東京圏の鉄道はどう変わる 山手線のイメージアップに副都心の大規模開発……今注目の街は?【コラム】

新型コロナの最初のパンデミックからやがて3年、東京圏の鉄道各社の利用客はコロナ前の8割程度まで戻っています(写真:T2 / PIXTA)

コロナ禍をきっかけに鉄道が大きく変わったことは、本サイトをご覧の皆さんならご理解いただけるでしょう。コロナ前、日本全体は既に人口減少に転じていましたが、東京圏は人口流入が続き、鉄道各社は列車増発や編成増に力を入れていました。しかし、コロナで利用客は減少、ダイヤ改正では減便や編成両数減が当たり前になっています。

このまま縮小再生産が続くのか、それとも反転攻勢で再び勢いを取り戻すのか――。鉄道の針路を考えさせられたのが、運輸総合研究所が2022年11月4日に開催したシンポジウム「東京圏の鉄道の課題と展望」です。運輸総研は2012年から、東京圏の鉄道各社と30年後の鉄道輸送のあり方や課題を探る調査研究を始め、今回は中間報告の形で成果を発表。パネルディスカッションでは、鉄道6社が意見交換しました。

本コラムは、前半で各社の発言からトピックスを拾い、後半は運輸総研の研究成果から鉄道ファンの皆さんに届きそうな話題をピックアップしました。

山手線をイメージアップ

パネリストを務めた渡利JRグループ経営戦略本部長、城石東急副会長、野焼メトロ鉄道本部長=写真左から=(写真:運輸総合研究所)

オンラインを含め約1400人が参加したシンポのディスカッションには、JR東日本、東急電鉄、東京メトロ、西武鉄道、小田急電鉄、東武鉄道の各社から鉄道や経営計画部門のトップがパネリストとして参加しました。

JR東日本の渡利千春常務・グループ経営戦略本部長によると、現在の利用客数はコロナ前の90%程度まで戻ったそう。首都圏線区のサービス強化策では、従来の輸送力増強に代えて、①駅のバリアフリー化などシニア層を意識した利用しやすい車両・駅づくり、②駅型保育施設など子育て世代が暮らしやすい駅街づくり、③訪日外国人の復活に向けた多言語対応――に力を入れます。

新しい取り組みが、山手線29駅全体を高層ビルに見立て、線区全体をイメージアップする考え方。東京の真ん中をぐるり一周する山手線には東京、新宿などのターミナル駅、暮らす街として人気の恵比寿、若者の街・原宿、シニアの巣鴨といろんな駅があります。それぞれの駅や街は高層ビルの各フロア、電車はフロアを行き来するエレベーターというわけです。

思い返せば、現在の山手線各駅にはあまり共通性がないようにも思えます。今後は共通デザインの採用などが考えられるわけで、〝日本一の有名線区・山手線〟の新たな挑戦に期待したいところです。

新宿に続き渋谷や池袋で大規模開発

駅周辺の大規模開発に力を入れる考えを示したのが、東京メトロの野焼計史専務・鉄道本部長。地下を走るメトロは、一般の鉄道と違い駅開発が難しいのが課題です。しかし、小田急電鉄と共同の新宿駅西口地区再開発がスタート、話題を集めます。

野焼専務は、新宿に続くプロジェクトとして渋谷と池袋を例示しました。渋谷は東急やJRと共同の「渋谷スクランブルスクエア」(第Ⅱ期)が進行中、池袋の構想発表はこれからです。

池袋には丸ノ内線、有楽町線、副都心線のメトロ3線が乗り入れます。東口に西武池袋本店、西口に東武百貨店池袋店が立地する駅環境は、新宿に類似するようです。どんな展開が広がるのか、関心を呼ぶところです。

SL大樹の鬼怒川線は「レトロ化」

パネリストとして登壇した藤井西武鉄道本部長、立山小田急交通サービス事業本部長、鈴木東武鉄道事業本部長=写真左から=(写真:運輸総合研究所)

車両や運転で、さらなるイメージアップと業務効率化を披露したのが、東武鉄道の鈴木孝郎取締役常務執行役員・鉄道事業本部長です。

線区イメージアップでは、「SL大樹」が走る鬼怒川線各駅を〝昭和レトロ化〟。駅舎をクラシック調にリニューアルしたり、駅名標レトロ化も進めます。昭和レトロの駅でSLをバックにスマホショット、インスタ映え時代にあわせた利用促進策です。

2017年から運行を始めた「SL大樹」。東武は鬼怒川線の昭和レトロ化に取り組みます(写真:鉄道チャンネル)

効率ではワンマン運転に言及。同社の路線は463キロ。そのうち200キロ以上の区間でワンマン運転を実施しており、今後も安全を確保した省力化を目指していく方針です。また新型車両では、2023年7月にデビューする「スペーシアX」について、従来車に比べ消費電力を大きくカットした環境性能を強調しました。

自動運転採用時に乗務員の処遇は

自動運転も今後の各社共通の経営課題ですが、東急電鉄の城石文明取締役副会長からはこんな発言も。「自動運転の実用化時、乗務員の処遇をどうするのか」。

確かに、現在の鉄道運転士は「動力車操縦者運転免許」という国家資格を持ち、試験に合格することがモチベーションになっています。一定の将来とは思いますが、資格制度が変更された場合、運転士(この職名がなくなるかもしれませんね)の社内的処遇をどうするのか。鉄道会社にとっては、避けて通れないテーマなのでしょう。

子どもIC運賃で利用は1.5倍増

西武鉄道の藤井高明取締役常務執行役員・鉄道本部長からは高齢化社会に対応するホームドア整備、小田急電鉄の立山昭憲取締役常務執行役員・交通サービス事業本部長からは2022年3月からの「子どもIC運賃50円」で、子ども利用客が1.5倍に増えたことなどが披露されました。

さらに、業界全体に共通するテーマが、電力料金高騰への防衛策。航空やトラック業界で定着する、燃料費の値上がり分を運賃に上乗せする「燃油(燃料)サーチャージ」の鉄道業界への導入が複数社から提起。「自動運転のように鉄道業界に共通する課題には、業界が一致協力して取り組む必要がある」の声も、各社から出されました。

平成の乗降人数伸び率上位は東京メトロ、東急、京急

東京メトロのほかJR、東武、西武の鉄道4社が集結する東京都心の巨大ターミナル・池袋駅(写真:Ryuji / PIXTA)

コラム後半は、運輸総研研究員の調査研究からポイントを絞ってご紹介します。

1995年から2017年までの会社別乗降人員の伸び率がランキング形式で報告されました。伸び率上位は、①東京メトロ、②東急電鉄、③京浜急行電鉄、④京王電鉄、⑤小田急電鉄、⑥JR東日本、⑦西武鉄道、⑧京成電鉄、⑨東武鉄道、⑩相模鉄道。

全般に東京西側の鉄道が上位なのは、多くの大学が多摩地区に立地するから。新興住宅地も多摩エリアが中心です。沿線を開発して利用増につなげるビジネスモデルは、現代も生き続けます。

JRは「駅混雑が少ない」!?

さらに、興味深いのは鉄道会社別のイメージアンケート。利用客が対象6社にどんなイメージ(会社のカラーとも言い換えられると思います)を持つのかについて、JR東日本は「駅混雑が少ない」、東急、小田急、西武の3社は「地域の教育水準(が高い)」、東京メトロは「再開発で魅力向上」、東武は「駅や駅周辺のバリアフリー化(が進んでいる)」がトップにランクされました。

JRの駅混雑緩和は一瞬疑問にも感じたのですが、確かに湘南新宿ラインや上野東京ライン、常磐線の品川直通運転などで乗り換え回数は減少。乗換駅の混雑解消につながっているようです。今後は現在も再開発が進む渋谷、そして「新宿グランドターミナル構想」が始動した新宿に期待といったところでしょうか。

豊洲に注目?鉄道会社は進学・就職の若者や子育てファミリーのファン獲得を目指すべきか

もう一つの注目点が、メトロの「再開発で魅力向上」。コラム前半では新宿、渋谷、池袋の再開発を取り上げましたが、それより利用客が意識するのは、暮らす街として人気上昇中の豊洲かもしれません。豊洲は有楽町線の半蔵門線住吉への延伸が決まり、街の魅力がますます向上しそうです

地方から東京に転居する年代層は、進学時と就職時が圧倒的に多いそう。「充実した学びは東京の学校で」、「やりたい仕事に就けるのは東京」といったところでしょうか。

運輸総研の別の調査では、「進学・就職で東京に出てくる人は、住居を決めるのに鉄道サービスを重視する」の結果も出ています。東急、小田急、西武の「教育水準」への評価には、「鉄道会社の経営戦略は、進学・就職の若者やヤングファミリーにファンを増やすこと」のメッセージが込められているのかもしれません。

運輸総研の調査研究には、ほかにも今後の東京圏鉄道の針路を示すデータが満載。機会があれば、続報の形でご紹介させていただきたいと思います。

記事:上里夏生

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