行き場失った動物たちを保護…大内山動物園が拡大を続ける理由 減らぬ不幸な動物を救い続け【杉本彩のEva通信】

山本園長に甘えるライオンのリオン君

三重県度会郡にある個人経営の大内山動物園。現在は約6ヘクタールの園内に114種類・約700頭の動物がいる。私が初めて大内山動物園を訪れた10年程前は、今よりずっと小さな規模だった。その頃からすでに拡張計画があり、10年かけて動物園は少しずつ拡張していった。 大内山動物園で飼育している動物のほとんどは保護動物で、動物園の閉園により、現園長の山本清號さんが手を差し伸べなければ、殺処分になっていた動物たちだ。また、ペットとして飼育されていたが捨てられた動物や、住宅地に出没して捕獲され駆除対象となっていた野生動物たちもいる。

廃園寸前からの再建

山本園長は、これらの事情で行き場を失った動物たちを放っておくことができず、 動物の保護施設として動物園を運営している。園の拡張は、そんな保護すべき動物たちが後を絶たないからだ。しかし、個人経営で運営するのは並大抵なことではない。熊やライオンやチンパンジーなどの特定動物の保護は、犬や猫の保護施設を運営するのとは訳が違う。

そもそも山本園長が動物園を運営するきっかけは14年程前に遡る。今は亡き前園長が友人だったことから、2006年頃に動物園を訪れると、前園長の経営難と体調の悪化により、世話は行き届かず動物たちは痩せ細り、廃園寸前で荒れ果てていた。訪れた子どもが弱りきった可哀想な動物の姿にショックを受け、泣いて帰るほど酷かったという。山本園長は、そんな動物たちに心を痛め、私財を投じて飼育環境の改善を進めた。そして動物園を引き継いだのだ。

もともと建設会社を経営している山本園長は、その人脈や手腕を生かし、動物園の再建を目指した。荒れ放題の動物園の掃除と餌やりのため、一旦休園にした動物園に、名古屋の自宅を毎朝4時に出発し車で動物園に通い詰め、餌やりや掃除をして、動物たちが快適に過ごせるよう全力を尽くした。現在は週3回のペースで動物園に通い、必ずすべての飼育舎を回って、餌やりをしながら動物たちの健康状態をチェックしている。投じた私財も労力も、まさに動物たちのために「人生を捧げた」といって過言ではない。当時、地鎮祭まで終えていた自宅の建築を取りやめ、その費用のすべてを動物園に投じた。

山本園長は、「日本で一番きれいな動物園」を目指し、動物たちに豊かな環境を与えるため、山の湧水を使用できるようインフラも整備した。当初は保護だけを目的としていたため、動物園として一般公開するつもりはなかったそうだ。しかし、休園を知らずに来た家族連れが残念そうに帰る姿を目にしたり、地元の人々の要望もあり、保護施設の公開を決めたのだ。そして、柵や園内を整備し2009年に動物園として再オープンした。 

ゴルフや酒も断ち

動物園の再建を決めたとき、長年楽しんできた大好きなゴルフやお酒をきっぱりやめたそうだ。責任をまっとうするためには、そういう覚悟と決意がないと到底できることではないと思ったからだ。経済的な成功者だから出来ることではあるが、お金さえあれば出来るというものではない。山本園長にお会いすると、動物の命を尊ぶ深い愛情はもとより、バイタリティと人間力があるからこそだとわかる。人にも動物にもどこまでもやさしい人なのだ。人としてのキャパシティがとてつもなく大きい。

それは、動物園のきれいな園内を見てもわかる。動物園は臭くても仕方ない、そう思っている人がほとんどではないだろうか。しかし、大内山動物園は、徹底した掃除により動物園特有の臭いがしない。山本園長にどんな工夫がされているのか訊ねたことがある。その答えはとてもシンプルだ。排泄物を頻繁に掃除し、清潔を保っているだけ。動物の世話に費やす労力と時間の大半は掃除だという。規模は違うが、多くの犬猫と暮らしてきた私も同じく徹底した掃除を心がけているので、とても納得できる話だった。動物園も同じなのだ。徹底した掃除は、きれい好きな動物が快適に暮らせるため、そして来園者にも、動物は臭いとか、臭くても仕方ないと思ってほしくないからだという。山本園長が目指した「日本一きれいな動物園」は、動物へのおもいやりある行動の結果なのだ。

そんなきれいな飼育舎で暮らしている動物たちには、さまざまな背景がある。ウマグマのシュウ君は、台風被害で運営が困難となり2010年に閉園した四国の動物園から引き取った。おやつの時間になると、檻越しに山本園長のそばに来て、直接手からおやつを受け取る。その姿は猛獣とは思えないほど穏やかで可愛い。けれど、誰もができることではない。山本園長への絶対的な信頼があるからできることなのだ。どの動物たちも山本園長が大好きで信頼を寄せていることがわかる。特に、人間にもっとも近いおばあちゃんチンパンジーのモンちゃんは、山本園長への愛情表現がすごい。園長の手を愛おしそうに触り、グルーミング(毛づくろい)のような行為をする。仲の良いチンパンジー同士が絆を深めるために行うと言われているが、そんなことをするのはもちろん山本園長にだけ。他の人が近寄ると危険な猛獣であることに違いはない。しかし、このような信頼関係が簡単に育まれたわけではない。山本園長は、何度か傷を負い、何針も縫う怪我をしてきたが、今ではすっかり家族のようだ。すべての動物たちに愛情を注ぎ、動物たちを見つめるその眼差しが本当にあたたかい。来園者によるストレスがかからないよう、見られたくなければ、飼育舎の中はすぐに隠れることの出来るつくりになっている。また、チンパンジーのモンちゃんがストレスを感じないよう、さまざまな工夫も凝らされている。モンちゃんは毎日2回、大きなテレビで時代劇のドラマを観るのが大好きだ。お気に入りは、「暴れん坊将軍」と「水戸黄門」。テレビを見ながら、木の枝で爪の掃除をしたり、歯の隙間を掃除する姿は、まるで人間のようだ。愛情深く感情豊か、知能の高い動物であることが改めてよくわかる。

モール内のライオン

これまで数多くの動物の命を救ってきた大内山動物園だが、2019年に山本園長が引き取った、 ライオンのリオン君はSNSでも話題になったライオンだ。移動動物園を営む事業者が、滋賀県にあるショッピングモールのテナントで、「めっちゃさわれる動物園」という名で室内ふれあい動物園を営業していた。小さな園内にはハムスターや小鳥、犬や猫、アルパカやナマケモノ、ワニやピラニアなど、数多くの種類を展示し、その中の目玉となっていたのがライオンのリオン君だった。猛獣がショッピングセンターという相応しくない場所で、極端に行動が制限される中、ガラス1枚を隔てた向こうに展示されていた。当然だが、そのストレスは相当なものであると誰もが容易に想像できた。ショッピングモールでの動物の室内展示は異様な光景だった。リオン君に限らず、そこで暮らしていた動物たちは、動物福祉が完全に無視された状態だった。そんな中、リオン君の額が傷つき流血している動画などが投稿され、「めっちゃさわれる動物園」の問題が注目され、事業者は批判を受けた。手洗い場などの設置さえもないふれあい動物園で、人獣共通感染症や動物福祉への意識も希薄。ショッピングモールの在り方にも大いに疑問を持ったものだ。

また、リオン君が世間に知られる前の2015年には、アビシニアコロブスとハクトウワシを無許可で飼育していたことが発覚し、その後送検、起訴、裁判を経て2018年12月に罰金30万円の有罪判決が出た。判決結果と世論の批判の声が大きくなったことで、その後2019年1月に「めっちゃさわれる動物園」は閉園した。それに伴い、 滋賀県から第一種動物取扱業の登録取消しの行政処分が下った。処分を受けると、5年間の動物園の営業資格が剥奪されるので、営業することはできない。しかし、これでやっと廃業かと思いきや、そうではなかった。2021年には、よく似た名前で滋賀県に室内ふれあい動物園がオープン。事業者はその身内が代表となっている別会社だ。会社の登記だけを変えて、ほぼ同じ状態で営業している。書類さえ問題なければ自治体は登録させてしまうのだ。これが法律の不完全さである。臭い、汚い、騒がしい、日の当たらない狭い室内動物園は、動物の幸せの基本である、動物福祉はまったく無視。ストレスの大きさが窺える常同行動を繰り返す猿、障害物のせいで自由に動くことができないアルマジロや亀もいた。さまざまな野生動物の中に、猫まで展示している始末。とにかくすべての動物たちの環境エンリッチメントへの配慮を感じない。動物にとって地獄のような施設である。

毎年1億5000万円の赤字

そんな閉園前のショッピングモールにいたリオン君だったが、行き場を失い大内山動物園に引き取られた。山本園長が近づくと、檻越しにスリスリと甘えるような仕草をしたり、お腹を見せて寝転がる。大内山動物園のネコ科の野生動物たちは喉を鳴らし、みんな猫のような姿を見せる。

野生動物にとって、動物園という不自然な環境の中であっても、ストレスを感じないよう、ありったけの愛情を注ぎ、動物たちが快適に暮らせるよう努力をしているからこそだ。山本園長のそんな動物福祉への高い意識は、山羊や鹿の飼育からも見てわかる。山羊と鹿のために動物園の向かいの山を買い、放牧場にした。飼育舎と山は自由に行き来でき、他所へ脱走しないよう山には柵を作った。動物の心身の健康のため、動物本来の自然な行動ができるよう環境の充実に工夫を凝らしている。こうした事情と環境整備のため、園内は拡張と増築を進めてきた。引き取るのは動物園の事業者からだけではない。一般人から持ち込まれたペットのウサギなども多い。園内の事務所のある建物には、捨てられた犬猫の飼育施設もある。事業者も一般飼い主も、その命に対する責任をまっとうできないものが本当に多いのだ。 動物福祉の充実を図れない動物園など存在すべきではないし、動物を単なる金儲けの道具にすべきではない。そのような社会や市場が、無責任な一般飼い主を生み出すことにもつながっている。社会が変わらないと不幸な動物は後を絶たない。

大内山動物園は自治体などからの支援や助成金は得られない。従業員約30人の人件費や餌代、維持管理費など、毎年約1億5000万円の赤字だそうだ。動物園の個人経営はそれだけ厳しいものなのだ。それでも山本園長の愛情と尽力で、素晴らしい環境を維持どころか、進化させてきた。全国には公営・民営の多くの動物園がある。しかし、動物園においては終生飼養の責任をまっとうできない時、動物たちの処遇に対するサポートがまったくない。野生動物を引き取ってくれる施設は極端に少ない。そんな社会で今の時代、動物園が存在する意義は何なのか、それ自体を考えさせられる。その責任をまっとうできない皺寄せを、個人のやさしさと力量だけに押し付けていいのだろうか。大内山動物園は、人のためではなく、動物のためにある動物園だ。その上で、人が癒やされたり楽しんだりしている。動物園に遊びに行くことで、動物たちの幸せを応援できる。また、サポーター会員となって応援もできる。大内山動物園の存在は、これからの動物園の在り方や、その存在の是非について、多くの社会的課題を投げかけている。 (Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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