【中医協薬価専門部会】健保連松本委員、試行的にカテゴリー別の調整幅適用を提案

【2022.11.16配信】厚生労働省は11月16日、中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会を開き、令和5年度薬価改定について議論した。この中で支払側委員である健康保険組合連合会(健保連)理事の松本真人氏は調整幅について、後発医薬品などの医薬品カテゴリー別の調整幅を試行的に適用することについて「検討するということもあるのではないか」と提案した。

日薬・有澤氏「令和3年改定でのコロナ特例を、今回は安定供給の観点で措置考慮を」

同日の中医協薬価専門部会は「中間年改定の対象範囲」や「安定供給の確保」「調整幅」などの論点について議論した。

中間年改定の対象範囲については、診療側委員が平成28年のいわゆる「4大臣合意」である基本方針に記載されている「価格乖離の大きな品目」を対象とすべきと口をそろえた。
加えて、日本薬剤師会理事の有澤賢二氏は、新型コロナウイルス感染症特例として薬価の削減幅を0.8%分緩和する措置がとられた令和3年度の改定を説明し、「今回は医薬品の安定供給の影響を鑑み特例的な措置をとることも考慮すべき」と主張した。
日本医師会常任理事の長島公之氏はさらに、足下の薬価乖離率が縮小している可能性も踏まえ、対象範囲の「価格乖離が大きい」との定義も「改めて議論する必要がある」と述べ、対象範囲を平均乖離率以上だとする考えの再考も示唆した。

ただ、平成29年の骨子などでは「国民負担の軽減の観点から、できる限り広くすることが適当である」との記載もあることの指摘が支払側からはあり、健保連理事の松本真人氏は「新たな方針が政府から示されない限りは市場実勢価格を適時薬価に反映して国民負担を抑制することを目的として価格乖離の大きな品目についてはできる限り広く対象範囲とすべき」との意見を述べた。
加えて松本氏は「令和3年度に基準とした平均乖離率の0.625倍が(対象品目の)ベースになる。これを変えろということであれば、それ相応の根拠が必要。乖離率だけではなく乖離額についても引き続きの課題だ」とした上で、新型コロナ特例の0.8%緩和については「令和2年の春と価格交渉の状況が異なる」として「適用しないことが妥当」と主張。同じく支払側である全国健康保険協会理事長の安藤伸樹氏も、松本氏の「乖離額も課題」との意見に同調し、「乖離率だけでは、カテゴリーによって影響の大きい薬もある。乖離額についても考慮に入れて慎重に判断をすべき」とした。支払側と診療側の意見は平行線となった。

日薬・有澤氏「算定ルールとは別に、不採算品の対応などを緊急的に実施を」

安定供給の確保の論点では、日薬・有澤氏が強い口調で主張。中間年改定や物価高騰・円安の影響などですでに不採算品も抱えている製薬企業などがさらなる窮地に追い込まれる可能性があることを危惧し、「医薬品の生産すら危うい状況になることが推察される。安定供給のために必要な措置は必須だ」と訴えた。具体的には算定ルールとは別に不採算品の対応などを緊急的に実施することが必要との考えを述べた。現場の窮状については、「医薬品の供給問題は日々深刻なことになっており元の姿に戻れないくらい大きな問題としてふくれ上がってきている。現場では供給問題への対応に疲弊しているところで、各自の努力工夫により何とか凌いでいるが、致命的なフェーズがもうすぐそこに来ているということを実感している。 これ以上、安定供給に支障をきたすというような対応や供給問題を長引かせる対応を行うべきではないと、ここで強く主張させていただく」と述べた。

安定供給の点では、日医・長島氏は対応の必要性を指摘した上で、「安定供給確保という理由だけで薬価を引き上げるのではなく、患者さんにとっても納得でき、さらに企業の合理的な対応の有無等を踏まえた上で検討する必要がある」との考えを示した。

調整幅、診療側「中間年改定で議論すべきテーマではない」

調整幅については、診療側は中間年改定で議論すべきテーマではないとの考えを示した。

日医・長島氏は、調整幅のあり方について、「長年積み重ねられてきた川上から川下までの医薬品取引のあり方について大きな影響を及ぼす可能性があり、その変更は十分慎重であるべき」との考えを表明。「病院、診療所の価格乖離は特にチェーン薬局の乖離と大幅な差が生じている中で、安直に調整幅を変更する議論は医療機関にとって非常に大きな影響を生じさせる。調整幅は現行の薬価制度全体の中で位置づけられていることを踏まえれば、通常改定とは異なる中間年改定において調整幅を変更することは適当ではないと考える」と述べた。
日薬・有澤氏も調整幅については、「現行の薬価制度で位置づけられているもの。議論するのであれば薬価制度全体の中で議論していくものであり、中間年改定の議論の中では検討するべきものではない」とした。

健保連・松本氏は、調整幅について試行的な変更について言及した。
医政局の有識者検討会の資料を引用し、「以前から我々はカテゴリー別の乖離率をぜひ示していただきたいと要望してきた」とした上で、「仮にデータをどうしても出せないということであれば、例えば資料の38ページのようなデータを参考にして、これは試行的になるがカテゴリー別の調整幅を適用することを検討するということもあるのではないか」と述べた。
資料の38ページには、「新薬創出等加算品の乖離率を100とした場合のカテゴリー別指数」が掲載されており、医薬品のカテゴリー別の薬価差(乖離率)の指数では、後発医薬品の指数が高くなっていることが示されている。

日薬連「基礎的医薬品や安定確保医薬品でも採算性が著しく悪化している品目がある」

なお、同日は原材料やエネルギー価格高騰、円安の影響について、より詳しい資料を日本製薬団体連合会(日薬連)が提出。厚意で情報提供した一部の企業の結果としつつも、採算性が著しく悪化している品目があること、その品目の中には基礎的医薬品や安定確保医薬品といった特に医療上の必要性の高い医薬品も含まれているということも確認されたとした。

安定供給については、協会けんぽの安藤氏も問題視。安定確保医薬品や基礎的医薬品など経済安全保障上も特定重要物資に入っているような医薬品の確保状況について、「この辺の影響が本当にどのぐらいのものなのかというのが国民にとって非常に重要なこと」として、今後、議論の中で提示してほしいと要望した。

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