「不自由はリアル」 国内音楽シーンを支えたレジェンドが対談本を発売

 1960年代から日本の音楽シーンを育て、盛り上げてきた音楽人、石坂敬一(70)と、プロデューサー、音楽評論家の立川直樹(67)の対談集「すべてはスリーコードから始まった」が発売された22日、東京・渋谷でトークショーが開かれた。ロックミュージシャンのプリンスの訃報があったこの日、石坂は「(1月にデビッド)ボウイ、そしてプリンスを失って、英米のロックシーンはどうなっていくのか」と嘆いていた。

 洋楽ではザ・ビートルズ、ピンク・フロイド、邦楽ではBOØWY、矢沢永吉ら数々のアーティストを手掛けた石坂。世界で2千セット以上を販売したザ・ビートルズの「ザ・ビートルズ1962年〜1966年」(通称:赤盤)、「ザ・ビートルズ1967年〜1970年」(通称:青盤)の日本盤を手掛けた際は、輸入盤にはない魅力をと、年表を付けることを考案。これを作成した立川は「当時はインターネットがなかったけれど、取っていたイギリスの音楽新聞『メロディー・メーカー』などをひもといて、出てきた固有名詞から、さらに情報を集めて深く掘っていった」と苦労話を吐露。輸入盤になかった解説や年表は日本盤の価値を高め、大ヒットにつながった。

 会場には書籍の帯に推薦文を書いた「LUNA SEA」、「X JAPAN」のギタリスト、バイオリニストとして活躍するSUGIZO(46)が特別ゲストで登壇。SUGIZOは、「僕は2人が日本のロックシーンにまいた種を栄養に生きてきました。僕は音楽は一つの学問、アートと捉えています。僕らの世代は下の子たちにそれを伝えていかなければいけない」と話していた。

 書籍では、60年代から現在までの日本におけるロックの成り立ちと発展、レコード文化の勃興、音楽ビジネスの栄枯盛衰と新展開のほか、ロックの未来についても語り合っている。立川がボウイにインタビューしている様子など貴重な写真も収められている。

 立川は「対談はお互いの歴史を振り返る楽しい時間でした。インターネットなどがない不自由だった時代は全てがリアルだった。そこに行かなくては分からないこと、手にしなければ感じることができないものがあった。昔、ジョン・レノンがラジオから流れてきた(エルビス・プレスリーの)『ハートブレイク・ホテル』を聞いて『学校の先生が話していることよりも、よっぽどリアル』と言ったことがあって、そういう風に音楽が人に与える影響はとても面白い」と力説。詰めかけた100人の音楽ファンは、熱心に耳を傾けていた。

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