サーフィン五十嵐カノア、タヒチ島「頭蓋骨の場所」の危険な波を攻略してパリ五輪へ 東京大会で銀メダル、2年後への熱い思いを聞いた

タウポで開催されたCT第10戦でチューブライディングを決める五十嵐カノア=8月18日、タヒチ(C)WSL/Ryder(共同)

 世界有数のビッグウエーブで知られる“サーファーの楽園”タヒチ。南太平洋に浮かぶフランス領ポリネシアの島が舞台となる2024年パリ五輪で、サーフィン男子の五十嵐カノア(木下グループ)は昨年の東京大会で惜しくも逃した金メダルを狙う。今年9月のワールドゲームズで個人と団体の2冠に輝いてパリ五輪出場を確実にし、10月下旬に帰国。共同通信の単独インタビューに応じた25歳のエースに、2年後の祭典への熱い思いを聞いた。(共同通信=鍋田実希、戸部丈嗣)

 ▽つかみ取った五輪切符

 生まれ育った米カリフォルニア州ハンティントンビーチで開催されたワールドゲームズでは、スピードとテクニック、粘り強さの3拍子そろったライディングで主役の座を譲らなかった。決勝も鮮やかな空中技などを多彩に決めて快勝。今大会で一番の目標としていた五輪出場枠が与えられる団体優勝も果たし、陸に上がると海へ板を放り投げるほど喜びを爆発させた。

インタビューに答える五十嵐カノア=10月26日、東京・新宿

 ―五輪切符をたぐり寄せた優勝を振り返ってください。

 「特別な瞬間だったなという感じ。優勝したときに、東京五輪からここで切り替わって、もう次のパリ五輪に向けてこれがスタートだと思って。またちょっと違う新しいプレッシャーが生まれたというか。次元が変わったという感じで」

 ―開催国フランスを除けば、日本はサーフィンのパリ五輪出場が決定した最初の国となりました。世界を転戦する中で訪れる機会が少ない日本のファンへの思いは。

 「ソーシャルメディアのちょっとしたメッセージでも、応援してくれる力をすごくもらうので、感謝の気持ち。サーフィンは団体競技ではなく一人のスポーツだということで、モチベーションはどこから来るのかと聞かれることが多いけど、ファンのサポートが金メダルとかトロフィーを勝ち取りたいというモチベーションにつながるんです。朝早く起きてもらうファンのために、いいパフォーマンスを見せたい。本当にありがたいと思います」

サーフィンのワールドゲームズの男子団体で優勝し、表彰式で喜ぶ五十嵐カノア(中央)=10月24日、米カリフォルニア州ハンティントンビーチ(共同)

 ▽日本の旗を振って金メダルを

 日本人の両親を持つ五十嵐はサーフィンの殿堂があることで有名な地元ハンティントンビーチで3歳から波乗りを始めた。10代から米国選手として世界を飛び回り、2016年からプロ最高峰のチャンピオンシップツアー(CT)に参戦。翌年のクリスマスに国籍登録変更の意思を表明し、CTなどの国際大会で日の丸を付けて戦うようになった。
 米国やポルトガルに居住し日本を訪れる機会は限られるが、東京五輪で銀メダルを獲得したことで国内での人気が右肩上がりに上昇。博報堂DYメディアパートナーズが今年10月に発表した「アスリートイメージ評価調査」では「爽やかなアスリート」の部門で1位となった。

東京五輪のサーフィン男子で銀メダルを獲得し、笑顔を見せる五十嵐カノア=2021年7月27日、釣ケ崎海岸サーフィンビーチ

 ―サーフィンが五輪競技として初実施された東京大会の前と後で意識の変化はありましたか。

 「五輪の力を感じた強烈な経験でした。ここまでインパクトがあるのかという。スポーツのイベントだけじゃないと思ったので。サーフィンのすごさを世界に見せられるチャンスが本当にありがたい。アスリートとして誇らしい気持ちで、すごくうれしい。パリも楽しみです」

 ―日本代表として競技する選択をした2年前を振り返ってください。

 「日本のファンにここまでインパクトを与えることができるとは思わなかったので、毎日感謝の気持ち。日本の旗を振って、一緒に(CTの)世界チャンピオンにもなりたいし、五輪でも金メダルを取りたい。日本代表として皆に幸せになってもらいたい。一人だけではプレッシャーがあるけど、(応援してくれる)皆の力のおかげでプレッシャーがまた面白いことになるのでありがたい」

東京五輪のサーフィン男子準決勝で、空中技を決める五十嵐カノア=2021年7月27日、釣ケ崎海岸サーフィンビーチ

 ▽不断の努力実らせパリにも手応え

 パリ五輪の会場となるタヒチ島の南岸は「頭蓋骨の場所」を意味する「タウポ」の地名に恥じない巨大で危険な波が立つ。世界中のサーファーが憧れ、また恐れる名所だ。
 今年8月にタウポで開催されたCT第10戦で五十嵐は5位に入り、年間成績の上位選手だけで争う9月の最終戦に初めて進出した。ベスト8入りを決めた一戦は、手に汗を握る展開。劣勢で迎えた残り2分余りで筒状の波をくぐり抜ける「チューブライディング」を成功させ、10点満点で9・70点をたたき出して大逆転した。驚異的なライディングの背景には、重厚な壁のような波に挑み続けた不断の努力があった。

サーフィンのワールドゲームズの男子団体で優勝し、表彰式で喜ぶ五十嵐カノア(中央)=10月24日、米カリフォルニア州ハンティントンビーチ(共同)

 ―タウポの波はとてつもない迫力で、トッププロでも乗りこなすのが難しいと思います。どんな印象ですか。

 「初めて乗ったのは15歳くらいの時で、当時は怖くて波にそんなに乗れなくて。でもチャンレンジが面白くて、どうにかしてこの難しい波を乗りこなして、それを自分の強みにしたいと思って。行きたくなくても何度も行って、ようやく最近自信が出てきて得意な方になったかなって。よく努力してここまで来たなと思います」

 ―タウポでの好成績はパリにもつながると思います。2年後に向け、どう進化していきたいですか。

 「タウポでは波がでかくても、乗れなくてもちゃんと練習に行きました。弱いところを練習すれば絶対にうまくなれるということは、すごく大切にしているので。すごく努力した中で今回のいい結果が出た。これは絶対に五輪に向けていい感じに進んでいるなというふうに思って。これからの2年は五輪に集中して、CTの世界チャンピオンになることに向けても集中して頑張ります」

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