【Web版】「かわいい長男」を殴ってしまうまで 被告が語ったストレスと孤独 虐待事件、宇都宮地裁で初公判

宇都宮地裁

 大切でかわいい長男を守ろうとため込んだストレスが、いつしかその長男に向かっていた。

 生後3カ月の長男の頭を殴るなどし重傷を負わせたとして、傷害罪に問われた母親の栃木県栃木市、無職女(27)の初公判が14日、宇都宮地裁で開かれた。法廷では虐待に至るまでの経緯が明らかとなった。

 夫と、足利市の90代の義父方で同居していた被告。昨年10月に長男を出産したが、風呂の水を週に2回しか入れ替えない義父の習慣や、ごみ袋などで長男をあやす生活態度に不満を募らせていった。「自分の立場が一番下。意見を言えなかった」

 きっかけは2月13日夜。義父が長男をティッシュであやしていた。誤飲の危険を指摘すると、初めてけんかとなり「出て行け」と叱責(しっせき)された。1人で泣いていると、味方だと思っていた夫からも義父への謝罪を求められた。実家に戻ると訴えたが、「帰るなら長男は置いていけ」と突き放された。強い孤独に襲われた。

 翌日は朝からいらいらしていた。無職だった夫が再び働き始めたため、長男と2人だけだった。泣きやまない長男の頭に、握りしめた右拳を初めて打ち付けた。激しい後悔がわき上がり「ごめんね、痛かったね」と謝った。

 しかし、行為を繰り返すうちに後悔は薄れ、義父への不満は、自分より弱い存在を攻撃対象とする方向に向かった。「ストレスを解消している気持ちだった。今思えば何も解消できていなかった」。1カ月続いた暴行で、硬膜下血腫や多発骨折などの重傷を負わせた。後遺症の恐れもあるという。

 長男を「かわいくて、側に居てとても癒やされる」と話した被告。そんな存在を攻撃した理由を尋ねられると「声を出せない時期だったので…。ストレスでいっぱいいっぱいだった」と絞り出した。裁判官は「同じことを繰り返さないように、(児童相談所など)周りを頼るようにしてください」と諭した。

 裁判官は証言台に立った夫に対して「被告が(家から)出て行けないようにするため、長男を残していくよう言ったように聞こえる」「逃げ道を封殺した」と指弾した。夫は「そんな意図は無かった」と弁明したが、最終的に謝罪の言葉を口にした。

 検察側は「犯行を止めるべく努力した形跡は見当たらず、短絡的に繰り返した」として懲役3年を求刑。弁護側は「長男が憎くて暴力を振るっていたわけではない」として執行猶予付き判決を求め、即日結審した。判決は30日に言い渡される。

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