NASA新型宇宙船オリオンがセルフィー撮影 日本の探査機オモテナシとエクレウスの状況は?

【▲ 太陽電池アレイに取り付けられているカメラで撮影された新型宇宙船「オリオン」のセルフィー(Credit: NASA)】

こちらは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が11月18日に公開した新型宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」のセルフィーです。オリオン宇宙船のサービスモジュール(European Service Module)に4基備わっている太陽電池アレイの1つに取り付けられているカメラを使って撮影されました。側面に大きく描かれた「NASA」の赤いワームロゴが目を引きます。

オリオン宇宙船はNASA主導の月面探査計画「アルテミス」で宇宙飛行士が月へ向かうために用いられます。NASAは「アルテミス1」ミッションで無人飛行試験を行うため、日本時間2022年11月16日15時47分(米国東部標準時同日1時47分)に米国フロリダ州のケネディ宇宙センター39B射点から、新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」初号機を使って無人のオリオンを打ち上げられました。月周辺まで往復飛行した後、オリオンは日本時間12月12日3時頃に地球へ帰還する予定です。

関連:NASA「アルテミス1」オリオン宇宙船は月に向けて飛行中 日本の探査機もロケットから放出

【▲ アルテミス1ミッション4日目に新型宇宙船「オリオン」の光学航法カメラ(ONC)で撮影された月(Credit: NASA)】

NASAによると、オリオン宇宙船は日本時間11月21日3時9分に、月の重力の影響が卓越する月の作用圏(sphere of influence)に入りました。同日3時25分の時点では地球から23万2683マイル(約37万4467km)、月から3万9501マイル(約6万3570km)のところを飛行しており、同日21時57分に月の裏側で月面に約80マイル(約128km)まで接近します。

オリオンは月の公転方向に逆行する安定した軌道「DRO」(Distant Retrograde Orbit、遠方逆行軌道)を1週間ほど飛行することになっていて、DROへ入るために2回の軌道修正噴射が計画されています。11月21日の月最接近時には、このうちの1回目となるエンジン噴射が日本時間21時44分に実施される予定です。

【▲ アルテミス1ミッションの概要図。2022年11月21日21時44分にはDRO(図中10~12の灰色で描かれた軌道)へ入るための1回目のエンジン噴射(図中9)が実施される(Credit: NASA)】

なお、日本政府とNASAは11月18日に、「月周回有人拠点「ゲートウェイ」のための協力に関する文部科学省と米航空宇宙局の実施取決め」に署名しました。この取決めは2020年12月に締結された「民生用月周回有人拠点のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国航空宇宙局との間の了解覚書」に基づくもので、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士1名がアルテミス計画の拠点となるゲートウェイに滞在する機会を得たことになります。

NASAによると、日本はゲートウェイを構成する国際居住モジュール「I-HAB」の重要なコンポーネントや、ゲートウェイの各モジュールに搭載されるバッテリーを提供する他に、新型補給船「HTV-XG」による補給ミッションも実施する予定です。

関連:日本、NASAと月周回有人拠点「ゲートウェイ」の開発参加へ正式合意

■EQUULEUSは第1回軌道遷移に成功・OMOTENASHIは21日夜が月面着陸のラストチャンス

11月16日のSLS初号機打ち上げでは上段(第2段)の「ICPS」に10機の小型探査機が相乗りして打ち上げられ、オリオン宇宙船の分離後に順次放出されました。このうちの2機は日本の「OMOTENASHI(オモテナシ)」「EQUULEUS(エクレウス)」です(探査機について詳しくは以下の関連記事をご覧下さい)。

関連:日本の小型探査機「おもてなし」と「エクレウス」NASA新型ロケットに相乗りして間もなく打ち上げ

【▲ SLS初号機で打ち上げられた小型探査機「EQUULEUS(エクレウス)」(Credit: JAXA)】

地球から見て月の向こう側にある地球-月系のラグランジュ点「L2」への飛行を目指すEQUULEUSの運用チームは、第1回軌道遷移(DV1)を予定通り日本時間11月18日8時14分~11時26分にかけて実施し、所定の軌道制御が行われたことが宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって翌19日に確認されました。

EQUULEUSはICPSから放出された時点では月をフライバイした後に地球-月系から脱出する軌道にありましたが、軌道遷移が行われたことで地球-月系に留まった状態でL2点を目指すことができるようになりました。

いっぽうJAXAによると、OMOTENASHIは11月16日にICPSから放出された後、通信装置や姿勢制御装置などの電源が計画通り自動的にオンになったことが確認されているものの、太陽捕捉制御(バッテリーを充電するためにリアクションホイールを使って太陽電池面を太陽に向ける姿勢制御)を行う前にガスジェット装置(RCS)を使って機体の回転を抑えるはずが、回転数が大きな状態のまま太陽捕捉制御のモードに入ってしまったとみられています。

11月16日夜にNASAディープスペースネットワークのマドリード局を介して受信されたデータによると、OMOTENASHIは太陽に対してほぼ反対側に太陽電池面を向けたまま、約4.5秒周期で1回転していたといいます。この状態ではリアクションホイールを使った姿勢制御ができないため、運用チームはガスジェット装置を噴射させて回転の制御を試みましたが、バッテリーの電圧が不足したためOMOTENASHIの送信機がオフになり、11月21日10時の時点でもOMOTENASHIからの電波は受信されていません。

【▲ SLS初号機で打ち上げられた小型探査機「OMOTENASHI(おもてなし)」(Credit: JAXA)】

OMOTENASHIは従来の月探査機のようにエンジンで減速してから着陸する「ソフトランディング」よりもハードではあるものの、ロケットモーターを使って機体を減速させた後に月面へ着陸する「セミハードランディング」を目指して開発されました。OMOTENASHIの運用チームによると、当初予定されていた着陸はできなくなったものの、もしも11月21日のうちに通信が回復すれば、月に最接近するタイミング(11月21日24時頃)でロケットモーターを点火して機体を減速し、月面に自由落下できる可能性が残されているといいます。

機体の回転が変化して太陽電池に太陽光が当たればシステムが再起動し、電波の送信も自動的に再開することから、運用チームは月面着陸の最後のチャンスを逃さないために準備を整えているとのことです。

アルテミス1、OMOTENASHI、EQUULEUSについては、随時情報をお伝えしていきます。

Source

文/sorae編集部

© 株式会社sorae