3年ぶりの日韓首脳会談 日本は言うべきことを言えたのか|和田政宗 約3年ぶりに開かれた日韓首脳会談は、岸田総理と尹大統領の初会談でもあった。初会談は相手にくさびを打ち込む重要な会談である。はたして岸田総理は、韓国にくさびを打つことができたのだろうか。(サムネイルは首相官邸HPより)

レーダー照射問題、竹島問題に言及したのか

今週13日に行われた日韓首脳会談。岸田総理と尹錫悦大統領による初会談かつ、日韓首脳会談の開催が約3年ぶりという重要な会談であったが、「失望した」「会談する意味があったのか」などの声や質問が私のもとにいくつも寄せられた。会談後の外務省の発表文を見ると、初会談で指摘しておくべき内容に言及したのかが不明であるからだ。

まず、なぜ約3年にわたって日韓首脳会談が開かれなかったのか。

それは、2018年12月に起きた韓国海軍の駆逐艦による海上自衛隊の哨戒機への火器管制レーダー照射問題に対し、韓国側が何ら解決のための取り組みをしないこと。さらに、旧朝鮮半島出身労働者の賠償訴訟に対し、韓国の最高裁にあたる大法院が国際法を無視する判決を行い、被告とされた企業の資産の差し押さえについて、何ら韓国側が対応を取っていないからである。

今回の日韓首脳会談の発表文では、レーダー照射問題について何ら言及されていない。北朝鮮や中国が侵略的行動を取るなかで、日韓が安全保障上連携しようとするならば、これをクリアにしなければ連携などできないのだが、会談で言及したのか不明である。

自衛隊関係者からは、「結局この問題もなあなあにされるのか」との声が聞かれた。韓国が一方的に悪いレーダー照射問題のようなことが起きても政府は守ってくれないとなれば、命を懸けて国家国民を守るために働いている自衛隊員はどう思うだろうか。会談時間は45分間あったのだから、「時間がなかった」との理由は成り立たない。

そして、竹島問題を取り上げたのかどうか。

初会談は相手にくさびを打ち込む重要な会談である。尹政権は日本に対し融和姿勢を取りたいという意志があるからこそ、根本的な問題については初会談で言及し、解決に向けた行動を促すべきである。もし今回、竹島問題に一言も触れなかったのであれば、韓国側は「日本は竹島をあきらめた」というメッセージになりかねない。

旧朝鮮半島出身労働者問題についてはどうか

さらに、旧朝鮮半島出身労働者問題について会談内容がどうであったのか。

外務省の発表では、「懸案の早期解決を図ることで改めて一致した」とのことだが、この問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、日本にとっては「懸案」でも何でもない。

韓国が国内で解決すべき問題であり、岸田総理はそれについて明確に言及したのかどうか。これらについては外務省に問い合わせたが、いずれについても「詳細はお答えできない」との回答だった。外務省の発表文に記載がないということは、そこまで踏み込まなかったと解されても仕方がない。

そして、今回の日韓首脳会談の状況は、明日17日に予定されている日中首脳会談がしっかりした内容になるのかという疑問につながってしまう。日中首脳会談も3年ぶりの開催であり、これまで会談を行わなかったのは、尖閣に加え、台湾、南シナ海での中国の侵略行動が続いているからである。だからこそ、今回の会談では、まず台湾と尖閣への侵略を許さないことを明確にすることが重要である。

中国は「台湾については内政問題」と言うだろうが、中国は「尖閣は台湾の一部だから中国のもの」と荒唐無稽な主張を繰り広げており、日本は台湾の侵略を許さないと言及しても何ら問題はない。さらに、ウイグルやチベット、南モンゴルでの人権侵害や虐殺についても言及すべきである。

日本はアジアの自由主義国のリーダーであり、先の大戦で我が国の先人たちは、アジアの諸民族の独立と解放のために戦った。強権的な国に弾圧され、独立を望んでいるのにいまだ叶わない民族があるのであれば、日本はその民族の自主独立のために行動すべきだ。

日中首脳会談において、こうしたことに言及することが日本の外交力を高め、ひいては抑止力を高めることとなる。

諸国の勇気を奮い起こした安倍晋三元総理

外交の場は国家のリーダーとしての覚悟が示されるとともに、信頼を得る場である。安倍晋三元総理は国際会議の場で、中国に遠慮し、うつむいていた東南アジアなどの国々の首脳に対し、日本がアジアと世界の自由と民主主義と秩序を守るということを宣言し、諸国の勇気を奮い起こし、絶大なる信頼を得た。

そして、安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、各国の信頼を得て、戦後初めて日本の総理が提唱した外交戦略が世界のスタンダードとなった。

北朝鮮の金正恩総書記、ロシアのプーチン大統領をはじめ、独裁者は暗殺の恐れのなかでその政権を保っている。こうした指導者と対等に対峙できるのは、真に肚の座っている指導者でなければできない。外交交渉の際、場合によっては日本に帰国できないかもしれないという命を賭す覚悟を持った交渉ができる指導者が必要である。

はたして岸田総理はそれができるであろうか。
日本の指導者に常に突きつけられていることである。

過去の政治家を見れば、戦前のみならず有史以来、我が国を守るために覚悟をもって外交交渉に臨んできた政治家がいる。時に強硬であったり、時に融和的であったり、こうした先人の外交の姿を学ぶことが今の政治家にとって特に重要だ。現下の状況を踏まえるとともに、そうした学びを経験値と変え、各国との交渉に臨んでいくべきである。

政治家は、国と国民を守るために身を賭さなくてはならない。学びと行動あるのみだ。

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和田政宗

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