都市部の人の「故郷」に すさみで農家手伝いの交流

向井克往さん(手前左)に教わりながら、レタスの苗植えをする「ふるさとワーケーション」の参加者=和歌山県すさみ町太間川で

 都市部の人らが農業など地方の仕事を手伝い、交流する「ふるさとワーケーション」と呼ばれる取り組みが、和歌山県すさみ町で始まった。受け入れ先となる同町太間川、農業向井克往さん(49)は「こちらも楽しみながら農作業ができる。田舎と都会のつながりが生まれるきっかけになれば」と期待している。

 ふるさとワーケーションは「ふるさとシェアリング」(大阪市)が手掛ける。長年観光業に携わる小田切聡代表(47)は大阪市出身で、すさみ町を釣りでたびたび訪れ、地域住民と交流するようになったのがきっかけという。

 都市部には、生まれも育ちもずっと都会で、田舎的な「故郷」がないという人も多い。都市部の人が地方を訪れて滞在し、その土地の仕事を手伝い、暮らしや営みに触れながら人と交流することで「関係人口」につながるのではないかと発想した。普段とは違うその地域の仕事に携わることで、新たな知識や創造力を得ることにもつながり、仕事にも生きると考えている。

 ふるさとワーケーションは、登録した会員が古民家を改装するなどした拠点に宿泊費を払って泊まりながら、その土地の仕事を手伝う仕組み。現在、すさみ町や京都府京丹後市、奈良県宇陀市など関西に計6カ所あり、農業、漁業、窯元、飲食店の手伝いといった体験ができる。需要は多く、今後も実施地域を増やしていく考えという。

 すさみ町では10月29、30日、マーケティング関係の仕事をする人や会社員ら3人と小田切さんが参加。レンタサイクルで、周参見駅から山間部の太間川地区まで来て、向井さんの畑でレタスの苗植えなど農作業を手伝った。

 向井さんは、すさみ町が日本のレタス栽培発祥の地であることや栽培方法、苦労を伝え、参加者と一緒に作業した。休憩時間には、手作りのショウガや梅のシロップの炭酸割りを振る舞った。

 滋賀県甲賀市から参加した森地隆彦さん(44)は「普段は事務仕事をしているので、こんなふうに土や自然と触れる作業は新鮮。足腰は疲れるが爽快感があった。一見単純に見える作業にも、やり方や理由があることが分かった」と話した。来年1月には、レタスの収穫時期を迎える。参加者からは「収穫時にまた来たい」という声が上がった。

 小田切さんは「地域のことを知ってほしいという地方の人と、『故郷』のない都市部の人をつなぐ取り組み。観光的な体験でなく、本気で仕事を手伝うことで関係も深まると思う。すさみ町のファンが増えていけば」と話している。

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