内ではこれまで、小笠原諸島の兄島の海で採集した標本しかなかった。しかし、ヒトデ類の分類を専門としている国立研究開発法人「水産研究・教育機構」水産資源研究所の小暮陽一博士(新潟庁舎主幹研究員)が、大阪市立自然史博物館に収蔵されていた、1975年にすさみ町沖で採集された未同定のヒトデの標本を調べたところ、標本の一つがケムシヒトデであると判明。国際学術誌「Biogeography(バイオジオグラフィー)」(日本生物地理学会発行)に掲載された論文で報告したという。

 論文の公表に合わせるように今年10月3日、このヒトデが串本町田並沖でイセエビ漁の網で混獲され、水族館に提供された。腕の長さは5~7センチで、うち1本の先端が二股に分かれ「Vサイン」をしているような姿は再生異常によるものという。47年ぶりの再発見で串本町からは初記録となり、水族館が飼育・展示している。

■イバラスナヒトデも報告 国内2例目が串本から

 この学術誌に掲載された論文では、2019年12月に平林係長が水族館近くの海で発見したヒトデも報告された。見慣れないことから採集して小暮博士に調査を依頼したところ、これまで国内では沖縄県から標本が1例しか報告されていない「イバラスナヒトデ」(スナヒトデ科)だと分かった。

 2種とも紀伊半島からは初記録で、標本に基づいた記録としては国内2例目であり、分布の北限を大幅に更新する結果になったという。

 平林係長は「生体展示しているケムシヒトデは実は何を食べるのかもよく分からず試行錯誤しているが、飼育を通じて詳しい食性など新しい知見が得られれば。2種とも暖かい海域に生息する南方系種で、標本の数が少ないため、なぜここにいるのかという理由までは分からない。今後の調査で明らかにしていきたい」と話している。

平林勲係長が見つけたイバラスナヒトデ=水族館提供

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