“謙虚で速い”19歳の新鋭現る。プジョー9X8で新人最速のヤコブセン「大きな夢が実現」/WECルーキーテスト

 11月13日にバーレーンで行われたWEC世界耐久選手権のルーキーテスト。WECに参戦する各チームは、シリーズ内外のさまざまなドライバーを走らせることができるが、ハイパーカークラスで目立ったタイムを残したのは、プジョー・トタルエナジーズからエントリーしたデンマーク籍の19歳、マルテ・ヤコブセンだった。

 WEC最終戦翌日に計5時間行われたセッションで、ルーキー最速タイムをマークしたヤコブセンは、「1秒1秒をエンジョイした」と走行を振り返っている。

 ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズのLMP3チャンピオンであるヤコブセンは、94号車プジョー9X8をニコ・ミューラー、ヤン・エイラッシャーとシェアしてドライブ。午後のセッションで1分50秒222という自己ベストタイムをマークした。

 ヤコブセンはハイパーカークラスのチームとのテスト走行について「素晴らしい一日だった」と評している。

「僕は、トム・クリステンセンらがLMP1マシンを走らせるのを、さらに古いプジョー908などが走るレースを見て育った」と2003年生まれのヤコブセンは語った。

「そして、僕がキャリアのこの時点でそれらと同様のマシンを体験できるなんて、大きな夢が実現したみたいだよ。このような機会を与えてくれたプジョーとステランティス・モータースポーツに感謝している」

「とても楽しかったし、1秒1秒をエンジョイしたよ」

ヤコブセンがWECルーキーテストでドライブした94号車プジョー9X8

■LMP3との大きな違いは重量と直線スピード

 昨シーズン、ELMSとIMSAでLMP3のリジェJS P320・ニッサンをドライブしたヤコブセンは、プジョーのシミュレータードライバーであるエイラッシャー、および93号車プジョー9X8で走行したフォーミュラEドライバーのマキシミリアン・ギュンターをラップタイムで大きく上回る素晴らしいパフォーマンスを披露した。

 経験豊富なふたりのドライバーを相手に印象的なフォーマンスを見せたヤコブセンだが、他の“ルーキー”たちと比べた自分のスピードについては、控えめなコメントを残している。

「公平を期するために、他のドライバーのラップタイムはあまり見ていないんだ」とヤコブセン。

「自分の仕事に集中していた。言い訳をしたり、他のことを非難したりするのはいつでもできることだけど、僕はそういう人間じゃないからね」

「通常、僕は自分の仕事に集中するのが好きなんだ。少なくともベストを尽くそうとしたことが分かっていれば、それ以上のものを求めることはできない」

「後に分析し、改善し、充分ではなかったときには、そこから学ぶ必要がる。 でも、僕はただ自分のことに集中して、すべてを出し尽くそうとしただけなんだ」

 ヤコブセンは、普段レースをしているLMP3マシンとプジョーのハイブリッドハイパーカーとの重量差が、2台のマシンの対比として際立っていた、と語った。彼はまた、9X8の直線スピードにも感銘を受けたという。

「もちろん、LMP3とは多くの部分で異なる」とヤコブセン。

「ハイブリッドシステムが搭載されていることで、車重がより重いことが大きな違いだと思う。もちろん、直線スピードはLMP3よりずっと速いし、加速もハイブリッドシステムとターボが効いている分、速い」

「でも、中低速コーナーでは、ユーズド・タイヤと満タンでのメカニカルグリップがLMP3より劣るように感じることがあるんだ」

「タイヤと燃料、それにクルマが重くなったことも影響しているのだろう。それが大きな違いだった」

■タイトル決戦目前でのテスト参加打診

 ヤコブセンは、10月のELMS最終戦ポルティマオの1週間半前に、プジョーからテスト参加の打診があったことを明かした。

「チームとオンラインミーティングをしたんだ。彼らは明らかに僕と話すことを喜んでいたし、僕はあまり馬鹿げたことを言いすぎないようにした」

「それからベルサイユのワークショップに行き、シミュレーターを操作して、より良い印象を持ってもらうことができた。彼らはそれに満足し、この機会を与えてくれたようだ」

 その後のルーキーテストの見通しについては、まだELMSのタイトル決定戦であるポルトガル戦に集中しなければならなかったこともあり、できる限りリラックスして臨むようにしたという。

「僕はまだ若いけれど、LMP2チームや他のLMP3チームでは、チームが連絡してきてすべてを約束し、テストがほぼ保証されたとしても、少なくとも50パーセントは何か他のことが起こり、他の人が選ばれるという経験をたくさんしてきた」と、ヤコブセンは語った。

「それがモータースポーツというものだと思うので、冷静になろうと努めた。もちろん、彼らがコンタクトしてきてくれたことは大きかったけど、テストの契約が結ばれてすべてが完了するまでは、あまり興奮することはなかったんだ」

「特に、週の初めにミーティングをしたときには、その週末にポルティマオでELMSのチャンピオンシップを戦うことが頭の片隅にあったからね」

「たとえそれが大きなチャンスであり、僕のキャリアにとって大きな出来事であったとしても、ELMSというチャンピオンシップを戦っているのだから、難しかったけど(テストのことは)忘れようとしたんだ」

「実際、月曜日と火曜日はポルティマオでLMP2のテストをしていたので、デンマークに帰国した水曜日になってから、その翌週の月曜日にシミュレーターでやるべきことに集中し始めたんだ」

トップチェッカーを受けLMP3ウイナー&チャンピオンとなったクール・レーシングの17号車リジェJS P320・ニッサン(ELMS最終戦)

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