ツル同士の飛沫感染で鳥インフル拡大か 過去にない感染ペース…ウイルス学者「予想外。ピークも読めない」 世界有数の越冬地・出水平野

出水平野に飛来しているツル=11月1日、出水市の荒崎休遊地

 鹿児島県の出水平野でツルの高病原性鳥インフルエンザ確認が相次いでいる。死亡や衰弱で回収されたツルはわずか2週間で過去最多を更新し、高病原性の陽性率も高い。今季の状況をどう分析するか。現地のウイルス検査に携わる鹿児島大学共同獣医学部の小澤真准教授(43)=ウイルス学=に聞いた。

 -感染状況をどう見る。

 過去にない感染ペースだ。夏から秋に欧米で鳥インフルエンザの被害がかなり出ていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、渡り鳥が夏を過ごすシベリアの情報が日本の研究機関に十分共有されず、確度の高い予測ができなかった。ツルの間でここまで感染が広がるのは予想外。ピークも読めない。

 -感染拡大の原因は。

 これまで回収したツルを簡易検査すると、陽性率は5割以下だった。今季は9割を超えている。消化管のウイルス量も例年より多く、体外に放出されやすい。今まではねぐら水を共有するカモ類からツルに感染するのが主流とみられていたが、今季はツル同士の飛沫(ひまつ)感染が起きている可能性がある。

 -回収個体が増え、県は5~10羽のうち1羽程度を選ぶ抽出検査に移行した。

 検査人員や地元自治体の負担を考えれば、合理的だとは思う。ただ、ツルは寄生虫や栄養失調で死ぬことも多い。抽出検査で陰性だからといって、その他の個体も全てが陰性と見なすことはできない。

 -世界に生息するナベヅルやマナヅルの大半が出水平野で越冬する。

 希少種保護の観点では、一極集中は絶滅を招くリスクがある。今回の感染拡大はその問題が浮き彫りになったといえる。分散化の議論や実験はされているが、効果的な手法はまだ確立できてない。分散化に向けた取り組みを加速すべきだ。

小澤真准教授

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