映像の「時短」

 本を斜め読みしたことは、多くの人があるだろう。では、テレビ録画やDVDの類いではどうか。「個人の見解」だが、情報を得るだけならば“斜め視聴”、つまり再生速度を上げてザッと見ることもあるが、映画では禁じ手にしている▲風景を流すシーンであれ、長い沈黙であれ、きっと何かの意味を持つ。斜めに見るのはためらわれて…というのが理由だが、もちろんそれも人や世代によるらしい▲数限りない作品がネットの配信動画で見られる時代になった。ドラマや映画の「倍速視聴」が、とりわけ若い世代に増えているという▲ライターの稲田豊史(とよし)さんは著書「映画を早送りで観る人たち」(光文社新書)に書いている。話題に付いていきたいが、見るべき作品が多すぎて時間がない。〈それを、倍速視聴という「時短」が解決する〉と▲その「時短」の極みだろう。映画を10分ほどに短くまとめて無断公開する「ファスト映画」は、人気作だと数百万回も再生される。映像大手が損害賠償を求めた訴訟で、流した側に東京地裁が5億円の賠償を命じた▲軽い気持ちで見ないで、と映画会社は視聴する人々に訴えている。違法な広告収入を得る手助けをしてしまうから、と。「時短」も一利一害で、映像の大海原には“遊泳ご法度”の区域もあると知っておきたい。(徹)

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