自治会をDX…回覧板アプリ化で文書配布の負担を軽減 福井県坂井市が導入へ、訃報連絡や社会奉仕の出欠確認も可能

区内で回覧している文書を電子化して発信できる「自治会サポ!」の画面イメージ。アンケート機能もある

 福井県坂井市は各区内で回覧する文書を電子化するアプリ「自治会サポ!」の2023年4月運用開始に向けた準備を進めている。区長が担う行政文書配布にかかる手間と時間の軽減を目指す事業で、行事案内などをボタン一つで区民に発信できる。導入は各区の意向に委ね、環境整備後も希望者には紙ベースでの配布を併用する計画。年配が多い区長はデジタルに不慣れなケースが想定され、アプリの浸透、持続的な運用には市民理解が鍵を握る。

 自治体全域で電子回覧板のシステムを構築する試みは全国で先駆け。デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の一環で、市と福井システムズ(坂井市)が共同開発した。

 自治体サポは1月開始の市公式LINEを活用した情報共有ツール。まずは「友だち登録」すると、市が発信する災害や子育て情報が得られ、市広報なども閲覧できる。

 公式ラインのトップページを入り口にする電子回覧板は、ラインにはない機能を盛り込んだ。区長らが管理者となり、回覧板やごみ当番の日程、訃報など区独自の情報を発信できる。役員会や子ども会などグループ分けも可能。アンケート機能を活用し、新型コロナ禍での祭りや社会奉仕についての賛否や参加か不参加かも確認ができる。

 従来通り紙文書を希望する住民には配ってもらい、電子回覧板を利用した上で手元に紙も残したいという住民ニーズにも対応する。

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 市は今秋から6区で試験運用を始めた。このうち三国町下野は84世帯約300人の集落で1~7部がある。12世帯のある部では、デジタルが9世帯、紙の希望が3世帯あった。

 これまでは行政や区内各種団体からの紙文書を仕分けして各戸配布してきた。「手間で大変だった」と語る区長の毛利告さん(66)は、過去に使った行事案内の文章を修正して使い回しができる機能があることも踏まえ、「かなり効率的、迅速な情報伝達の手段になる」と期待を寄せる。部ごと以外にも総会や女性部、子ども会、防災関係などにグループ分けする計画で「紙だと見たかどうか分からず、電話確認が必要な場合もあった。誰が確認し、誰が確認していないか分かるのが大きい」と話す。

 区民アンケートでネット環境がある住民は83%と分かり、毛利さんは「タブレットやWi―Fiなどハード面の支援も併せて進めることが普及につながるだろう」と見据えた。

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 市は自治会が抱える課題を把握し、解決支援に向けた基本情報を収集する「集落カルテ事業」を進めている。この中で高齢化に伴い区長の担い手が不足し、行政文書の配布負担が大きいとの声を受け、デジタル化の検討を進めてきた。

 市内の自治会加入率は9割を切る現状で、自動翻訳機能もある自治会サポの運用により、増加する外国人、転居などで実家を離れて暮らす自治会未加入者とも情報共有できることで、新たなコミュニティー形成につなげたい考えだ。

 一方で区長は8割程度が毎年交代し年配者も多く、運用は難しいとの懸念がある。市は来年1~2月にかけて自治会説明を始める計画で、市まちづくり推進課の北川直規課長は「区長に全てにお任せではなく、区内の若手らがITを担当するなど工夫してもらい、担い手候補の循環をつくることも呼びかけたい。アプリの利点を丁寧に説明していく」としている。

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