藤井風さん効果 里庄の知名度向上 ファンら観光客増 町財政に好影響

つばきの丘運動公園にある町PRコーナー。藤井さんのメッセージやサインなどが展示され、県内外の観光客らが訪れている

 岡山県里庄町出身のシンガー・ソングライター藤井風さんの活躍などを受け、同町の知名度が全国的に高まっている。ファンを中心に観光客が増え、町のキャラクターグッズの売り上げは3年前の100倍以上に。ふるさと納税の寄付も活発化するなど町財政にも好影響を及ぼし、町おこしの新たな資源となっている。

 特産化が進む食材・マコモタケの販売やステージ発表、陶芸や絵画などの作品展…。3日に同町で開かれた町産業文化祭は、親子連れら約2800人(主催の実行委発表)でにぎわった。会場には、遠くは東京や神奈川、福岡県などから訪れた人の姿も。藤井さんのファンという主婦=和歌山県白浜町=は「インスタグラム(写真共有アプリ)で知って参加した。里庄はアットホームな雰囲気で大好き」と笑顔を見せた。

“聖地巡礼”

 里庄町は倉敷、福山都市圏のベッドタウンとして発展してきたが、町外から人を呼べる施設は「日本現代物理学の父」と呼ばれる仁科芳雄博士(1890~1951年)の生家など数えるほど。町面積は約12平方キロと県内27市町村で2番目に狭く、町によると営業中の宿泊施設はビジネスホテル1軒のみという。

 転機は藤井さんがブレークした2020年。以降、ミュージックビデオやテレビ番組で地元の「つばきの丘運動公園」や商店などが取り上げられ、“聖地巡礼”にやって来る人が急増した。

 役場や同公園内には、藤井さんら町出身のミュージシャンが町に寄せたメッセージなどを展示した「町PRコーナー」も設けられ、連日にぎわう。役場を訪ねた人に注目されているのは町のイメージキャラクター「里ちゃん」などのグッズ。缶バッジやミニタオル、ポロシャツといった10種類が並ぶ。

 4月から10月までの売り上げは203万8800円と、19年度(1万8450円)の約110倍に増加。ふるさと納税も、返礼品を充実したことに加えてファンからとみられる寄付が相次ぎ、22年度の総額は10月末現在、約1億6千万円で前年同期(約8300万円)の倍近くになっている。

若者後押し

 町はPRコーナー設置をはじめ、今回の産業文化祭にも町出身のシンガー・ソングライター千里さんを招くなどご当地アーティストを全面的に応援する。それ以前も、デビュー前の藤井さんが17、18年に町内の夏祭りでステージに立ち、町民が熱心にエールを送っており、町ゆかりの若者を後押しする地域の熱意が今のにぎわいの背景にある。

 加藤泰久町長は「町がここまで注目されているのはあくまでアーティストの魅力。今後も訪れた人をもてなすことに主眼を置き、町の魅力を知ってもらう取り組みを続けたい」と強調する。

 町は20年度から10年間の第4次町振興計画で、町と継続的な関わりを持つ「関係人口」の増加を基本方針に掲げる。振興計画作成に向けた審議会で会長を務めた岡山大大学院の中村良平特任教授(地域公共政策)は「経済効果も含め、地域活性化にまたとない“追い風”が吹いている。来訪者に里庄ファンにもなってもらうことが地域のブランドイメージをさらに高めることにつながる」と指摘する。

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