東広島トレーラー鉄板落下事故から10年 死亡した男性の妻の思いとは

今年4月、犯罪被害者を支援する条例ができたことをご存じでしょうか。10年前にトレーラー事故で夫を亡くした女性が体験を語り続けています。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「2度と使うことがない彼の食器を片付けて。2度と着ることがない洗濯物を片付ける、これほどつらい時間というのはありませんでした。」

10年前、交通事故で夫を失った松本里奈さん(51)は、自らの体験を伝える活動を続けています。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「皆さんも少し想像してみてください、けさ行ってくるわと出かけた大切な家族が変わり果てた姿で急に目の前にいるという現実。」

2012年のクリスマス。松本さんは家族でケーキを食べる約束をしていました。

10年前、吉野記者リポート

「事故のあった現場です。車は完全に押しつぶされています。ヘッドライトが上を向くような状態になっています。現在はカッターなどを使って中の様子が確認されています。」

レンタカー会社に勤めていた夫の康志さんは、東広島市の国道を車で走行中反対車線のトレーラーから落下した鉄板15枚の直撃を受け同乗していた会社の上司と共に命を落としました。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「事故の日のことというのはまだ自分達にとってはすごい最近のこと、昨日のことという感覚でいる。」

事故後、松本さんはふさぎこむようになり人との関わりを避けるようになりました。心の支えになったのは広島県警のカウンセラーの存在。つきそってもらったり電話での相談を続けたりすることだったといいます。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「私たちのその時の悲しみとか怒りとかに全部よりそってくださっていて。」

事故を起こした運転手は、トレーラーに落下防止柵を立てず、鉄板30枚をワイヤー1本で固定し運んでいました。運送会社の社長も落下を防ぐ指導を怠ったとして有罪判決が言い渡されました。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「(加害者には)一生忘れないでもらいたいし、それと同時に同じような事故が2度と起きないようにというのを、今現在運送業やられている方にはこれからも言い続けたい。」

社長から最後まで謝罪の言葉はありませんでしたが、精力的に動いたことで気持ちに区切りをつけることができたといいます。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「犯罪被害者として最後まで使える制度を全部使いきった。もう十分頑張ったよねと終われたのでそこは大きかった。」

すべての裁判を終え、松本さんは事故にあった被害者やその家族の苦しみなどを伝える活動を始めました。講演を続けるうちに知ったのが犯罪被害者を支える条例の存在です。

県や市町村が心や体に苦痛を抱える被害者のケアや財政的な援助を行うことを定めたものです。

当時広島県や広島市にこの条例は制定されていませんでした。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「広島県に市に各市町村に条例というものが制定されればいいなと思っています。」

松本さんは広島県に対しこの条例の制定を訴え始めました。事故直後の自分が県警のカウンセラーの存在によって救われたように、多くの犯罪被害者が行政からの幅広い支援を必要としていると考えたからです。

3年にわたる訴えを経て、2022年4月、広島県で犯罪被害者の支援に関する条例が制定されました。

メンタルケアの窓口が設けられたほか、事件後の過熱報道やインターネット上の誹謗中傷など精神的苦痛を防ぐための弁護士費用の助成も盛り込まれました。

広島県と同じく4月に制定された広島市の条例には、生活支援のため家事や転居にかかる費用の補助などが盛り込まれています。

しかし、広島県内23市町のうち、条例があるのは9市町のみ、松本さんが住む府中町にも制定されていません。

鉄板落下事故で夫を亡くした、松本里奈さん

「私は自分が住んでいる街に条例を早く作ってもらいたいというのは動いていきたいなと思う。県にもちろんできても実際支援を求める人に近いのは市町村なんですよね。」

まもなく事故から10年を迎えます。松本さんは誰の身に起きてもおかしくない交通事故に対して、当事者意識をもってもらうため、そしてすべての市町での条例制定を求めて自身の体験を伝える活動を続けています。

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