苦境の皮革加工業界、技術と製品の魅力で再興を目指す

 かつて隆盛を誇った日本の皮革加工業は、いま厳しい生き残り競争の渦中にある。

 バブル崩壊後、皮革製品の需要が減少し、海外への生産シフトでシェアは縮小が続く。さらに、加工現場では人手不足や後継者難も深刻で、加工業者の数は減少をたどっている。

 それでも多彩な加工技術と細やかな対応を武器に製品の安定供給を支えている。環境に配慮しながら、皮革本来の良さを追求する皮革加工業者の現状を取材した。


   

豚革輸出などで隆盛も、平成に入り一転

 皮革加工は、動物の皮を鞣(なめ)した後、加工が始まる。主に皮革の表面に凹凸を加える型押し、穴模様を付けるパンチング、革を希望の厚みにスライスする革漉(す)きなどがあり、1970年代の最盛期は都内でも墨田、葛飾、足立に多くの加工業者が集った。

 昭和の時代は、電車のつり革や自転車のサドルにも革が使用されていた。また、洋服や鞄向けの豚革も欧米を中心にニーズが高く、皮革業界は活況を呈した。

 業界関係者は、「当時は徹夜作業もしばしば。1カ月で約5000万円の売上があったこともあり、ボーナスが年4回あった」と往時を懐かしむ。

 だが、平成に入ると風向きが変わる。1980年代、多くの学校で制服が学生服からブレザーに移り、学生鞄は革製から合繊素材のスマートなスクールバッグに替わっていった。

 生徒も親も、重い通学鞄から安くてデザインもスマート、軽量な鞄を求めた。皮革需要を支えたランドセルも、少子化で細り始めた。

 そこに人件費が安い中国などが皮革加工に乗り出し、国内業者は苦境に追い込まれた。日本の皮革需要は豚革輸出にも支えられていたが、中国などにシェアを奪われ、1990年代半ばに入ると急激に落ち込んだ。

 とはいえ、国産の皮革製品を愛用する人も一定数はいた。だが、2008年のリーマン・ショックがとどめを刺した。賃金が上がらず、消費者は低価格志向に大きく傾いていった。

皮革加工業界

‌様々な加工を施す(墨田革漉工業)

小回りの利いた対応が不可欠

 ジワジワと需要が減少をたどり、そこに「新型コロナウイルス」感染拡大が襲った。東京都内に本社を置き長年に渡って型押しやシワを伸ばすアイロン技術が専門の皮革加工業者は、受注減や後継者難から破産に追い込まれた。また、コロナ禍の直撃で業績不振に陥ったアパレル会社に、業況悪化が連鎖する皮革加工業者も相次いだ。

 苦境が続く皮革業界で、存在感を示す企業もある。多彩な加工技術で知られる墨田革漉(かわすき)工業(株)(TSR企業コード:290739306、墨田区)だ。同社は顧客の要望に沿った加工で、信頼を獲得している。

 牛や豚以外の動物の皮革加工のほか、近年はアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から植物性由来の素材の加工依頼も増え始めている。

 「その場で数枚を加工し、お客さんに渡す場合もある」(同社担当者)と、小ロット注文にも即時対応し、全国のアパレルメーカーや問屋、デザイナーのモノ作りを支えている。

輸出は輸入の「わずか1%」

 現在、多くの皮革製品が日本に流入している。財務省貿易統計によると、2021年の革製品の輸入実績は8114トンで、輸出は100トンにも満たない。

 皮革業界の関係者は「メイドインジャパンの高い技術を駆使した製品と輸入品を比べ、国産品の良さや違いをわかる人が少ない」と嘆く。日本製が優秀でも、必ずしも消費者に響いていないのが現状だ。そこにはブランド力の壁が立ちふさがる。消費者に日本製の良さと同時に、ブランド力の構築とアピールが業界全体に求められている。

皮革にもサスティナブル製品が台頭

 近年の消費者は、モノ作りの背景や製品のストーリー性などに踏み込んだ提案を求める傾向がある。特に、サスティナブル(持続可能)の社会が叫ばれ、環境に配慮した製品が注目を集めている。

 大手革靴製造の(株)リーガルコーポレーション(TSR企業コード:291143717、千葉県、東証スタンダード)は、帝人フロンティア(株)(TSR企業コード:570926068、大阪市北区)が開発したリサイクル素材「ECOPET」(エコペット)を使用したレザーシューズを2021年春に発売した。同素材は回収された使用済みペットボトルをリサイクルし、自然環境の負荷低減につなげる素材だ。

 リーガルコーポレーションは、皮革製品以外でも2022年春にサスティナブルの観点からソールに廃棄プラスチックで作られたラバーチップを配合し、CO₂(二酸化炭素)の吸収量が多いコルクを中敷きに配したスニーカーを投入した。

 アウトドア用品の(株)モンベル(TSR企業コード: 570403030、大阪市西区)が富山県立山町とコラボしたナイロン素材のランドセルが反響を呼んだ。商品名「わんパック」として3色の一般注文を受け付け、2022年11月中旬から順次出荷を開始している。

 皮革製のランドセルより安価で軽く、アウトドアのノウハウが各所に詰め込まれている。品質への安心感が、消費者の心を掴んだ典型だろう。

 業界関係者は「皮革には他の素材にない高級感がある。長持ちする天然皮革なら子供に引き継ぐこともできる」と皮革製品の魅力を訴える。

 業界再建の道のりは険しいが、高い技術とレスポンス力で『メイドインジャパン』の復活を熱く見据えている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年11月21日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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