本腰を入れて市場を潰しにかかる北朝鮮の「計画経済回帰策」

新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、2020年1月16日に運行を中断した北朝鮮と中国を結ぶ国際貨物列車が運行を再開してから1カ月あまり。

大量の食料品が輸入され、市中にも出回るようになった。北朝鮮の市場で出回る商品の多くが中国製と言われているだけあり、活気を取り戻しつつあるかと思いきや、依然として寒風吹きすさぶ状況が続いているようだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

道内最大都市の清津(チョンジン)の市場では先月から中国製の食用油、化学調味料、砂糖などの食料品の入荷量が増え、高騰していた価格が下落傾向にある。しかし、商人の懐は依然として寒いままだ。全然売れないからだ。

貨物列車で輸入された食料品は、国営商店で売られている。市場の商人はそこで商品を仕入れて売っているが、当然、売値は国営商店より高くなる。ただでさえコロナ不況で苦しい生活を強いられている人々は、市場ではなく国営商店を訪れ、少しでも安く買おうとするのだ。

「国営商店中心に物価が形成され、もはや商人が市場で儲ける時代は去りつつある」(情報筋)

コロナ前は、密輸で持ち込まれた大量の商品が売られ、その供給量に応じて価格が決まっていた。しかしコロナ禍で密輸に対する厳しい取り締まりが行われ、ようやく再開された貿易も、国主導で行われている。民間の業者に奪われていた貿易の主導権を、国が取り戻しつつあるということだ。

別の情報筋によると、朝鮮労働党咸鏡北道委員会は先月末、道内の貿易関係者を集め、過去とは異なり、国主導の貿易体系に従えとの内容で講習会を開いている。各機関、企業が先を争って貿易をしてきた過去20年間のやり方を打破し、それ以前のやり方に戻すというのだ。

問題は、市場の商人が儲からなければ、そもそも物が売れないという矛盾にある。清津の場合、市場での商売ではもはや生計が成り立たず、稼いだところで1日の食費にも満たない状況になっているという。北朝鮮の多くの国民が商業で生計を賄っている状況を踏まえれば、人々の購買力が落ちるのは当然の成り行きだ。

また、密輸された商品を全国各地に運ぶ商売も儲からなくなっている。全国の国営商店が、均一価格で商品を販売しているからだ。輸送費が加算され、国境から離れれば離れるほど価格が上がる従来の方式がもはや通じなくなったのだ。

当局は貿易の主導権を取り戻し、利益をすべて国庫に取り込もうとしているが、今後もうまくいくかは不透明だ。商品を買うには当然現金が必要だが、一般市民が現金収入を得るほぼ唯一の機会が、市場での商売だった。それで儲けられなくなったとなれば、店頭に商品は溢れているのに、誰も買えないという状況に陥る。

「国は配給もくれないのに、商業も国が主導していて、住民の生活苦はいっそうひどくなっている」(情報筋)

国は近年、過去数十年間行われてきた、違法ながらも皆が得をする市場経済への積極的な介入を避けてきた。それがコロナ流行の直前あたりから、かつての計画経済を取り戻し、市場経済はそれを補完するレベルに留めようとする姿勢を示すようになった。

だが、国営の職場から支給されるのは、現在の物価水準とはかけ離れた超の付く薄給。この給与水準が現実的に修正されない限り、計画経済への回帰は、単に国民を餓死に追い込むだけの政策にしかならない。

「計画経済で食糧問題が解決すればいいだろうが、住民たちはその可能性は低いと見ており、今の国の経済政策をあまり歓迎していない」(情報筋)

また、貿易関係者も国のやり方には懐疑的だ。

「貿易は信頼が大切だが、コロナ禍でほぼ3年間、中国の業者から商品を受け取っても、代金を払えなかったりしている。そんな状況で貿易機関の自主決定権を保証せず、国が勝手に貿易をすると言って貿易がどんな方向に流れるのか、果たして国家貿易主義に転換できるのか疑問だ」

トンジュ(金主、ニューリッチ)は、計画経済への回帰は失敗すると見越してか、国営商店で手当たりしだいに商品を買い占めて、市場で高値で売れるチャンスを待ち構えている。

こうした経済政策がいかなる結果を出すか、そう遠くないうちに答えが出るだろう。

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