病気や介護… 複雑な制度分かりやすく 「社会保障のトリセツ」出版 山下慎一さん・福岡大教授(諫早市出身)

「この本を役所の窓口に持っていって役立ててほしい」と話す山下教授=福岡市城南区、福岡大

 病気や失業、家族の介護など、いざというときに役立つ社会保障制度は? 長崎県諫早市多良見町出身で福岡大法学部の山下慎一教授(38)=法学=が、新著「社会保障のトリセツ」を出版した。人生のさまざまな場面で利用可能な社会保障制度を、イラスト付きで分かりやすく解説している。
 「複雑な制度を正確に分かりやすく伝えようと苦心した」という同書。最初に「病気・けがをした」「介護を受けたい」など8種類の「お悩み別フローチャート(流れ図)」が載っており、読者の悩みや状況に対応する解説のページが、すぐに分かる仕組み。

「社会保障のトリセツ」で対応している悩み

 例えば「老齢になった」ことが悩みの場合。流れ図に沿って▽生活費が不安▽今もサラリーマン・公務員-と、当てはまる内容を順に選んでいく。すると「雇用保険」の制度のうち、定年後再雇用時に減額された給料の一部を穴埋めする「雇用継続給付」を解説したページに誘導される。
 解説部分は▽医療保険▽年金保険▽介護保険▽労災保険▽雇用保険など▽社会手当▽社会福祉▽生活保護など-の8項目に分けて収載。項目ごとに、制度や背景から多岐にわたる給付などの中身まで、細かに網羅している。
 山下教授は九州大法学部卒、福岡大講師などを経て今春から現職。専門は社会保障法。執筆のきっかけになったのは8年ほど前、実家で両親と同居している自身の祖母が、認知症を発症したときの経験だった。

 両親から「介護保険の使い方が分からない」と相談を受けた山下教授は要介護認定を勧め、自身も手続きに立ち合おうと帰郷。両親と一緒に市の相談窓口を訪ねた。ところが、自身は専門家なのに説明の内容がよく理解できなかった。
 さらに数年後、低所得者向けの介護保険サービス利用料の減額制度に気付かず、祖母が払わなくてもいいお金を支出していたことに気付いた。「日本の社会保障は法律の仕組みは良くできているが、詳細を知らない市民にはとても使いこなせない」と痛感した。

「社会保障のトリセツ」の表紙

 その後、プロスポーツ選手の引退後の社会保障などをテーマに研究。現場の選手が「社会保障が複雑過ぎて分からない」と苦労していることも分かった。「社会保障が必要な人に分かりやすく情報を伝えるのは、学者の使命」と考え、昨年執筆に着手した。
 制度の中には専門外の分野もあり、専門の研究者や自治体に問い合わせて徹底的に確認。豊富なイラストや図の作成はデザイナーの妻が担当し、出版にこぎ着けた。山下教授は「社会保障制度の活用はいろんな場面で役立つ国民の権利。一家に一冊備えてほしい」とPRしている。
 弘文堂刊、A5判160ページ、1485円。

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