柔軟剤、本のインク、消毒液… 体調崩す「香害」に理解を 「化学物質過敏症」の男性

外出時は防毒マスクが欠かせないという男性。「香りで体調を崩す人がいることを知ってほしい」と話す=県内

 柔軟剤や整髪料、制汗スプレー、芳香剤などの香りが原因で体調を崩す人たちがいる。香料などの化学物質が原因となる化学物質過敏症という病気。発症して6年になる長崎県北地区の介護福祉士の男性(50)は「香りで体調を崩す人がいることを知ってほしい」と訴える。
 異変は突然だった。当時の職場で内装リフォームが始まると、ペンキやシンナーのにおいで体調が悪くなった。その後、同僚の服に残った柔軟剤の合成香料にも反応するように。経験したことのないような頭痛と目まい、吐き気、息苦しさに襲われ、動けなくなることもしばしば。地元の耳鼻咽喉科では何の病名か分からず、東京の専門医で化学物質過敏症と診断された。

 化学物質過敏症に詳しいふくずみアレルギー科(大阪市)の吹角隆之院長(64)によると、この病気は空気中を漂う化学物質を吸い込むことで症状が出る。10~20人に1人が発症する素因を持つとされ、原因は芳香剤や香水、農薬、柔軟剤、有機溶剤などさまざま。アルコールの代謝に個人差があるように、化学物質を解毒する力にも差があり、この力が弱いと発症する。患者は30~50代の女性に多く、ホルモンバランスとの関わりがあると考えられるという。
 「発症後は『普通』の生活ができなくなった」と男性は言う。本を読むとインク臭で息苦しくなり、新しい電化製品を買うとプラスチック臭で頭痛と目まいがする。病院も買い物も美容院も思うように行けず、好きだった球場での野球観戦からは遠ざかっている。新型コロナウイルス禍で欠かせないアルコール消毒液にも化学物質が含まれ「どこに行ってもきつい状況」。気を付けていても、道路での擦れ違いざまや近隣住民の洗濯物のにおいが不意に鼻をかすめ「24時間365日、常にアンテナを張って気を付けないといけない病気」。男性はこう説明する。

 この病気の難しさは、当事者のつらさや苦しみが理解されにくい点だ。男性も「神経質」「考え過ぎ」などと周囲に思われているのでは、と居づらさを感じることもある。正社員の身分は手放し、今は体調面などを考慮してパート職員として短時間働く。
 ひとたび症状が出ると、体を休めるしかない。日ごろから添加物が入った食事を控え、解毒を早めるためサプリでビタミンCを取り、軽い運動で汗を流す。こうして病気と付き合っている。
 発症から6年。男性はこの間、友達と疎遠になり、死が頭をよぎったこともあったが、今は患者会との関わりを通じて物事を前向きに考えられるようになってきたと喜ぶ。「発症すると就労や日常生活すら困難になり、孤立しやすい。強い香料を苦痛に思う人がいることを知り、公共の場では控えてほしい」と切実な思いを語る。


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