「軍艦マーチ」とどろく中で出港…密着!解禁ズワイガニ漁 高値付く初競りに向けた夜通し操業の最前線

美寿丸の濱根秀樹船長=6日朝、新温泉町沖(撮影・長谷部崇)

 沖合底引き網漁の花形ともいえるズワイガニ漁が6日、解禁された。前日の午後10時半ごろ、新温泉町の諸寄漁港から6隻の漁船が次々に出港した。神戸新聞の記者2人も、浜坂漁協所属の「美寿(みとし)丸」(95トン)=濱根秀樹船長(60)=に乗船させてもらった。筆者も同僚も漁船に乗ったのは初めて。船に揺られながら見た漁の最前線をリポートする。(斎藤 誉)

■午後10時40分、真っ暗な海に向け船出

 5日午後9時ごろ、出漁前に同港を訪れた人に話を聞いた。

 技能実習生として美寿丸に乗り組むインドネシア人を見送りに来た会社員の川部薫さん(41)=鳥取市。8年前、実習生として同国から来日する漁師の存在を知り合いに教わった。「家族のために遠く離れた日本で、頑張る人を応援したいんです」と、祈るように手を合わせた。実習生からは「ママ」と呼ばれ、ビデオ通話で普段から会話をしたり、帰港の際も港に立ち寄って菓子やパンを差し入れたりしているという。

 他の漁師の家族を取材していると、「そろそろ出ますんで」と濱根船長。港の向こうに広がる真っ暗な海に緊張した。午後10時40分、「軍艦マーチ」がとどろく中で、船は出発した。

■船内にはテレビやエアコン、ゲーム機まで

 港を離れてすぐ、記者らはあいさつのため操舵室(そうだしつ)にいる濱根船長の元へ。複数のモニターに他の漁船の位置や航路が示される。レーダー上の黄色い線を指さし、「ここが(浜坂漁協所属船の)スタートラインで、午後11時をめどに(他船と)並んでから、それぞれの漁場に行きます」と船長。最初に美寿丸が目指すのは港から西北の漁場だ。目指す漁場に最も近いスタートラインの最西端に陣取るのが、毎年の験担ぎとなっているという。

 漁解禁まで時間があったので、船員が集まる休憩室におじゃました。室内にはカーテンで仕切られたベッドが1人1台ずつ割り当てられ、共用スペースにはテレビやエアコン、家庭用ゲーム機まで備える。快適な空間だった。

 日付が変わった午前0時半ごろ、漁場に着いた。当初狙っていたポイントは他船に先を越されたため、別の場所に網を入れる。目印として浮かべたブイを起点に、ひし形を描くようにして船を巡回させながら網を広げていく。その後、網が海底に到達するのを待ってからゆっくりと前進し、カニをさらっていくのだ。

 2キロほど船を走らせたところで、休憩室のベルが鳴り響いた。仮眠から目覚めた船員が甲板に戻り、網を引き揚げる準備に取りかかった。巨大なリールで巻き上げられた網とともにカニが船上に滑り込む。船員らは1匹ずつ手に取り、サイズや甲羅の汚れ具合などで選別した。

■網を入れるごと漁獲量が…初競り目指し半日で帰港

 海から引き揚げられるカニを初めて見た記者が歓声を上げていると、「全然だめだ」と、機関士の大谷勉さん(45)がため息を漏らした。多くが小ぶりで甲羅も汚れており、商品価値が乏しいとして海に戻した。最初の網で競りにかけられるのは、雄雌合わせて70匹程度にとどまった。

 解禁日は高値が付きやすい初競りに間に合うよう、多くの漁船が約半日で帰港する。美寿丸は船ごとに決まる初競りの順番が13隻中9番目と遅めで、他船よりも比較的長く操業した。午前11時の帰港までに計5回網を打ち、計2200匹を捕獲した。

 網を入れるごとに、濱根船長の漁場選びが奏功し、1回当たりの漁獲量が回復していった。「全体の量は少しもの足りないが、身が締まった質の高いカニをお届けできる」と、品質に自信をのぞかせた。

■身に染みる寒風、まかない「漁師めし」は最上級の朝食

 乗船してから1時間半ほどは、軽い船酔いに見舞われた。揺れに慣れて気分は快方に向かいつつ、遮るものが何もない海上での寒風が身にこたえた。

 それでも初めて経験する船上取材で、海から望む日の出は美しかった。東の空が明るくなり、水平線の向こうからオレンジ色の球体が顔をのぞかせる。地球にいることを実感した。

 そして、乗船前から楽しみにしていた「漁師めし」の時間がやって来た。新鮮なカニ刺し、セコガニ(ズワイガニ雌)汁の豊かな味わいは、「自分史上」で最上級の朝食だった。

 船長の厚意で乗船させてもらい、多忙の中でも親切に取材に応じてくれたことは忘れられない。船長をはじめ、解禁から3日ほどはカニを取り続けるという漁師の体力に驚かされる半日間だった。

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