112万人の資産が目減り…企業型DC、転退職時に放置して起きるデメリットとは?必要な年金の手続きをFPが解説

転職や退職をする際に、企業型確定拠出年金(企業型DC)を「持ち運び」できることを知らず、放置されている年金資産が2021年度末で約2,600億円に上っているという報道があり、気になっている方もいるのではないでしょうか?

そこで今回は、転職の際に必要な企業型DCの移管手続きや、放置されている年金資産があった場合の対処法などをお伝えします。


年金資産が放置されているってどういうこと?

最近では企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する企業が増えています。企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員が運用の責任を負うという制度です。公的年金に上乗せ可能な老後資金として、重要な役割を果たしています。

ただし、年金を受け取る前に転職や退職をする場合もあるでしょう。従業員は転職や退職をする際に、企業型DCの年金資産を、転職先の企業年金制度(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金)や個人型確定拠出年金(iDeCo)などに移管しなければなりません。

しかし、国民年金基金連合会が発表した「令和3年 度国民年金基金連合会業務報告書」によると、転職や退職の際に必要な手続きをしないまま放置されている年金資産が2021年度末で約2,600億円という金額になっていることが明らかになりました。人数にすると、2022年9月末時点で約112万人(※)もの方の年金資産だということです。
※出典:国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」より

企業型DCは、会社によって制度があったり無かったりします。企業型DCに加入する際には会社から指示がありますが、転職・退職の際は自分で年金資産を移す手続きしなければなりません。転職活動で忙しい中、転職先が決まってから手続きをしようと思っているうちに忘れてしまう方も多いようです。また、詳しい説明がないまま、大切な老後の年金資産であるという認識がなく放置している方も多いのかもしれません。

期限内に手続きを行わなかったら年金資産は「自動移管」される

企業型DCの加入資格は、退職日の翌日に喪失しますが、資格喪失の翌月から起算して6ヵ月以内に、企業型DCやiDeCo等に年金資産を移す手続きを、脱退一時金の要件を満たしていれば一時金請求の手続きをしなければなりません。

期限内に必要な手続きを行わなかった場合、企業型DCで運用していた年金資産は現金化され、国民年金基金連合会に「自動移管」されてしまいます。自動移管されると、以下のようなデメリットがあります。

(1)現金化されたまま資産運用されないため、資産を増やすことができない
(2)自動移換の際、手数料が4,348円(2022年11月1日現在、以下同じ)かかる
(3)自動移管されて4ヵ月が経過した時点から毎月の管理手数料(月額52円、年間624円)が差し引かれ、個人別管理資産が目減りする
(4)自動移換された後に転職先の企業年金制度(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金)に移管する際に1,100円、個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換する際には3,929円、一時金で受け取る場合には4,180円の手数料がかかる
(5)自動移管されている間は、確定拠出年金の加入者期間と見なされないので、受給資格要件を満たせず受給開始年齢が遅くなる可能性がある

どんな人に年金資産放置の可能性がある?

以前、企業型DC制度のある企業で働いていた方の中には、もしかしたら自分も年金資産を放置しているかもしれない、と思ったかもしれませんね。転職先に企業年金制度がある方は、転職時に前の会社の年金資産を移管する手続きを行ったでしょうか?

また、転職先の企業に企年金制度が無い方や、公務員になった方、自営業になった方、第3号被保険者になった方、まだ退職したままである第1号被保険者の方は、自分で個人型確定拠出年金(iDeCo)の口座を開設し、移管する手続きを行ったでしょうか。

このような手続きを行った記憶がない方は、前の会社の年金資産を放置している可能性があります。
ただし、自動移管を減らすための対策として、転職先での企業型DCや開設したiDeCo口座と、個人情報(カナ氏名や性別、生年月日、基礎年金番号)が一致する場合には、自動的に資産が移管されることになっていますので、自分で手続きをしていなくても年金資産が移管されている可能性もあります。

放置年金があるかどうかの確認方法

年金資産が自動移管されると、確定拠出年金連合会から「確定拠出年金に関する重要なお知らせ(自動移換通知)」が郵送されてきます。このお知らせが来たということは、年金資産を放置しているということですので、早めに対処しましょう。それでも手続きを行わなかったら、毎年「確定拠出年金に関する重要なお知らせ(定期通知)」が送られてきますので、記載されている通り手続きをしましょう。但し、年金資産がゼロ円の方は基本的には手続きをする必要はありません。

引っ越しなどで郵便物が届いていないという方や、今すぐ確認したい方は、基礎年金番号でわかる場合もあるので、確定拠出年金連合会の自動移管者専用コールセンター(03-5958-3736)へ問い合わせてみるとよいでしょう。

放置している年金があった場合の対処方法

放置している年金があった場合は、前述の「確定拠出年金に関する重要なお知らせ」に必要な手続きが記載されていますので早めに対処しましょう。現在、会社員として働いている場合には、転職先の企業年金制度に移管できる可能性があります。会社の担当部署に問い合わせてみましょう。

転職先の企業に企業年金制度が無い方や、退職して公務員になった方、自営業になった方、第3号被保険者になった方、まだ退職したままである第1号被保険者の方は、個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移管することが出来ます。自分で金融機関(運営管理機関)を選んで、早めに手続きをしましょう。iDeCoに資産を移したら、「加入者」として掛金を拠出してさらに年金資産を増やすことができます。掛金を拠出しない場合は、「運用指図者」として、資産運用のみを行うこともできます。どちらの場合も、iDeCoに資産を移す際には手数料がかかります。但し、国民年金保険料の免除や猶予を受けている方は基本的には掛金を拠出することができません。

すでに老齢給付金の受給開始年齢に達している方などは、受給資格要件を満たせば年金を受け取ることができます。ただし、手数料を払っていったんiDeCoに資産を移管しなければなりません。


企業型DC制度がある企業で働いている方は、今後、転職や退職をする際には、年金資産を持ち運びできるということを覚えておきましょう。一定の要件を満たせば、脱退一時金として年金資産を受け取ることができる場合もあります。

年金資産が自動移管されている方は、放置しておくと現金化されたまま手数料が引かれ、目減りしていくことになります。企業型DCやiDeCoなどに移管して運用すれば、増やすこともできます。なるべく早めに対応するようにしましょう。

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