「シーンズ・イン・ザ・シティ」(1984年、ソニー・ミュージックレーベルズ) 体の芯から温かくなる 平戸祐介のJAZZ COMBO・20

「シーズン・イン・ザ・シティ」のジャケット写真

 何かと温かいものに手を伸ばしてしまう季節に入ってきました。音楽も同様、体の芯から温かくなるジャズはいかがでしょう。今回は米国のサックス奏者ブランフォード・マルサリスが1984年にリリースした初リーダー作品「シーンズ・イン・ザ・シティ」をご紹介します。
 70年代のジャズ・フュージョンの終焉(しゅうえん)を告げるかのごとく、80年代に入るとアコースティック楽器をベースとしたジャズが席巻します。その立役者の一人となったのがマルサリスでした。マルサリスをはじめとする新進気鋭の若手がこぞって参加しており、当時の熱気や活気がそのままアルバムに投影されています。
 70年代の中ごろから米国では「ジャズはアカデミックで、システマチックに学ぶべきもの」という機運が高まりました。ジャズ教育が高校、大学を中心に充実したのもこの時期でした。中でもバークリー音楽大や、マルサリスの実父でピアニストの、エリス・マルサリスが設立したニューオリンズ・センター・フォー・ザ・クリエイティブ・アーツ(NOCCA)は、80年代以降のジャズシーンに切っても切り離せない関係になりました。
 NOCCAはマルサリスやトランペッターのウィントン・マルサリス、テレンス・ブランチャード、ピアニストのハリー・コニック・ジュニアら有能な若手をこの時代に輩出していきます。
 良い流れというものは呼び寄せるもので、70年代ジャズ・フュージョンの隆盛により不遇の時代を過ごしていたドラマーの巨人、アート・ブレイキー率いる伝説的バンド「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」も息を吹き返しました。マルサリスや弟のウィントンもメッセンジャーズへ加入しアコースティック・ジャズの復権を高らかに宣言しました。
 その功績は非常に大きく、後進の新人若手ジャズマンのランドマーク的存在となりました。マルサリスの初リーダー作ということで当時大注目のアルバムでした。私も飛びつくようにレコードショップへ走りました。かなりバラエティーに富んだ作品ですが、今の時代にも全く色あせないジャズが展開されています。彼の歴代作品の中でも一番だと確信しています。
 芸術の秋-。ジャズルネサンスの始まりとも言える80年代の作品をいま一度吟味してみませんか。
(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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