なぜ米ドルは急落したのか?超円安の「日銀犯人説」や「構造説」の誤解

米ドルは、11月10日(木)に発表された米10月CPI(消費者物価指数)をきっかけに、一時140円を割れるまでの急落となりました。

10月に、1990年以来、約32年ぶりの150円を越える米ドル高・円安となった時には、「新たな円安時代」においてまだまだ通過点のような論調も少なくありませんでしたが、ちょっとムードが変わったのではないでしょうか。しかも、それは日銀の金融緩和が不変の中で起こったということも、じつは重要だったのではないかと考えます。

今回は、記録的な「超円安」が展開する中で広がった、日銀の金融緩和が主因だといった指摘、構造的な円安なのでまだまだ続くといった考え方などは、やはり「間違い」だったのではないかといった視点で再検証してみたいと思います。


なぜ米ドルは急落したのか?

私は、[前回の記事](で、「歴史的円安が展開しているのは日銀が金融緩和を続けているためで、それが変わらないと円安も変わらない」といった考え方は違うと述べました。

実際、日銀の金融緩和は変わっていませんが、上述のように11月10日(木)の米CPI発表をきっかけに、米ドル/円は146円台から、ほんの2営業日で138円台まで米ドル急落、円急騰となったわけです(図表1参照)。

では、なぜ日銀の金融緩和が変わらない中でも円安から急に円急騰となったのか。これについて、私はそもそも日銀の金融政策を反映する金利で、今回の円安は全く説明できない、今回の米ドル高・円安は米国の金融政策を反映する米金利と連動してきたため、米金利次第で米ドル高・円安が変わる可能性もあるとの見方を示しましたが、少なくともこれまでのところ、そんな見方は正しかったと言えるのではないでしょうか(図表2、3参照)。

つまり、日本の金利は大きく変わらない中でも、CPI発表を受けて米金利が比較的大きく低下すると、10月には150円を越えるまで上昇していた米ドル/円は、一転して140円を割れるまで米ドル急落・円急騰となったわけです。

為替相場は循環するという「真理」

専門家の間でも、つい最近まで「この円安は、日本の経済構造を反映した結果であり、そんな経済構造を変えなければ、150円の円安も通過点に過ぎない」といった指摘が目立ち始めていましたが、そんな指摘についても改めて吟味する必要が出てきたでしょう。

「歴史的な円安でも1ドル200円にはならない理由」というタイトルで書いた前々回の記事において、米ドル/円は循環するものであり、その意味では既に今回の円安もいつ終わってもおかしくない段階に入っているとの見方を示しました。

米ドル/円が循環するというのは、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)かい離率で見ると分かりやすく、1980年以降で見ても、5年MAプラスマイナス30%の範囲でおおむね上下動してきました(図表4参照)。これで見ると、米ドル高・円安もいつ終わってもおかしくない段階を迎えていたわけです。それが、今回の米CPI発表をきっかけに、ついに円安から円高への転換となったのか、そういった観点での注目になるのではないでしょうか。

為替相場は循環するもの−-それは為替相場を見る上でとても重要な「真理」の一つではないかと私は考えています。というのも、少なくともこれまでは、循環的な限界に達すると、むしろ「新時代の始まり」として、まだまだ円安(円高)がありうるとの見方がほとんど一般化しながらも、結果的には外れるということを繰り返してきた印象が強いからです。

とくに株式相場の個別銘柄などとは異なり、主要な為替相場が循環するのは、相場が過度に振れると、逆方向に戻ろうとする反作用が高まることが主因と考えられました。具体的には、円安が広がるほどに、基本的には輸出やインバウンドが増えて、それに伴う円買いの増加により円安は止まり、円高に反転することになるでしょう。

ところが、この点が今回の場合は、いわゆる「コロナ禍」でのエネルギー価格の急騰、それは原材料の輸入依存の高い日本にとってはむしろ輸入額の増加要因となったでしょう。それどころか、コロナ禍による行動制限は、円安とインバウンドの関係を遮断するところとなりました。以上のような「コロナ禍」要因も、米ドル/円の循環要因に支障を来すことになった可能性はあるでしょう。

ただし、原油価格などエネルギー価格は下落に転じ、そしてインバウンドも再開しました。そういった中で循環的に円買いがいよいよ拡大し、円安を止めて円高へ転換するといった水面下での変化が起こっている可能性も注目されるところでしょう。

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