Qualcommの次世代SoC「Snapdragon 8 Gen 2」について知っておくべきこと

Snapdragon Summitで、Qualcommのモバイル機器担当のヴァイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるChris Patrick氏は、Snapdragon 8 Gen 1及びSnapdragon 8+ Gen 1の後継製品であり、Qualcommの高級スマートフォン向けフラッグシップSoCとなる「Snapdragon 8 Gen 2」を発表しました。

システム性能:CPUクラスター「Kryo」


システム性能から始めましょう。これは、新世代プロセッサの基準となる重要なトピックです。Qualcommは、昨年のSnapdragon 8 Gen 1よりもパフォーマンスの面において全てを改善しました。

新しいCPUクラスター「Kryo」は、1つのARM Cortex X3(メインコア/3.19GHz)と4つの高性能コア(2.8GHz)、3つの高効率コア(2.0GHz)がベースとなっています。

昨年の前世代では、1つのARM Cortex X2(メインコア/3GHz)と3つのCortex A710(2.5GHz)、4つのCortex A510(1.8GHz)を備えていました。

高性能コアの追加と、ARMv9 Gen 2アーキテクチャにより、パフォーマンスが大幅に向上します。また、CPU周波数の増加が最小限であるため、パフォーマンスがさらに向上します。

Qualcommは、この新しいCPUクラスターが、フラッグシップAndroidスマートフォンのマーケットリーダーであったSnapdragon 8 Gen 1よりも35%高速で、電力効率が最大40%高いと推定しています。

電力効率40%という数値は驚くほど高く、QualcommはそれがKryo CPUの新しいマイクロアーキテクチャによるものであると主張しています。より明確な説明が無ければ、これは最良のケーススタディに基づいていると仮定し、今後のベンチマークでさらなる詳細が明らかになるかもしれません。

新しいKryoは8MB L3キャッシュを備えており、前世代の6MB L3キャッシュよりも33%増加しています。キャッシュサイズを大きくすると、高価なDDRメモリアクセスを可能な限り回避出来ます。

新しいチップは、最大4200MHzのLP-DDR5Xメモリと最大16GBのメモリ密度をサポートします。

人工知能(AI)エンジン – Snapdragon Smart


プロダクトマーケティング担当のシニアマネージング・ディレクターを務めるFrancisco Cheng氏は「Snapdragon 8 Gen 2にとって”最も重要な領域”の1つは、人工知能です。このプラットフォームは、AI専用に構築されています。AI体験の中心にあるのは、Adreno GPU、Kryo、Sensing Hub、メモリ、Hexagonの複数のテクノロジーで構成されたQualcomm AI Engineです。」と講演の中で話しました。

AIモデルの処理に関連する全てのテクノロジーにおいて、Qualcomm AI Engineの第8世代は、パフォーマンスを最大4.35倍向上させ、ワットあたりのパフォーマンスを第7世代よりも60%向上させました。

AI コプロセッサ「Hexagon」

Qualcommは、「Hexagon」を”融合AIアクセラレータアーキテクチャ”と定義しています。つまり、Hexagonのロジックブロックは、複数のタイプの演算ユニットで構成されているということです。Qualcommは、Hexagon全体で複数の改善を行いました。最も注目すべき点は、Tensorアクセラレータのサイズが2倍に増加したことと、専用の電力供給システムが追加されたことです。

Hexagonの主要な変更は、より複雑なニューラルネットワーク、特にトランスフォーマーネットワークの周りで実行する機能に対処するために行われ、とりわけリアルタイムで多言語翻訳を提供します。

QualcommのMicro Tile推論は、ニューラルネットワークを”タイル”にスプライシングすることによって機能する新しい手法であり、Hexagonで利用可能な計算ユニットにディスパッチされます。Qualcommはあまり詳しくは説明しませんでしたが、私達の経験では、タイリングデータは通常、並列処理(タイルを並列処理してハードウェアの使用率を最大化する)を高め、キャッシュの一貫性とメモリ帯域幅を向上させるために利用されます。どちらも全体的なパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。

Qualcommは昨年、「全ての精度のサポート」(INT8、INT16、FP16)という名前の非自動混合精度テクノロジーに、INT8+INT16の混合精度(8ビットと16ビット間での自動切り替え)のサポートを追加しました。

新しいAIエンジンでは、Qualcommは「全ての精度」モードに4ビット整数精度(INT4)のサポートを追加したため、選択したAIアルゴリズムとニューラルネットワークモデルは、Hexagon計算ユニット全体でより高速に処理出来ます。その上、INT4により、Hexagonはより多くのモデルを同時に実行出来るようになります(並列コンピューティング)。

それぞれのAIモデルは、異なるレベルの精度を使用出来ます。一部のAI駆動型タスクは、より高速な処理のために低精度なINT4を使用して十分な結果を提供しますが、他のタスクはINT8、INT16、FP16等のより高いレベルの精度を必要とする場合があります(浮動小数点は16ビットから32ビット)。

Qualcommによると、新しいAIエンジンは「シネマティックモード」でINT4を使用して背景をリアルタイムでぼかしており、画質には目に見える違いはありません。これまでは、同様のAIモデルがINT8を使用していました。

デュアルAIプロセッサを搭載した第4世代Sensing Hub

Sensing Hubは、SoCの残りの部分がスリープ状態の時に機能する、独立した低電力マルチコアロジックユニットです。音声、オーディオ、センサー、通信等のコンテキストデータストリームをリアルタイムで処理します。

昨年、Qualcommは第3世代Sensing Hubの新機能であるAlways-on Cameraを導入しましたが、現在は「Always Sensing Camera」となりました。常時オンカメラにより、ユーザーがデバイスを見ていない時に自動的にロックしたり、ユーザーがスリープ状態のデバイスを見るたびにスリープを解除するということが可能になりました。

その新機能により、スマートフォンがスリープ状態(さらに画面がオフ)の時に、カメラが光学モジュールに配置されたQRコードを認識して処理出来るようになりました。以前のプロセッサでは、QRコードを処理するにはデバイスの電源がオンになっている必要がありました。

メモリが50%増加した2つ目のAIプロセッサの追加

Qualcommは、2つ目のAIプロセッサを追加することで、Sensing HubのAI処理能力を2倍にしました。さらに、内部メモリが50%増加しました。メモリ増加により、以前は利用出来なかった新しいAIモデルをシステムが実行できるようになっただけでなく、これまで存在していたものより優れたバージョンも実行可能です。

Qualcommは、新しいSensing Hubによって追跡される17のAIベースのアクティビティについて言及しました。私達の注意を引いたのは、(人間の)活動認識、音声アクティベーション、アイトラッキングです。

Hexagon Direct LinkとCognitive ISP
Qualcommは、GPUやメモリ、Spectra ISP等の他のロジックブロックに専用の物理通信チャネル(ハードウェア用語では双方向バス)を提供する機能「Hexagon Direct Link」を初めて導入しました。

Hexagon Direct Linkと合わせて、Qualcommは同社初となる「Cognitive ISP」を発表しました。これは、Hexagon内部に配置されたコンピューティングユニットで、Spectra ISPと連携してAI駆動のイメージング機能の処理を高速化します。

Snapdragon Sight:Cognitive ISPによってアップグレードされたカメラ性能


カメラのパフォーマンスを向上させるCognitive ISP

Hexagon AIコプロセッサに配置されたCognitive ISPは、カメラが捉えたピクセルを処理するSpectra ISPとリアルタイムで通信します。Cognitive ISPは、Spectra ISPから送信された画像に対してAIモデル「Multiple Semantic Segmentation」を実行し、Spectraに、画像内の識別された異なるゾーン(最大8つのセグメント)に様々な画像強調フィルターを適用するように指示します。

Cognitive ISPは、画像内の境界を特定し、物体を認識することが出来ます(顔、体、肌、衣服、空、植物、花、猫、ビーチ、建物等)。

「Realtime Segmentation Filterと呼ばれるこの新機能により、システムは色、コントラスト、および写真のあらゆる側面を画像の各セグメントに合わせてリアルタイムで正確に調整出来ます。開発者は、様々な構成とフィルターを選択出来ます。

つまり、Cognitive ISPは脳であり、Spectra ISPが筋肉と言えます。

Qualcommによると、新しいアーキテクチャにより、カメラシステムは以前よりもはるかに高速にセグメンテーションフィルターを受信し、ユーザーがキャプチャボタンを押す前であってもAIフィルターをリアルタイムで処理出来ます。

グラフィックスとゲーム:Snapdragon Elite Gaming


Snapdragon Summitで、Qualcommのモバイル機器担当のシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるChris Patrick氏は、新しいAdrenoグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)は、前世代よりもグラフィックスレンダリングパフォーマンスが25%向上し、電力効率が45%向上していると述べました。

これは、ゲーム等のGPUに依存するほぼ全てのアプリのパフォーマンス基準値が向上することを意味します。

Adreno GPU Display
Adrenoサブビジュアルシステムにはディスプレイも含まれており、Qualcommは、2021年3月にChina UHD Video Industry Alliance(CUVA)によって開始された新しいHDR標準規格である「HDR Vivid」のサポートを発表しました。HDR VividとAdaptive HDRは、HDR10やHDR10+、Dolby Vision HDRといったAdreno GPU Displayで既にサポートされているものに追加される最新フォーマットとなります。

ゲームでのAdreno GPU
Adreno GPUは、Unreal Engine 5のMetaHumanをサポートする最初のモバイルプラットフォームになります。MetaHumanは、ゲームデベロッパーが超リアルな人間をプログラムで作成出来るようにするフレームワークです。Unreal Engine 5のMetaHumanキャラクターは、以前はデスクトップゲームでしか使用出来ませんでした。これは、Qualcommのグラフィックスソフトウェアが成熟した証です。

新世代のAdrenoはVulkan 1.3に対応し、前世代と比較してVulkanのパフォーマンスが30%向上しています。

リアルタイムのハードウェアアクセラレーションによるレイトレーシング
ハードウェアレイトレーシングは、ゲームのリアリズムを次のレベルに引き上げるため、今回のイベントの目玉機能でした。計算能力が必要とされ、3Dシーン全体のグローバルイルミネーション等、より高度なレイトレーシング技術を高フレームレートでレンダリング出来るのは強力なゲームデバイスだけであることから、リアルタイムレイトレーシングをモバイルゲームに導入することは非常に重要です。

Snapdragon 8 Gen 2では、ゲーム開発者はソフトシャドウや正確なリフレクション等の基本的なレイトレーシング技術を統合することが出来ます。シャドウマップ等の従来のレンダリング方法では、レイトレースされた影に比べて正確性が低いため、ハードシャドウが生成されます。スクリーンスペースリフレクションのような従来のリフレクションレンダリング手法には限界があり、画面外のオブジェクトを反映出来ませんでした。レイトレーシングでは、それが可能になります。

つまり、レイトレーシングは、カメラからシーン内のオブジェクトを経由して最終的な光源に至る3D世界の光の経路を辿る事によって、現実世界での光の動作を模倣します。

ゲーム及びSnapdragon Studiosのグローバル責任者であるDave Durnil氏は、人気ゲーム「Justice Online Mobile」を使って、レイトレーシングを使用したバージョンと使用していないバージョンのデモを紹介してくれました。違いははっきりわかるもので、レイトレーシングを使用すると、水面と曲面のオブジェクトの反射がリアルになり、ソフトシャドウも見ることが出来ました。

彼は、「War Thunder Edge」や「Blue Reflection」のAndroid向けゲームは、Adrenoを使用したレイトレーシングに対応する予定だと語っています。

Snapdragon Sound:ヘッドトラッキングによるダイナミックな空間オーディオ


Qualcommのプロダクトマーケティング担当のスタッフマネージャーを務めるSarah McMurray氏は、ヘッドトラッキングを備えた空間オーディオ機能を紹介しました。これは、Snapdragon 8 Gen 2の新機能で、動きと音の連動の遅延が少なく、よりリアルな3Dサウンドを提供します。

空間オーディオは、没入型のゲームやマルチメディア体験に特化したテクノロジーです。

通信機能:5G AIとWi-Fi 7に対応


5Gモデム RFシステム
5G接続の改善は、3つの新機能を中心に展開されます。1つ目は、5Gシステム内に計算ユニット「5G AI プロセッサ」を統合することです。これは基本的に、5Gモデムのパラメーターを”調整”して、あらゆる状況で最適なパフォーマンスを得るのに役立ちます。これは、(人間の)モデムエンジニアが常に微調整を行うことに最も近いものです。AIは、信号エラーの修正にも役立ち、不要なデータの再送信を回避出来ます。

次に、4Xキャリアアグリゲーションにより、5G通信で利用出来るデータパイプラインが更に拡大し、ピーク時のダウンロード数が増加します(驚異の10Gbps)。

最後に5GのDSDA(デュアルシムデュアルアクティブ)機能により、同時に2つの5G SIMを使用することが出来ます。これにより、さらに多くのデータ並列処理への扉が開かれますが、もちろん、2つ分の通信料金を支払うことになる可能性があります。

Wi-Fi 7及びBluetoothの高速接続システム
Snapdragon 8 Gen 2は、今後の家庭用インターネットの標準となるWi-Fi 7に対応しています。Qualcommは、ハイバンドマルチリンクといった非常に高度な技術を使用して、利用可能なスペクトルを出来るだけ多く使用します。

Qualcommによると、同社のWi-Fiは5.8Gbpsに到達可能で、さらに重要なことに、持続的な方法で遅延を2ミリ秒未満に維持出来るそうです。低遅延であることは、有線イーサネットユーザーが最終的にWi-Fiに切り替えるきっかけとなるかもしれません。

この記事は、編集部が日本向けに翻訳・編集したものです。

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