目指すは「究極のハイブリッド型」!確かな希望が持てたFC東京の2022シーズンを振り返る。

優勝争いが最終盤までもつれた明治安田生命J1リーグは、11月5日の最終節で勝利した横浜F・マリノスが川崎フロンターレを振り切り、3年ぶりにシャーレを掲げた。

逆転優勝を狙った川崎と最終節で相まみえたのが、多摩川を挟むライバルクラブのFC東京だ。今季のFC東京は昨季までアルビレックス新潟を率いたアルベル・プッチ・オルトネダ監督を迎え、ポゼッションを基調とした攻撃的スタイルへ舵を切った1年だった。

当コラムでは、アルベル体制1年目を終えたFC東京にフォーカス。新戦術に取り組んだ2022シーズンの戦いぶりをキーマンとともに振り返りつつ、新たなオプションの導入など2023シーズンの展望についても述べていきたい。

直近5試合の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はリーグ屈指のセービング技術を誇るヤクブ・スウォビィクで、最終ラインは右から3パック時のストッパーにも対応する中村帆高、鋭いフィードや縦パスで貢献する木本恭生、キャプテンとして奮闘した森重真人、攻撃力が光るバングーナガンデ佳史扶という4人。

そのほか自身4度目のワールドカップに臨む長友佑都が両サイドバックで存在感を示し、CBでは7月にモンテディオ山形より復帰した木村誠二も出場機会を得ている。

中盤はアンカーに捌き役が板についた東慶悟、インサイドハーフは右がハードワーカーの塚川孝輝、左が主軸へと成長した松木玖生という組み合わせ。豊富な運動量で攻守に働く安部柊斗と中盤ならどこでもこなせる三田啓貴もポジションを争った。

3トップは右ウィングが中盤やサイドバックでも機能する渡邊凌磨、左は打開力に優れるレアンドロで、積極果敢なドリブラーの紺野和也と得点源として力強くけん引したアダイウトンも名を連ねる充実のセクション。

CFはディエゴ・オリヴェイラが10月12日開催の第25節・セレッソ大阪戦を最後に治療のためブラジルへ帰国しており、ラスト2試合はルイス・フェリッピが務めた。

徐々に浸透度合いを高めた就任1年目

今季より招聘されたアルベル監督は、ポゼッションを基調とした攻撃的スタイルの標榜者として知られる。就任発表後の昨年12月に実施されたクラブの公式インタビューでは、

『ポゼッション(ボールの保持)も大切ですが、それ以上に重視していたのは、ポジション(選手の立ち位置)です。ポジションとポゼッション、このふたつによって、より良い攻撃が実現できます。』

と新潟時代のスタイルを振り返りつつ語っており、選手の立ち位置を重視する“ポジショナルプレー”を哲学としていることをうかがわせていた。新たに指揮を執る首都クラブでも、この哲学を貫くことが予想された。

だが一方で、スペイン人指揮官は現実的な目も持っていた。最終ラインからのビルドアップを基本的な約束事としつつ、相手守備陣に生じたスペースへロングフィードを送り込み、一気に加速して崩す形も織り交ぜたのだ。

ポゼッションとロングボール。一見すると相反する事象に思えるが、そこには指揮官の思慮深さがあった。

新たなスタイルの構築には相応の時間がかかることに加え、前線にはアダイウトンら走力を活かして個の力で打開できるタレントも揃っていた。就任1年目から急激にスタイルを転換するのではなく、徐々に浸透度合いを高めていくことを主眼としていたのである。

事実、シーズンが進むにつれて、ボールを保持しながら攻める形は構築されつつあった。とはいえ、完成までの道のりは長い。1-2で敗れた第33節・名古屋グランパス戦の後にアンカーでフル出場した東慶悟は次のように語っている。

『フィニッシュの部分は来年の課題になるのかなと思います。ボールを保持してゲームを進めていくチームは絶対にぶつかる壁というか、ブロックを作った相手を崩す作業はまだまだ。後半はわりとよい時間もあったので、それを前半からできるようにすることが課題かなと思います。』

背番号10のコメントは、チームの現在地を端的に示している。ブロックで固めた相手にはロングフィードでの打開が難しく、アタッキングサードでパス交換から崩す形が求められる。

コンビネーションでの崩しは発展途上であり、来季の重要課題となる。開幕前のキャンプでパターンをどれだけ用意できるかがカギを握りそうだ。

今季を支えたキーマンたち

新指揮官のもと、スタイルの転換期を迎えた今季のFC東京。ここでは、新たな戦術を支えた選手たちを紹介していきたい。

まずは、ビルドアップの起点として重要な役割を果たした森重真人と木本恭生だ。再び主将の重責を担った森重は、かねてより定評のある足元の技術を発揮しつつ、守備の要としてDFラインを統率。指揮官が求めるCB像を体現した。36歳となる来シーズンも引き続きスタイルの中心人物となりそうだ。

その森重とコンビを組んだ木本は、加入1年目から不動の地位を築いた。名古屋グランパスより迎え入れた背番号30の魅力は、正確なパスと鋭いフィード。ゆったりとしたビルドアップから一気のロングフィードで敵陣のスペースを突く形は効果的だった。

攻撃参加も売りで、古巣対決となった第33節・名古屋戦では、後方からペナルティエリア付近へ侵入し、見事なミドルシュートを沈めている。

最終ラインからのビルドアップを重視する“アルベル流”を実現するには、配球のセンスに優れたセンターバックが不可欠。森重と木本の存在があったからこそ、スタイルを貫くことができたと言っても過言ではないだろう。

中盤では、インサイドハーフで起用された大型ルーキーの松木玖生が早くも主軸へと成長した。青森山田高時代から”超高校級“として注目を集めてきた松木は、川崎フロンターレとの開幕戦でスタメン起用され、早速Jリーグデビューを飾る。

その後もフィジカルの強さ、要所で見せる巧みなボールタッチ、ブレないメンタリティーを武器に定位置を確保。最終的にリーグ戦31試合に出場し、フィールドプレーヤーではチーム3番目の出場時間を記録した。

すでに風格すら漂わせる19歳の超逸材が、カタールW杯直後の日本代表に選出されても驚きはない。日本サッカー界のこれからを背負うレフティは、今後も様々な話題を振りまいてくれるはずだ。

若武者の躍動に関連すると、左サイドバックのバングーナガンデ佳史扶がブレイク候補として名をあげた。ストロングポイントは攻撃力で、思い切りのいい攻撃参加と左足から放たれるクロスが光る。特にクロスはスピードのある低弾道や滞空時間が長い浮き球など複数の球種を使い分ける。

長友佑都という最高のお手本から学んで攻守にレベルアップしていければ、年代別代表での活躍はもちろん、ゆくゆくはA代表への招集にも期待がかかる。来季は開幕からポジションをつかみ、シーズンを通した活躍を披露したいところだ。

3バックのオプション導入も!?

アルベル体制1年目をリーグ戦6位で終え、来季以降の飛躍に確かな希望が持てた。基盤作りに念頭が置かれた今季とは異なり、2023シーズンはプラスアルファの部分が求められるだろう。

プラスアルファという意味では、今季の基本形だった4-3-3に加えて、3バックというオプションもキックオフから見てみたい。(下図参照)

今季の主力メンバーを基に布陣図を作成してみたが、ビルドアップの分断を目的とする相手のハイプレス対策として3バックを本格導入するのはどうだろうか。

中盤の構成は現行の4-3-3と変わらないのがメリットで、バングーナガンデ佳史扶を一列前で起用することにより、持ち前の攻撃力を引き出すのがねらいだ。逆側の右サイドは渡邊凌磨または紺野和也を起用して攻撃的にしてもよし、長友佑都を起用してバランスを取ってもよしだ。

理想的な試合運びとしては、最終ラインの3枚+アンカーで数的優位を作りながら相手のハイプレスをかわしつつ、自分たちのペースで試合を進める。リードを奪った後は、選手交代または配置変更で3-4-2-1(実質5バック)へ移行し、カウンターを繰り出しながらしたたかに逃げ切り勝ち点3を手にする。

もちろん、現行の4-3-3はそのままに、戦術的な引き出しを更に増やすことも重要となるはずだ。ポゼッションとカウンター、どちらも高次元で遂行できる選手が揃っているだけに、展開に応じてロングカウンターを徹底して狙う形が増えても面白い。

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来季の陣容次第とはなるが、ポゼッションとカウンターを自在に使い分ける“究極のハイブリッド型”こそ、首都クラブが目指すべき姿なのではないかと考える。

2022シーズンをベースに、来季はどのようなサッカーを披露するのか。どんなプラスアルファがもたらされるのか。アルベル監督の古巣であるアルビレックス新潟との対決も含め、今から楽しみは尽きない。

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