熊楠の世界観が狂言に 田辺市で新作披露

観客を楽しませた新作狂言「熊楠と粘菌様」(18日、和歌山県田辺市新屋敷町で)

 第2回特別公演「田辺能」(田辺青耀会主催、紀伊民報など後援)が18日、和歌山県田辺市新屋敷町の紀南文化会館大ホールであり、世界的な博物学者、南方熊楠を題材にした新作の大蔵流狂言「熊楠と粘菌様」が初披露された。

 能楽師の大倉流小鼓方、上田敦史さん(49)=兵庫県丹波市=が書き下ろした。上田さんはこれまで「尼比恵(あまびえ)」や「清姫淵(きよひめぶち)」といった能も作り、田辺市で披露している。

 新作狂言は、神社合祀(ごうし)政策によって、闘雞神社裏の山の大楠が伐採されたのを知った熊楠が山に駆け付け、そこで神格化した「粘菌様」と出合う。粘菌様は「愚かな人間め」と神通力で懲らしめようとするが、自然を愛する熊楠には一向に効かず、熊楠が森林を守ろうとするものだと分かり、意気投合し、喜び合うという内容。

 上演に先立ち、上田さんは、南方熊楠顕彰館の学術研究員、土永知子さん(62)と対談し、粘菌が持つ力や熊楠の自然保護について語り合った。

 上田さんは「どうしても人間は、人間の方が自然より上だという潜在意識を持っている。自然は人間の都合に合わせて変えていいのだと。その一端が神社合祀みたいな愚策に出たと思うが、それを伝統芸能を通して一回考えてみようと、神様になったような粘菌が現れると、どんなやり取りになるのかなという発想で作った」と語った。

 狂言が始まると、観客は舞台で繰り広げられる世界に見入り、時折笑いも起きていた。父と鑑賞に訪れた田辺第二小学校5年の奥邨依央さん(10)は「狂言を見るのは初めて。言葉は難しいけれど、動きとかが面白かった」と楽しんだ様子だった。

 ロビーでは顕彰館の協力による変形菌(粘菌)の展示もあり、来場者が興味深く観察していた。

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