患者の負担減に期待 短期間でがんを治療する重粒子線治療 東北・北海道で唯一の治療施設

がんの放射線治療の中でも、がん細胞の殺傷能力が高く短期間で治療ができるとされる重粒子線治療についてです。
2021年から山形大学で行われていて、患者の負担を大きく減らせると期待されています。

仙台市に住む70代の男性、Aさんです。2年前の検査で前立腺がんが見つかりました。
仙台市内在住70代男性「なまけて(前立腺がん検査を)4年ほどやっていなかったんですよ。他のがんのマーカー検査はずっとやっていたんですけど。自覚症状は全く無かったですから頻尿も何も。それでも要するにがんだったわけですね。びっくりしますね」
東北、北海道で唯一、重粒子線治療ができる山形大学で治療すること1カ月。現在、経過は良好です。

がんの治療には、がん細胞を直接取り除く手術療法、抗がん剤などを使って治療する化学療法、そして、がん細胞に放射線を当ててがん細胞を破壊する放射線治療の3つがあります。
手術療法の場合、転移が無ければ完治の可能性が高いことがメリットですが、臓器の一部を切除するため体への負担がかなり大きいという課題があります。
化学療法の場合、薬の成分が血液を通して全身を巡るため、ごく小さな転移にも効果があります。一方で、脱毛や吐き気、だるさといった副作用があり、患者にとってつらい治療になりがちなのが難点です。
そして、放射線治療は患者へのダメージが少ないことが特徴です。代表的なものではX線、ガンマ線、陽子線などがありますが、X線を使った治療がほとんどです。

山形大学の東日本重粒子センター

その放射線治療の中で近年注目されているのが、重粒子線による治療です。山形大学が建設を進め、2021年2月に稼働した東日本重粒子センターです。
山形大学医学部東日本重粒子センター根本建二センター長「重粒子線と言いますのは、粒子、これは炭素の原子核を光の速度の大体70%くらいまで加速器というもので加速しまして、がんにぶつける治療になります。重粒子の場合には、当たった所(がん細胞)は本当になかなか回復できないような集中的なダメージを与えますので、X線とか陽子線の大体半分から3分の1くらいの回数で治療終わらせることができていて、短期治療に向いてるというのも、重粒子線の非常にメリットと考えています」

重粒子線治療の部屋

重粒子線を患者に照射する部屋です。
山形大学医学部東日本重粒子センター根本建二センター長「このロボット台が自動的に正しい位置に患者さんを運んでくれて、重粒子が出るんですけれども、基本的にただ寝ているだけ。人によって変わるんですけど、照射時間は、数分から10分程度」

前立腺がん患者のCT画像のイメージ図です。X線は、病巣に照射すると通り抜けて減衰する特徴があります。
治療では、必要に応じてさまざまな角度から照射する場合もあるため、病巣周辺の正常な組織に副作用が生じるリスクがあります。

一方、重粒子線は病巣に到達すると威力が一気に最大となり、そこで消滅するためX線と比べ病巣周辺を傷つけにくく、副作用が少ない点が特徴です。
このため、体の深い部分にありX線では効きにくいとされる骨軟部のがんや病巣の大きな肝臓がんなどにも効果を発揮すると言われていて、治療の回数も少なくて済むメリットがあります。

例えば、前立腺がんの場合、従来の放射線治療では通常35回から39回治療が必要ですが、重粒子線治療では12回程度で終わります。
Aさんも治療中の副作用はほとんどなく、12回で治療を終えました。
仙台市内在住70代男性Aさん「(治療回数が)少ないのは良かったですよね。治療は痛くもかゆくもないです。私の場合は、ホテル住まいで12回ですから1カ月以内で終わりますからね。病院で治療が終わったら、ホテルで何しようかと思うくらい時間がありますから、テレワークだったらパソコンを持って行けばホテルでも仕事できますからね現役の場合ね。受けて良かったですね」
山形大学医学部附属病院佐藤啓放射線治療科長「(がんや炎症で前立腺から血液中に漏れ出す)PSAの値としても(12回目以降も)非常に低値で推移しておりましたので、経過としては非常に良好であると。今までに約600名の方が既に重粒子線治療を終えられていますが、非常に楽であったというような印象を持たれる方がほとんどでありますね」

山形県の北部に住む80代の男性も、ここで前立腺がんを治療しています。自宅から車で通院していて、これまでに日帰りで10回治療を受けています。
山形県北部在住80代男性「(治療日は毎日)車で来ているんですけども、(病院まで)大体1時間20分くらい。これから雪が降ってくる前に、あと2回で終わることができたので、ありがたく思っています」

短期間で治療ができるとされ、患者の負担を大きく減らせる重粒子線治療。設備を整えた施設の建設費は150億円ほどと、他の医療施設と比べて桁違いに高いことから世界で14カ所しかありません。
このうち日本は最も多く、大阪や佐賀など7カ所で東北より北にはこれまでありませんでした。
山形大学医学部東日本重粒子センター根本建二センター長「九州の場合には佐賀県にあるんですけども、患者さんの半分以上が福岡県から来てるような状況なんですね。(東日本重粒子センターでは)山形県内の方が大体8割、山形県外が2割ですが、そのうち半分ぐらいが宮城県からの患者さんだったんです。必然的に(人口の多い)宮城県の患者さんの比率は、今よりかなり高くなっていくと期待しています」

治療施設に大きな期待

山形大学病院では10月、重粒子線で治療可能ながんを4種類から16種類と大幅に増やし、保険適用や先進医療対象ですい臓がんや肝臓がん、子宮頸部腺がんなどの患者の受け入れが始まりました。
稼働から1年9カ月。東北・北海道で唯一の重粒子線治療施設に大きな期待が寄せられています。
山形大学医学部東日本重粒子センター根本建二センター長「(保険適用のがんが増えていることで)医療費という観点からも普通の治療になってきたと思っています。
必ずその重粒子じゃないと駄目だっていう状態もありますし、他でも良いけど重粒子ならもう少し良いですよという状態もあります。たくさんの方に恩恵を与えられるような施設になっていきたいと考えています」

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