10周年記念「犬を盗む」出版 時代切り取るミステリー 作家・佐藤青南さん

「犬と人間の温かい絆も感じてもらえたらうれしい」と語る佐藤さん=長崎新聞社

 長崎県島原市出身のミステリー作家、佐藤青南(せいなん)さん(47)=東京在住=がデビュー10周年を記念した小説「犬を盗む」(実業之日本社)を出版し、このほど長崎新聞社を訪れた。殺人現場から姿を消した小型犬の行方が事件の鍵を握るミステリー。犬を題材にした作品は初めてという佐藤さんは「(自身が)飼っている犬の習性なども投影した。犬と人間の温かい絆も感じてもらえたらうれしい」と話す。

 東京の住宅街にある日本家屋で1人暮らしの老女が遺体で発見されたことから物語は始まる。そこに犬を飼っている痕跡はあったが犬はいない。一方、重大な過去を秘めながら、こつこつ働くコンビニ店員が突然犬を飼い始める-。登場人物はほかに、同じコンビニ店で潜入取材するフリーライター、事件の真犯人を独自に突き止めようとする愛犬家のミステリー作家ら。犬だけが知る真実に迫る。

「犬を盗む」の表紙

 佐藤さんは「僕のような流行作家は時代を切り取るのが役目」と話し、加熱する交流サイト(SNS)で「正しいとか間違っていると思ってしまう正義感」の危うさも描いた。また「僕」という犬の視点が各章の合間に書かれ、過ちを犯す人間の滑稽さを際立たせている。終盤には人と犬の絆が描かれ「救いのある読後感や余韻を味わってほしい」と話す。
 作家としての10年はあっという間に過ぎたという。読書に慣れていない人にも最後まで読んでもらえるよう、文章の読みやすさを追求してきた。書店回りなどを通して、読者に本を届ける難しさも知った。「編集者や書店員の方々との出会いに恵まれ、ラッキーだった」と振り返る。
 今後について「もっと人間を描き、共感が得られるような作品に取り組みたい」と抱負を語った。
 「犬を盗む」は四六判336ページ。1870円。

 【略歴】さとう・せいなん 1975年島原市生まれ。「ある少女にまつわる殺人の告白」で2010年に第9回「『このミステリーがすごい!』大賞」優秀賞を受賞し、11年に同作でデビュー。16年、「白バイガール」で第2回神奈川本大賞。ドラマ化された「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズのほか「人格者」など著書多数。


© 株式会社長崎新聞社