GRヤリスは実はWRCラリー1よりラリー2向き!? 初披露プロトタイプの開発背景と現状を聞く/ラリージャパン

WRCラリージャパン3日目の岡崎SSでユハ・カンクネンが搭乗してデモランを披露したGRヤリスのラリー2プロトタイプ。ラリー2として登録前の段階であり細部や車両内部の撮影はNGで詳細は明らかにされなかったものの、開発を担当した齋藤尚彦氏と行木宏氏に概要を聞いた。

まずラリー2はラリーカーのヒエラルキーにおいてラリー1の下でステップカテゴリーとして位置づけられる。最低車両重量は1230kg、排気量は1620ccが上限であり吸気リストリクターは32Φ、パワーウエイトレシオではラリー1は4を切っているがラリー2では4を超える。生産車モノコックを使用しなければならず、サブフレームも生産車のものをベースとすることが義務付けられており、各所にコストを抑制するための足かせがある。車両価格にも上限があり20万ユーロ(約2880万円)となっている。

2022年WRCラリージャパン 3日目岡崎SSで初披露されたGRヤリス・ラリー2コンセプト

WRCにおいて今季トリプルタイトルを獲得したGRヤリス・ラリー1だが、そのラリー1についてはパイプフレーム化が許されていることに代表されるように、実は生産車の素性にそれほど影響されないカテゴリーである。そのラリー1に対して、生産車をベースとして改造範囲が制限されて、なおかつコストキャップもあるラリー2ではGRヤリスの素性が大いに活きるようだ。

たとえば、リヤウイングの効率を上げるためになだらかに後ろ下がりになっているルーフ形状がそれだ。ほかのラリー2マシンの多くがFFベースだが、GRヤリスの場合には元がAWD(四輪駆動)であり、ここでもコスト面で有利。さらに大きいサイズのタイヤを履く設定がもともとあるので、リヤホイールハウスを再構築せずに生産車のままでもストローク確保ができる。

エンジンもGRヤリスに搭載されている直列3気筒G16E-GTSをそのまま搭載、ボア×ストロークにも変更はなく補機(ターボチャージャー)の変更で対応する模様。写真はNGだったが、大容量のインタークーラーがラジエター前に配置されていたのが見えた。

明らかに競技車両化を意識して生産車としてコストをかけているのがわかったのがフロントメンバーだ。ドライブシャフトを通すために逃げをつくりバンプストロークを確保している。メンバーを切り欠けば当然、衝突安全の面では不利でありコストよりも競技への適性を優先した作りがなされている。

変更が規制されるフロントストラットのトップマウント位置も生産車時点でボンネットフードの高さぎりぎりに設定していることで、ここでもバンプストロークを稼ぐことができる。ちなみにプロトタイプではストラットを後傾させることでダンパーのストローク量を確保していた。

デモランを披露しただけにラリー2として登録を済ませて間もなく市販化……と想像してしまうものの、プロトタイプとして完成したばかりであり、ここから性能向上、信頼性確保、使い勝手の向上など市販競技車両としての成熟がなされていくことなり、発売目標タイミングも示されなかった。

カスタマー前提の車両だけに、パーツ供給等の体制構築も重要だろう。このあたりもTGR-E(TOYOTA GAZOO Racing Europe)が実施していくことになるようだ。最終仕様確定前なので、5速シーケンシャルと規定で決められているミッションのブランドなども未公表であった。

ちなみに日本国内にはラリー車ナンバーのような制度が現時点では整備されていないので新車登録はできない。現時点ではプロトタイプだからかもしれないが、デモランでのエキゾーストノートは他のラリー2マシンに比べて野太く音量も大きく感じた。今後の進展に注目したい。

GRヤリス・ラリー2コンセプト
GRヤリス・ラリー2コンセプト サイドビュー
4度WRCチャンピオンに輝いたレジェンド、ユハ・カンクネンがGRヤリス・ラリー2コンセプトをドライブ

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