「小規模離島」維持へ新規定 改正離島振興法が成立

改正離島振興法の主なポイント

 「関係人口」のような島外人材の活用や多様な再生可能エネルギー導入などを柱に与野党が議員立法で提出した改正離島振興法が18日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。本年度末に期限が切れる現行法を2032年度末まで10年延長し、公共事業の補助率かさ上げ特例や国による活性化交付金の配分を継続する。
 島外の児童生徒を受け入れる「離島留学」を配慮規定に明記。寄宿舎の環境整備などで支援拡充が見込まれる。都道府県による離島市町村への支援の努力義務を新設。高齢化が進む「小規模離島」について日常生活に必要な環境維持が図られるよう配慮する規定も新設した。
 交通関係で「高速安定航行が可能な船舶」などに対する設備投資を配慮規定に明記。離島航路で、老朽化するジェットフォイルの整備や更新などが支援の対象となる見通し。「ドローンの活用」も盛り込んだ。
 風力など豊富な離島の再生可能エネルギーを生かすため「再生可能エネルギーの利用推進施策の充実」も新たに配慮規定に明記。「高度情報通信ネットワークの充実」を特別の配慮に格上げした。医師の確保や遠隔医療システムによって医療体制を充実させるほか、オンライン授業やテレワークを念頭に、通信インフラの維持管理に配慮することも掲げた。
 審議の過程では、ガソリン税の減免などを巡り与野党の調整が難航したが、付帯決議でガソリン価格引き下げに向けた支援強化を求めることで折り合った。
 自民党離島振興特別委員長の谷川弥一衆院議員(長崎3区)は「離島の人口減を何とか食い止めるため改正法をうまく活用してほしい。一方で地元自治体も例えばIT人材のU、Iターン促進に努力するなど汗をかいてほしい」と話した。
 離島振興法は1953年、議員立法で制定され、10年ごとに延長、改正されてきた。対象の有人離島は今年4月時点で本県など26都道県の254島。

◎「人口維持へ大きな意味」 長崎県内首長ら 期待と注文

 情報化の進展や再生可能エネルギーの推進などを見据えた施策の充実を盛り込んだ改正離島振興法が18日、参院で可決し成立した。県内の首長や島民からは評価する声が上がる一方、人口減少対策の一層の充実を求める意見が上がった。
 改正法は、情報通信技術(ICT)を活用した取り組みに不可欠な高度情報通信ネットワークの充実に、特別に配慮するよう明記。ドローンの活用や遠隔医療、遠隔教育に関する施策の推進が盛り込まれた。
 県内10市町でつくる県離島振興協議会は「次の時代に合った」法改正を国に要望しており、会長の野口市太郎五島市長は「おおむね盛り込まれた」と評価。島民の暮らしの維持や移住、仕事と休暇を組み合わせるワーケーションの推進などに情報インフラの整備は欠かせず、「本土からの隔絶性の解消や人口維持のため大きな意味を持つ」と、今後の予算措置に期待した。
 「島にいながら、医療設備が整った大病院の治療を受けられれば助かる」と語るのは対馬市北部の上県町に住む佐護哲也さん(77)。病気の治療で福岡市に向かうため、自宅から車で片道約1時間の対馬空港を使用しており、遠隔医療の充実に期待を寄せた。
 財政的な配慮を求める声も。新上五島町の石田信明町長は、離島航路の維持改善などのほか、新たな財源となる「離島振興債」の創設を望んだ。
 再生可能エネルギーの利用に向けては五島市沖で洋上風力発電の建設が進む。壱岐市も導入を目指しており、白川博一市長は「一般海域の利害関係者との調整について(国の)積極的な関与をお願いする」と注文。同市と共に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す国の「SDGs未来都市」に選定されている対馬市の比田勝尚喜市長は「多種多様化する課題に対し、最大限、改正法による施策を活用したい」とした。
 小規模離島については日常生活に必要な環境の維持に配慮する規定が新設された。遠隔医療体制を整備し、ドローンによる物流輸送が実施されている人口約100人の五島市の二次離島、嵯峨島の町内会長、吉田武雄さん(66)は「高齢者が多く、地域を維持していくのが難しくなっている」と、施策の充実を求めた。


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