都市の水上空間を有効活用するオランダ発のレクリエーション施設 TwitterFacebook

オランダ・ロッテルダムのヴィッケルボート

世界の港湾には荒廃したまま放置されている場所も増えている。特に西ヨーロッパで顕著だ。都市化が進むなか、都市の空間はますます狭まり、住人はレクリエーションの場を失いつつある。有効活用できるはずの場所が放置されているのはもったいないことだ。オランダに本拠を置くハウスボートメーカー、フローティング・タイニーズは、木材や段ボールなどを使った組み立て式のプレハブ施設「ヴィッケルハウス」をつくるヴィッケルハウス社と協働し、都市の水上空間を活用した施設「ヴィッケルボート(Wikkelboat)」を開発した。持続可能な素材を使って建てられたヴィッケルボートは、オランダのロッテルダムやデンボスの港に新たな息吹をもたらしている。

ヴィッケルボートを開発したきっかけについて、ヴィッケルボート社CEO兼創設者のサンダー・ウォーターバル氏は米サステナブル・ブランドの取材に対して、「5年前、ロッテルダムの市街地に位置する小さな港の建設に携わったことが全ての始まりです。元々、私たちが計画したものではありませんでしたが、ある企業が港が狭すぎることを理由に断念したので、参画することになりました。水域を活用した多機能な空間がつくれたら素晴らしいと考えたのです」と語る。

持続可能な建材を使い、分解や移動も簡単なヴィッケルボート

ヴィッケルハウスは元々とても軽量で、水上用のヴィッケルボートに転換するのに適した造りだ。建物の約6割に木材を使用し、断熱材には植物の亜麻を使用。ソーラーパネルを取り付け、生分解性の持続可能な素材で作られた組み立て式の建物は、連結や再配置、増築、移動が簡単にできるという。

建設方法については、家の形をした骨組みに24層の段ボールを巻き、毒性のない強力瞬間接着剤を使って貼り合わせている。防水加工した段ボールは通気性のあるフィルムが組み込まれており、木製の被覆材で覆われている。

ウォーターバル氏のチームは、水に浮かぶコンクリート構造と金属製の骨組みとを組み合わせてヴィッケルボートを作った。ヴィッケルボートは、クライアントの要望に合わせ、衝撃吸収材や電気、技術的設備を追加してカスタマイズできる。リース期間が終われば、けん引して別の場所に移動させることも可能だ。

今のところ、ヴィッケルボートで長期的に暮らすことはできない。自治体が永住の許可を与えていないため、イベントや水上アクティビティ、宿泊施設としてなど短期的な商業目的での利用に限られている。

都市空間におけるヴィッケルボートの意義について、ウォーターバル氏はこう説明する。

「都市では屋外空間が非常に限られています。そんななか、ヴィッケルボートは人々に水辺という新たな空間を与えてくれます。都市の人口がさらに過密化するなか、水上空間をレクリエーションの場として活用していくことは今後、重要になっていきます」

現段階では永住することができないヴィッケルボートだが、建物の寿命は50−100年という。屋根に取り付けた太陽光パネルによって自家発電もでき、小さいながらも豪華さを感じられる設計は、空間を賢く効果的に使うことで快適さを生み出している。

同社は、持続可能な素材の使用や電力を効率的につくり出すこと、さらに水上空間を多くの人に役立ち、都市空間を拡大する場所へと生まれ変わらせることを通して、都市空間の新たな活用方法を広めたいと考えている。

オランダ・デンボス のヴィッケルボート

ウォーターバル氏は、水は誰もが利用できる共有資産であることから、水上を占有するのは一時的であるべきだという考えだ。永住ではなく、ヴィッケルボートに滞在することで贅沢さや安らぎ、旅行について新たな観点から考えるきっかけになればと願っている。

「滞在した人たちがそれほど広い空間は必要ないということに気づけば、少ない持ち物で暮らすことを受け入れられるようになるかもしれません。例え、タイニーハウスのような狭い空間に住んでいなくても、より持続可能な選択をするきっかけにつながるかもしれません。多くの人が贅沢さを味わいたいと思っていることは承知しています。しかし、近場であっても水辺で特別な体験のできる休暇を過ごせることが分かれば、飛行機を利用しない低炭素の旅行も実現できるかもしれません」

ヴィッケルボートは今後、水路を持続可能な方法で活用することを目指す他のディベロッパーや自治体と連携していく方針だ。都市人口が増え続け、利用できる土地がさらに狭まるなか、ウォーターバル氏は、刺激が多すぎる都市空間から逃れ、心を揺さぶる非日常な水上空間で時間を過ごす機会を多くの人たちにもたらしたいと考えている。

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