露軍撤退のヘルソンでも民間人虐殺、計り知れない怒りと悲しみ 「話し合えは詭弁。騙されるな」識者が語る

ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア軍がウクライナ南部ヘルソン州の州都・ヘルソンから部隊を撤退し始めたと報じられたが、東部では戦闘が続いている。今後の情勢はどうなるのか。ジャーナリストの深月ユリア氏がウクライナ出身の国際政治学者であるアンドリー・グレンコ氏に見解を聞いた。

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11日、ウクライナ戦争でロシア軍がヘルソン州から撤退した。一方で東部では激しい戦闘が続いている。14日、ロシア国防省は「東部ドネツク州の州都ドネツクの西部にあるパウリウカを掌握した」と発表し、侵攻を継続する姿勢を示した。同日、米シンクタンク「戦争研究所」はHP上で「プーチン大統領は、ヘルソンから撤退させた後にロシア軍をドネツク州に投入する可能性が高い。今後、戦闘が激化するだろう」と分析した。

今後の戦況はどうなるのか。筆者はウクライナの国際政治学者で 「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」などの著者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューした。

-ヘルソン撤退に関して感想は?

「素直には喜べませんね。撤退したヘルソン州も、民間人の虐殺、拉致、略奪が行われました。プーチンの目的はウクライナ人のジェノサイドです。ヘルソンとロシアの間にはドニエプル川があり、ロシアから物資が運びにくく、ロシア軍が戦いにくい地域です。おそらく、ロシア軍はあまり戦わずに温存できた兵力を春には再編成し、新たな攻勢をかけます」

-もしかしたらロシア軍が撤退したヘルソン州で、核兵器を使う可能性はあるか?

「今年から来年初めはないでしょう。ロシアが明らかに負けない限りはないと思います。そして、核兵器が使われるかは、NATOがどれだけプーチンに対して強気に出れるか、にかかります」

-ヘルソンで〝戦勝〟したタイミングでウクライナは妥協して停戦合意をすべきですか?

「東部を解放するまで、『勝利』とは言い切れません。日々、ロシア軍による残虐行為が行われ、ウクライナ人の怒りと悲しみは計り知れません。各国におけるロシアのプロパガンディストの論調は『ロシアはヘルソンから撤退して、建設的な態度を取った。次はウクライナが建設的な態度を取る番だ』、『ウクライナは戦闘行為をやめて、停戦交渉を始めるべきだ』 みたいな感じですが、だまされてはいけません。侵略者と侵略された被害者に同じように『話し合え』というのは詭弁です。妥協は平和への道ではなく、戦争への道です。ロシアは再び侵略するでしょう」

-米国の中間選挙はウクライナ戦争に影響しますか?トランプ氏は米大統領戦への出馬を表明しました。

「米国の中間選挙で、下院で共和党が過半数の票を得たが、共和党にはウクライナ支援を続けるべきだと主張する派閥と、支援を縮小すべきだと主張するトランプ派に分かれます。トランプが勝てばウクライナに不利になる可能性があります。しかし、たとえ米大統領戦でトランプが勝ったとしても、大統領に就任するのは2025年です。それまでにウクライナが勝てばよいのですが」

-ウクライナを早く勝たせるには?

「ありとあらゆる武器の支援が早急に必要です」

残念ながら戦争はまだ続きそうだが、油断せず、引き続き、最大限のウクライナ支援が必要だと、同氏は訴える。一日も早く、ウクライナに平和が戻ることを願う。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

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