トヨタやNTTが出資する新会社、次世代半導体の量産化を発表−−背景にある米国の日本に対する姿勢の変化

政府は11月8日(火)、2022年度第2次補正予算案を閣議決定しました。

総合経済対策は「物価高・円安への対応」などを重点分野に掲げ、経費として29兆861億円を確保しました。「物価高騰・賃上げへの取り組み」に7兆8,170億円、「円安を生かした地域の『稼ぐ力』の回復・強化」に3兆4863億円、「『新しい資本主義』の加速」に5兆4,956億円などが含まれています。


国策として次世代半導体に注力

経済産業省は半導体と蓄電池の国内生産基盤強化や技術開発支援に計約1兆6000億円を計上しました。半導体と蓄電池を経済安全保障上の重要物資と位置付けていて、サプライチェーン(供給網)の強靱化をはかりグリーントランスフォーメーション(GX)とデジタル変革(DX)を後押しする方針です。

また、日米共同による次世代半導体の生産技術開発や、次世代計算基盤の構築に向けたハード・ソフトの技術開発支援に4,850億円、データセンターや人工知能(AI)などに不可欠な先端半導体の国内生産拠点の整備支援に4,500億円を盛り込みました。先端半導体以外の半導体や部素材の生産能力増強支援に2,163億円、これとは別枠でエネルギー効率向上につながる半導体や部素材の生産能力増強支援に1,523億円を盛り込みました。

補正予算を公表した数日後に、スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使う次世代半導体を国内で量産する体制作りが動き出すとの報道がありました。トヨタ自動車、NTT、ソニー、デンソー、三菱UFJ、ソフトバンク、NEC、キオクシスがそれぞれ3〜10億円を出資し、新会社「Rapidus(ラピダス)」を設立するようです。

昨年来、甘利元幹事長は日本の半導体は「10年で7兆から10兆円は必要」と述べていました。そうした流れを受け、経済産業省は昨年6月に半導体戦略をとりまとめ、昨年10月には台湾のTSMCが熊本県に工場を建設する事を発表しました。この工場の建設にはソニーとデンソーが加わり、政府が最大4,760億円を補助する予定です。

転換点となった2022年5月の日米首脳会談

また、2022年5月の日米首脳会談で、日米が半導体部門で協力基本原則に合意しました。

この合意はそれほど大きく取り上げられる事はなかったのですが、歴史を振り返り考えてみると、米国の日本に対する姿勢が変化したのではないかと個人的に感じています。

1974年米国は日本に二次鉄鋼自主輸出規制を、1981年4月には日本に対米自動車自主輸出規制を実施し、1986年に日米半導体協定を締結しました。これらの日本にとってマイナスな規制や締結は1970年代から90年代までの日本の成長が煩わしかった米国が、日本の経済的躍進を排除したかったことが要因と考えられます。

米国は日本に規制や価格競争を促し、日本企業を不利に追い込んだ歴史があったように思います。しかし、現在の米国の脅威は中国と感じます。日米首脳会談では半導体のみならず、米国は日本の防衛に全面的な関与を続けるとバイデン大統領は述べています。

前途記載した昨年6月に経済産業省がとりまとめた半導体戦略の資料の中で、日本の半導体産業は1986年には世界シェアが50%を占めていましたが、2019年には10%にまで低下し、2030年には日本のシェアはほぼゼロになると警鐘しています。これまでの凋落などにも触れ、日本も半導体の確保・強化に取り組むとしています。

米中が技術覇権対立の中で、今後は日本企業の強みである製造装置や素材産業の活躍に注目しています。

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