不動産経済ファンドレビュー~デジタル化で変容する不動産仲介―最後に残る「人ならでは」の仕事とは

不動産テックの浸透を背景に、不動産業務のデジタル化・AI化、外注化などの動きが加速している。顧客の希望条件を聞いて物件を紹介するという仲介業務の本丸部分でもAIによる“自動化”が進む。一方、多様化・複雑化する住宅ローンのあっせんは専門会社に一括委託する傾向も目立ってきた。DX化が進む不動産仲介業は今後どう変容していくのか。最後に残る「人ならでは」の部分とは何か。

「不動産テック・カオスマップ」第8版公表

企業数は417、総サービス数は430にも 一般社団法人不動産テック協会が作成している「不動産テック・カオスマップ」というものがある。第8版となる最新版が8月8日に発表された。テック企業が提供する主要サービスを項目ごとに一覧化したものだ。それを見るとまず、「業務支援」という大きな括りがあり、それが更に機能別に「集客8」「顧客対応31」「契約・決済13」「管理・アフター53」「設計・施工14」という5つの項目に分類されている(数字はサービスを提供しているテック企業の数。以下同じ)。
他には「ローン・保証12」「不動産情報13」「価格可視化・査定21」「VR・AR39」「マッチング46」などの項目が並ぶ。ここまでは主に仲介業関連だが、「IOT29」「リフォーム・リノベーション22」「スペースシェアリング59」などの項目もあり、今やデジタル化、AI化、テック企業への外注化の波は仲介業にとどまらず不動産業全般に及んでいる。第8版によればテック企業の数は417、不動産会社向けサービスの総数は430にも達している。
不動産テック協会代表理事の巻口成憲氏は「テック企業によるサービスは今や成熟期に入った。隣接するサービス同士の競合も始まっており、差別化ができない一部サービスは淘汰されるものも出てきている」と市場が過熱状態にあると指摘する。

**デジタル対応で格差広がる不動産業界
人材・資金力豊富な大手は“内製化”も**

デジタル技術の進展・高度化はその対応力の差によって、不動産業界内に格差を生じ始めた。人材・資金力に恵まれた大手系企業は、高度化するデジタル技術の内製化も可能だが、中小会社の場合はそれら技術(ソフト)を購入してもその運用・運営はテック企業との連携、もしくは外注化している企業が多い。購入する資金も外注する力もない零細企業は淘汰されていく運命か。
例えば、現実のあらゆる建物空間を仮想空間内に再現する“デジタルツイン”がモデルルームや注文住宅の内見などこれからは住宅不動産業界でも大きな機能とサービスを発揮していくことになる。従来の一般的なVR(仮想現実)は360度パノラマ写真を画面上で遷移させるだけだが、デジタルツインは実際に現地を歩いているかのような精緻な現実感が味わえる。こうした高度な技術を内製化できるのは人材と資金にゆとりがある一部企業に限られるだろう。
一方で、今後は不動産テック企業の中から不動産業に参入してくる動きも予想される。現に「業務支援・顧客対応」サービスを提供するテック企業では、導入先企業から初期の顧客対応などサービスの一部運営を受注しているケースがあるが、不動産業に精通するに従い、技術力も背景に徐々にそうした受注業務の範囲を広げていく可能性がある。
こうして、不動産仲介業務のデジタル化、AI化、外注化が進めば不動産営業社員の作業はおのずと省力化、システム化されていく。その結果として人としての営業社員が担う不動産仲介業のコア部分としては何が残るのだろうか。しかも近年は営業社員をますます不要とするようなテックサービスも出始めている。

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